第10話 ひな人形の怪(1)

私には二人の親友がいる。一人は小学校の頃に出会った。もう一人はまだもう少し先、大学で出会う。



小学校からの親友白羽根瑠衣しらはねるいは颯さんと秘密の結婚式を挙げたときにも家族以外で唯一彼女だけ招待した。


颯さんがあやかしだということを含め全て彼女に話したが、最初は信じなかった。

自分だって信じられなかったもん。信じられなくて当たり前だ。


そして兄と同じ事を言われた。「まさか、なんか間違いでもあったの?!」

「その台詞、お兄ちゃんにも言われたよ・・・。」

「そりゃそうでしょ!絶対騙されてるよ!」と、散々な言われようだった。


でも実際に会ったら、そンな事言ったなんて忘れたらしく、颯さんの美貌にうっとりして頬を真っ赤に染めながら「初めまして。白羽根瑠衣と言います。明日香の親友です。宜しくお願いします。」とか言って挨拶していた。


そんな瑠衣に颯さんは一瞬だけ瞠目した。不思議に思った私はどうしたのか聞いてみると、700年前に人身御供にされそうになっていた村娘にそっくりだという。きっと生まれ変わりなのだろう。

それを聞いた瑠衣も驚きを隠せなかったようである。本当に不思議な縁でつながっている。


そんな彼女が、とんでもない事態に巻き込まれたのだった。


****



瑠衣は今、母方の祖父母と生活している。


初めて出会ったのは、同じクラスになって隣の席になったからだった。

なんとなくこの子とは長い付き合いになる。そんな風に感じた。


仲良くなりたいと思って話しかけても目が虚ろで何も話さない。ただ怯えて震えているだけだった。

様子がおかしいと思って担任の先生に話したのがきっかけで瑠衣が家庭でどんな扱いを受けてたのか

が後で分かった。彼女は両親から虐待を受けてボロボロの精神状態だった。


身体に傷つけるのではなく精神的に追い詰める虐待。いわゆるモラハラだ。その過酷さは常軌を逸していたという。瑠衣は両親から離されて保護され、母方の祖父母に引き取られた。


一時的に精神を病んだ彼女は病院に入院した。その時に少しでも元気になって欲しいと思ってお菓子やぬいぐるみ、漫画本にゲームやおもちゃなどを持って母と一緒に足しげくお見舞いに行ったのが仲良くなるきっかけだった。


退院してから家へ遊びに来るようになった。霊水が大のお気に入りになったので、私が毎日水筒に入れて学校に持って行った。お寺の風景が気に入って絵を描くようになった。少しづつ心を開いて、話をしてくれるようになった。一歩づつ、一歩づつお互いを知って絆を深めていった。


今では心から信頼できる間柄だ。



瑠衣は美術部の部活が忙しく私は帰宅部だったので時間が合わず一緒に帰った事は無かった。

高校卒業後、彼女は都会の美術大学へ進学する。将来画家になるのが彼女の夢だ。


年が明けてしばらくしたある日、瑠衣がカフェに行こうと誘ってきた。

「どこ行く?」と聞くと、「ペンギン行こう」と言った。


ペンギンカフェはチーズケーキが絶品でコーヒーも美味しい。価格がセットで500円とリーズナブルなので私達にはちょうどいい。



「チーズケーキとコーヒー下さい」「私も」と同じものを注文した。



ケーキとコーヒーが来る前に瑠衣が話し始める。


「ねえ、明日香。人形って魂宿るっていうけれど、本当なのかな」


「う~ん、颯さんとお父さんに聞いてみないと何とも言えないけど、魂が籠りやすいということは聞いたことあるよ。何かあった?」


「ほら、3日前から歴史館で古いひな人形の展示やってるでしょ。昨日絵を描きたくて行ったんだ。20段飾りになってて、1000体くらいあってね。それはすごいんだよ。」


「うんうん。瑠衣が好きそうだね」


「壮観で、もう夢中になって描いてたんだ。そしたら閉館時間になってしまって。慌てて出たんだけど鞄忘れたのに気付いて取りに戻ったの。で、展示室の扉開けたら妙な違和感があってね。何だろうと思ってよく見たら、眼が瞬いてたの…。」


「え!全部?」


「うん。ものすごく怖くなって、鞄取って慌てて出た。」彼女はそういって震えた。


「それは・・。その後から何か変わったこととかある?」


「それが…悪夢を見るようになってしまってね。ものすごい数の人形が家まで来て私を見つめて、迫ってくるの。すごく怖い。」もしや、とり憑かれているかも・・・。


そう思った私はとっさに鞄からあるものを出して瑠衣に渡した。

「これあげるから肌身離さず持ってて!絶対離しちゃだめだよ!寝るときも側に置いてね。」


そう言って彼女に渡したのはうちのお寺の厄除け守り。しかも颯さんの強力なパワーも入っている私の為の特製お守りだがそんな事言ってられない。


「ありがとう。いつも身に着けていればいいの?!お風呂や、寝るときも?」


「うん。どんな時でも絶対にお守り離しちゃダメ!いつも側に置いてね。」

そう言い聞かせてその日はそれで帰った。そして自宅に帰って父と颯さんにあわてて話した。



「実は3日前から尋常じゃない邪悪な気配を感じていた。だがその気配がどこから来るのか分からなかったんだ。」


「颯さんでも分からない事があるんですか?!」


「ああ。魔物も私の事を認識しているから、気配を方々へ拡散させて場所が分からないようにしていたのだと思う。」


すると父も

「瑠衣ちゃんの命にかかわるかもしれない。

お守りを渡してあるなら今夜のところは大丈夫だと思うが、一刻も早く浄化しないといけない。」


「え!そんなに危険なんですか!」


「「かなり危ないね(よ)」」二人が同時に言った。


「歴史館には今夜行く。」「はい。ご一緒します。」と、二人の部屋に戻り早速支度を始めた。

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