第7話 悪因悪果(1)
悪因悪果
明日香は18歳になった。颯さんと相思相愛になり、毎日充実した日々を送っている。
来年には隣町にある憧れのS音大へ進学予定だ。
颯さんと魔物浄化にも少しづつ行くようになった。邪悪な気配を感じると全国どこへでも行く。
最初の頃は想像を超える魔物の姿に何度も気絶しそうになりながらも颯さんに助けられ、やっと慣れてきた。
***
初めて二人で魔物浄化をしたのは都会の海に近い場所だった。
戦国時代、城の暴君によって非業の死を遂げた何百匹もの動物たちを慰め供養している寺があった。
動物達は刀の切れ味を確かめる為と銃の的にされ犠牲になった。暴君は野良犬、猫以外にも、民が飼っていた犬、猫、馬も取り上げ、果ては狸、キツネ、鳥等も犠牲になったという。凄惨な最期を遂げた動物たちはゴミ屑の様に捨てられ放置された。
結果、動物達の魂は怨霊となって当時の人々に災厄となって降りかかった。天災、疫病による死者は数え切れず。更に戦争が悪化して、暴君は凄惨な最後を遂げた。動物達にした事そのままが暴君に還ったらしい。
この状況を鎮めたのは颯さんだった。そして、颯さんの姿を見る事の出来た僧侶に墓を作り供養するように伝えたという。
僧侶は自身の寺に民と協力して遺骸を集めて土に返し墓を建てて弔った。颯さんはその墓に結界を張って封印した。それから平穏が訪れた。
そんないわく付きの寺で結界が破れ、強烈な邪気を感じたという。
人間の墓とは別に、奥まった場所に動物の墓はある。現代でも毎日読経を行い手厚く供養していた。
ところが、若者の暴走によって結界は破られた。
***
この場所は心霊スポットとしても有名である。真夜中に度胸試しと称してやって来る人は後を絶たなかった。
そして今回。男女の若者4人が例に漏れず墓へ来た。
A「ここが動物の怨霊を鎮めているという墓か。想像していたものより何か陳腐だな。」
B「ただ単に土が盛られてて、古くて汚い墓石が立てられてるだけで何の変哲もない所だよね。」
A「怖いとか何も感じないよな。」
B「ほんとね。」
C「伝説ってだけで、本当は動物の死体とか埋まってないとか?」
D「あり得る~~。」
A「実はさ、俺、車にシャベル積んで持って来たんだ。掘って確かめてみようぜ。」
「「「マジ?!」」」
A「マジ。やる?」
B「いくら何でもそれは駄目だよ。怖いし。」
D「私も怖いし、それに後でバレて怒られる方がもっと怖い。」
C「俺、確かめてみたい。」
A「だよな。」
B、D「絶対やめた方がいいって!何が起こるか分からないよ!」
A「怖かったら離れて見てなよ。」
もう止められなかった。
そして、男2人はあろうことか土を掘り墓石を倒して壊すという暴挙に出た。当然、結界が破れた。
ゴゴゴ・・・。地の底から響くような不気味な音がした。
得体の知れない何かがゆらゆらと陽炎のように立ち、夜の闇よりも深い闇が辺りを
包み込んだ。
そして。その闇はうねうねと動き始め、刹那、巨大な蛇が姿を現した。
蛇は角が生えていて頭が二つに分かれていた。
若者たちは絶叫して逃げ出そうとしたが腰が抜けてその場にへたり込んだ。
蛇は若者たちをゆっくりと飲み込んだ…。
翌日、暴かれた墓の側で若者達の遺体が発見された。好奇心が引き起こした最悪の事態だった。
***
颯さんは異変を察知していち早く動いた。
私はオオカミに姿を変えた颯さんの背中に乗って一緒に行く。時速何百㎞出ているのかというスピードで走っているのでどこへでもあっという間に着く。
絶対新幹線越えのスピードだと自信を持って言える。
そのまま背に乗っているだけだと飛ばされてしまうので、結界を張って守ってくれる。
寺に着き、墓の様子を窺った。因みに私達の姿は見えない。
墓石の両横から土を掘り、幅も深さも1.5m程掘られていた。盛り土はぐずぐず崩れ、バランスを失った墓石が倒れていた。
「物凄い邪気が漂っている。だが姿が見えない。」
「どこかへ逃げたのでしょうか。早く見つけないと大変なことになりますよね。」
「近くにはいる。だが、気取られないようにしているようだ。封印した私の事を覚えているからね。強烈な邪気は消せないようだが。」
少しの間考えた私は、笛を手にする。
「吹いてみます。」そう言って、息を大きく吸い込む。
”鎮魂の詩”にしよう。
無になってひたすら奏でる。哀しく美しく死者を想う曲。
ゴゴゴ・・・。何処からともなく姿を現したその姿に、正気を失う一歩手前だった。
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