第7話「列車旅はお好きですか?」



「バレットが次に西のアジトに現れる…だぁ?」


「そうです!!」


「んなもんなんでわかる?」


ゆきは次のバレットの行動について話す為に、デリンジャーの部屋にバレルと共に訪れていた。


「何でって言われても………。」


まさかここがアニメの世界で私は貴方の末路を知っているなんて、言えない。信じて貰えないだろうし………。

モジモジとして理由を言わない女を見かねてデリンジャーは言葉を続ける。

「西のアジトなんざ狙ったところで何になる?西は最低限の設備しか置いてねぇ辺境だ。」


ソファに掛けながら足を組むその男の前に臆する事なく出る。


「西のアジトは海に面しており、商業の交易も盛んです。西のアジトを潰される事は後々海路が絶たれる布石となります。」


「…………。」


「海に面しているのは西のアジトだけじゃない。西のアジトより南西のアジトの方がより交易が盛んだろ?」


黙り込むデリンジャーに対してバレルはその事実を伝える。


「西のアジトより確かに南西のアジトの方が交易が盛んですが、西のアジトをーー」


「………………ふぅ、成る程。」


その男は納得したようにため息を漏らしながら私の言葉を遮った。


「つまり西のアジトを落とす事によって南西への補給路を絶つ、か?」


「?!」


「そうっ!!そうです!!さっすがデリンジャー様!」


「?!どういう事です?」


バレルは状況が理解出来ない。


「北西は燃料原産地だ。つまり。」


「中継地点の西のアジトを通過しなくては南西のアジトへの海路での補給路が絶たれるんです!!」

ドヤ顔で自慢気にデリンジャーとバレルを見やるゆきに対してバレルは不思議でならないと言う顔をした。


デリンジャーが私に近づく。ガチャッ。

顎の辺りに銃口を向けられる。


「……テエー、なんでそんな事まで知ってやがる?」


「そ、それは、その、私は、デリンジャー様のファンだからですっ!!」


ドヤ顔で腰に手を当て、威張ったように胸を張る私。



「クククッ………そぉかよ。」


「訳がわからない。」


銃口が離れる。うっすら笑みを浮かべてソファの背にもたれ込み、天を見上げるデリンジャー。対してバレルはこの女が一体何を考えているのかわからず、ただのバカだと思い、呆れるばかりだ。


「なので西のアジトの警備を強化するべきです!」


「放って置く。」


「はい?」


デリンジャーは煙草に火をつけ始めた。


「で、でも……。」


「泳がせて様子を見る。アイツには飽きた。」


あき、……た?!?!あれ程バレットに興味を持っていたデリンジャー様に一体何が?!


あ、そうか。


彼の胸の内がわからず一瞬戸惑ったが、すぐに理解した。デリンジャーがバレットに興味を持ったのは第三話で組織の第二の実力を持つバレルをまぐれでバレットが倒したからだ。そうしてデリンジャーは第四話、第五話とバレットを敗北させた。更にゆきを取引相手と間違った事から兵器の設計図は燃える事なく無事である。

本来なら対して実力もないのに、アジトと設計図を奪い、自らに怪我を負わせたバレットに更に興味を持つのだが………。設計図が無事で、怪我も負う事がなかったデリンジャーは、勝負に二回も負けた負け犬に興味を失っていた。


それをゆきは咄嗟に解した。デリンジャーの事だ、これ以上は聞く耳を持たないだろうと諦めかけたその時。


「デリンジャーさん!俺に行かせてくれませんか?」


バレルが西のアジトへ行かせて欲しいと申し出たのだ。


「あぁ?その必要はねぇ。泳がせて置いた方がおもしれぇ事になるかも知れねぇだろ?」


デリンジャーはまだ完全にバレットへの興味を失っていないようだ。


これならっ……。そう思うゆき。

バレルは更に懇願する。

「デリンジャーさん!アイツにリベンジさせてくださいっ!!お願いしますっ!!」


「……勝手にしろ。ふぅー……。」


そう言いながらデリンジャーは煙草をふかした。バレルの真摯な願いが届いたのかデリンジャーは了承したのだ。


煙が辺りに漂う。辺りは煙草の煙で靄に包まれた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ガタンゴトン。ガタンゴトン。


バレルを乗せた列車が西のアジトへ進む。


「これでアイツにリベンジ出来る!」


バレルは持ってきた銃を確認しようと鞄に手をかけた。

主要な荷物は西のアジトへ大体は送っておいたが、これだけは他人の手に触れさせれない。

バレルは鞄を開ける。そう言えば妙に重かったような……。


「ブイッ!!」


「あ?」


そこにバレルの銃はなく、あったのは笑顔でピースサインと共に出てきたアホ女だった。


「ふざけるなっ?!俺のドラグノフSVDをどこへやった?!と言うか良く入れたなっ?!?!」


「えへ☆頑張っちゃった!」


唐突に拳が向かってきた。ガツンッ。


「い、いたいぉおおおっ。」


しゃがみながら、ふるふると痛みで震えて殴られた頭を抱える。


「俺の銃をどこへやった?」


「え、ドラなんとか?」


「そうだ!」


「私が入る為に出した!」


ガツン。


「いたいぉおおおっ?!」


痛みに悶絶する。


「お前のせいで予定が狂った!これで負けたらどうしてくれる?!」


それを聞いた私はゆっくりと立ち上がる。


「大丈夫。」


「はぁ?」


こちらを指差し怒鳴り付けるバレルをゆっくりと見据えた。


「貴方は絶対に負けないからっ!」


「なっ?!」


バレルは何故か急に真剣な眼差しでこちらを見てくる女に戸惑った。


この女は一体何を根拠にそう言っているんだ?いや、ただのバカの言う事にいちいち耳を貸しても仕方がない。だが、コイツはデリンジャーの未来を予言した女だ。何か知っているのかも………。


そう真剣に考えるバレルの思考は次の瞬間停止させられた。


ぐうーーーっ。


「それよりお腹すいちゃった!何かない?」


バレルは、頭をこつきながら舌を出してそう言うバカを見て、震えながら笑う。


「はははっ!」


「?」


「あるかっ?!バカ女っ!!」


ガツンッ!


「ぐはっ!?」

顔面にいい右ストレートが入った。


「いたいぉおおおっ?!?!」


顔に両腕を擦り付け、しくしくと泣き出す少女を見て少し戸惑う。


「手は抜いた筈だが……、少し見せてみろ。」


バレルは両腕を払い、顔を見ようとする。


「大丈ブイッ!!」


嘘泣きから笑顔で返してくるソレを見て再び怒りが込み上げた。


「ぶっ殺す!!」

俺の心配を返せっ!!そう思うバレルは拳をボキボキ鳴らしながらゆきを睨んだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「バレルさん痛いです。しくしく。」


「うるさい。」


ゆきは座席に座って右頬を押さえている。殴られた箇所がじんじんと痛むのだ。バレルの事だから手加減はしてくれたのだろう。でも痛い。


バレルは、ゆきとは逆方向の席に座り、車窓を見ながら不機嫌そうにしていると車内販売が回って来た。


「ジュースにお菓子、アイスクリーム、お弁当はいかがですかぁ?」

売り子の声にゆきは俊敏に反応する。

「バレルくんっ!」


祈るように手を組み、咄嗟にうるうるとした瞳でバレルを見詰める。


「はあ?」


「お願いっ!バレルさん!」


うるうる。眼を輝かせながら渾身のお願いをする。


「はぁ…………。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「美味しいっ!!」


「……………。」


必死にお願いされたのでバレルは結局、お弁当を買ってしまった。


何してんだろ、俺。旅行しに来た訳じゃないのに!?それより、バレットへのリベンジに向けて策を練らないと………。


モグモグモグモグ。

バレルは弁当を美味しそうに食べるその女で気が散ってならない。イライラしていた。


「バレル君は食べないの?」


「後で食べる。今はそんな事をしている場合じゃ……。」


ぐうーーーっ!


予想外の事で変更する事になった

バレットへのリベンジの作戦作りに焦るバレルの思考を、勢い良く鳴ったバレルのお腹の音が止めた。

「お腹空いてるんじゃんっ!?」


「………………。」


無言で赤面するバレルに、机に乗ったバレルの分のお弁当を手に取り差し出した。


「はいっ!!」


「…………おう。」


しぶしぶそれを受けとるバレルに

笑顔を向けた。そうして列車は進む。すると湖が見えて来た。


「わぁ、湖!!綺麗!!」


「あまり騒ぐな。」

湖を見ていた私の視線はバレルに移る。

「わかって……。」


「どうした?」


「バレル君、頬にご飯粒付いてるよ?」


そう言いながらバレルの頬に付いたご飯粒を紙ナプキンで拭った。


「へへっ!」


ご飯粒を取って無邪気な笑顔を向けてくるゆきを見てバレルは照れくさそうに顔を背けた。


車窓には美しい湖が写し出される。西のアジトへの旅路は始まったばかりだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


入り組んだ西の街の路地裏で少年はピストルを片手に佇んでいた。後ろから唐突に呼び止められる。

「バレット!」


「ピストレット!どうしてここに?!故郷に置いて来た筈っ?!ここは危ないっ!直ぐに故郷に戻るんだ!」


「貴方が次に何をしようとしてるかキャノンに聞いたの!無茶よ!西のアジトを落とそうなんて?!」


「やるしかないんだっ!俺がやらないとっ!!デリンジャーの野望を止めるっ!その為に俺は行く!!」


「そう、ならっ!」


ピストレットは銃口をバレットに向けたかと思ういきなり撃ち抜いた。


「っ?!ピストレット?!」


「がはっ?!」

弾丸はバレットの左の髪を掠りながら後ろの壁に隠れていた男に命中する。男は絶命した。


「外出する時は気を付けて?デリンジャーに喧嘩を売った私達の周りは敵ばかり、誰が聴いているかわからないのよ?」


「ああ、すまない。ありがとう、ピストレット。」

そうしてその女は本題を切り出す。

「私も、行くわ!」







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