第5話「そのパスタは母の味がした。」
?なんだろう?私どうしたの?
私は確か、瓦礫からデリンジャー様を庇って………。
パチッ。
眼を開けるとそこは見覚えのある部屋だった。ベッドから起き上がる。
オレンジのソファ、ガラスのテーブル、ここは………。まるでホテルの一室のように整頓された部屋は彼女には見覚えのあるものだ。
ここは確か、デリンジャー様の本拠地のアジトの部屋……。
ん?!
あれ?!なんで、私はデリンジャー様の部屋にいるのぉおおおおっ?!
しかもベッド?!
「痛っ!」
突如、頭部に痛みが走る。頭には包帯が巻いてあった。どうやら治療されたらしい。
ガチャッ。
「っ?!」
急に扉が開いたので驚いていると更に困惑する事態が起こった。
「?!バレル……くん?」
そう、そこには第二押しキャラのバレル君が居たのだ!!
「起きたみたいだな。」
「え?ええ?!」
デリンジャー様のお部屋で何故にバレル君が?!なんでなんでぇええええええええええっ?!
予期せぬ事態と謎の頭痛に頭を抱えているとそこに聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「バレル、ノックぐらいしろ。テメーの部屋じゃねぇんだ。」
部屋の奥から半裸のデリンジャー様が出てきた。
「デリンジャー様?!痛っ!」
「まだ怪我が響いてるみたいだな。フンッ。」
デリンジャー様??!!何故に半裸?!
デリンジャーは風呂上がりらしく頭にタオルを被っている。その鍛え上げられたガタイがいい細身の肉体から眼が離せない。
「デリンジャーさん。この女がデリンジャーさんを救ったて言う?」
デリンジャーは上着を羽織る。
「ああっ、お前に預ける女だ。」
「?!はい?!」
二人が何を話しているのか訳がわからない。
確か、バレル君はデリンジャー様の組織の暗殺者で、途中からバレットの仲間になるんだよね?今はまだバレットの敵ポジションだからここにいるのか……。
て言うか、こんなストーリー知らないんですが?!アニメで放送してない裏側なの?!それとも原作の小説……?!いやいや、こんなの小説でも読んだことないぞぉ?!
まあ、私がいる時点でおかしいのだけど……?!
「それにしても、突然、得体の知れない女を鍛えてくれって、何を考えてるんです?」
「詮索するな。その女は使えると判断しただけだ。」
ギランッとデリンジャーはバレルを睨んだ。
「……はい。」
「お前は俺に従うだけでいいんだぁ?わかっているな?」
「……了解。」
「女、今日からお前はバレルに鍛えさせる。わかったな?」
「はい?!」
訳がわからない私を猫のようにつまみ上げたデリンジャー様はベッドから私を掴み上げる。
有無を言わさず廊下に出された。
えええ?!なんで?!何がどうなってるのぉ?!
扉を閉められ、理解が及ばない私の顔をバレルが覗き込んだ。
「……お前、本当に何者だ?」
突然顔を覗き込まれて戸惑った。
ち、近いっ?!
「え、え、あの?!私っ!?」
「突然現れてデリンジャーさんの未来を予言して救ったらしいな?」
「え、いや、まぁ、私は知ってただけで……。」
「………まぁ、別に何でもいいが。」
そう言ってバレルは興味がなくなったかのように素っ気なく廊下を歩いてく行く。
「ついて来い。」
「へ?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ここって………。」
そこは射撃場だった。
そう、「トリガーバレット」はその名前からわかるように銃世界。
銃によって成り立つ世界である。そんな銃を悪に使い、銃で世界征服をしようとしているのがデリンジャー様。対して銃を競技の為だけに使い、平和な銃世界を作ろうとしているのが主人公バレット。
だから射撃場がある事は普通なんだけど………。
「なんで、私が射撃場(ここ)に?!」
「あんたを鍛えてくれって言うのがあの男のオーダーだからだ。」
「私を?!なんで、……。」
パタパタと何かの準備をするバレルを見守る。
「どれを使う?」
「はい?」
「……お前、初めてか?」
「はい?!何が?!」
「じゃあ、俺が後ろから支えるからこれを握れ。」
後ろからバレルに強引に抱き寄せられ、何かを握らされる。初めて男性に抱き寄せられ、思わず胸が高鳴った。
「?!?!?!?!」
こ、これは……。
眼をパチクリさせる私の手には拳銃が握られている。
「は、はぁ?!何で?!」
「お前を鍛えるように言われたからだ。」
「なんで?!」
「不明、とにかくあの的狙って打つ。」
遠くには的があった。あんなところに当てられるのだろうか?!
「じゃあ、いくぞ?」
囁かれるように耳元で言われ、更に困惑し、顔が火照った。
バンッ。
発砲音が部屋中に鳴り響く。
気がつくと、私はただバレルに身を任せるだけで的に弾を当てた。
的の中央には綺麗な穴が開いている。バレルが私から離れた。
「す、凄い!」
「はぁ、お前、まだまだ特訓が必要だな。」
綺麗に的に当たった喜びに浸る私とは裏腹にバレルはこれからの事を思うと気が遠くなった。
唐突にバレルはゆきに声をかける。
「おい、……。」
「?」
「名前は?」
「私はゆき!よろしくね?バレル君!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あの女、一体何者なんだ……。」
デリンジャーは突如現れて自分の危機を予言し、救った女の素性が気になっていた。
「まぁいい、今回の拠点のアジト壊滅は痛いが、兵器の設計図は無事に手に入った。次だ。次の一手を打つ。そして俺は……。」
バンッ。
「デリンジャー様ーー!!」
「はぁ?」
扉から突如として飛び出して来たソレにデリンジャーは訳がわからないと言う顔をする。
「お前、何故ここに?」
「すみません、デリンジャーさん。コイツ言うこと聞かなくて……はぁー…。」
呆れぎみに後ろからバレルが顔を出す。
ゆきはデリンジャーに足早に歩み寄った。
「デリンジャー様っ!!それより、次の計画についてお話がっ!!」
ごりっ!
「へ?」
ゆきの頭部には銃口が宛がわれる。
「いいか?女、テメーが何者なのかは知らねぇが、一度俺に借りを作ったぐらいであまり調子に乗るなよ。ぶっ壊すぞ?」
「は、はい……。」
身の危険を感じた私はおずおずと引き下がる。
そうして、銃口はデリンジャーの胸ポケットへと仕舞われた。
そうだよね、デリンジャー様だって忙しいよね。なのに私はデリンジャー様に会えたのが嬉しくて舞い上がっちゃうなんて………。
デリンジャー様に会いたくてつい、舞い上がってしまった自分を咎めながらも改めてデリンジャーを見やる。
「で、計画がどうした?」
「へ?」
「計画について何か知っているのだろう?」
デリンジャーはそのおかしな女の話しを興味本位で聞いてみる事にした。
「それがっ!バレットは次にデリンジャー様の計画を阻止しようとこのアジトに向かって来ます!」
「…………ほぅ。」
彼はただそう、一言述べただけだった。
「へ?あの?」
「それで?ここにヤツが来れる訳がない。来たところで何が出きる?」
そう、ここは要塞。この付近には多数のアジトがあり、容易には近づけない。でも、バレットはここに来るまでに強力な仲間を引き連れ、パワーアップしてやってくる。
「今回は不意を突かれただけだ。ブツは手に入れた。計画にはなんの支障もない。」
「計画を急いで遂行されるべきです!」
「お前などに言われなくてもわかっている。それより、お前はなんだ?何故俺の未来を予言した?」
「私?私は……。」
私は……。なんだろう?何と言われても……。頭に浮かぶのはただ一つ。
「デリンジャー様のファンです!!」
「ああ?」
「は?」
その突拍子もない言葉に男二人は開いた口が塞がらなかった。
「ファンて……。」
「クククッ!」
呆れるバレルをよそにその男は静かに笑った。
「ファン?ファンだと?クククッ!この女、珍妙な事を言う。クハハハッ!」
腹を抱えて笑うその男が何故笑っているのかゆきは理解が出来ないが笑っているデリンジャー様はカッコいいと改めて思った。
「気に入った!」
気に入った?!?!どういう事?!困惑する私にゆっくりとその男は歩み寄り。
「ぶっ壊してぇ。」
薄気味悪い笑みを浮かべそう言ったかと思うと私の頭部に再び固く冷たいモノが押し当てられる。
「バレル?首尾はどうだ?この女はどうだった?」
「それが全く。」
「成る程、やっぱり組織の人間じゃねぇ、一般人かよっ。………ああ?全くだぁ?!」
予想外のバレルの答えにデリンジャーは耳を疑う。
「その女、銃すら握った事ないみたいで……。」
「そんな人間がこの世界にいるのかぁ?ますます変な女だ。」
デリンジャーもバレルもその不思議な女を見やる。
服装は学生、この世界にも学生はいる。そして予言をして組織のボスを身を呈して守った女。
ますます素性が知れない。
「今日はバレルの部屋に預ける。」
「?!俺の?」
「へ?!」
預けるって?!頭から銃口が離れ、バレルの方にゆきは突き飛ばされた。
「ああ、俺の“おもちゃ”だ、丁重に扱えよ?」
バレルに抱き止められる。
「……はい。」
バレルは嫌そうな顔をしてしぶしぶ合意した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ここが、俺の部屋。」
バレルの部屋に案内された。部屋中には銃火器が置かれている。
壁に銃、机にも銃。銃、銃、銃………。
あまりの光景に眼がぐるぐるとしてきた。デリンジャーの部屋とはまるで違うその光景に眼を見張る。
アニメでも小説でもバレルの部屋については触れられていなかったので新鮮に思えた。
「バレル君、こんなにたくさんの銃、手入れ大変じゃない?」
「ああ、そうだな。だが、銃に触れているのは楽しい。苦ではない。」
「そうなんだ。」
私には理解出来ない。銃が好きであのアニメを見ていた訳ではない。なので、別段銃に詳しい訳でもない。ただ、本当に一目惚れだった。偶然つけたアニメでデリンジャーに出会い、そしてその悪役っぷりがかっこよくて惚れたのだ。
回想に浸っているとバレルがキッチンから食事を持って来た。
「ふん、これ。」
ぶっきらぼうにソレを差し出す。
皿にはパスタが乗っていた。
「わぁ、ありがとう。それにしても早かったね?」
「作り置きを温めただけだからな。」
パスタはどこか懐かしい味付けながらなかなかの味だった。そうしてその日は幕を閉じた。
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