本屋の虫
さいとう みさき
本の虫
最近の本は
彼はそう思った。
昔の本は上等なものであればハードカバーあたりに皮を使ったりもしたもんだ。
紙質一つに至っても再生紙など使わず天然物の上質な紙を使ったものだ。
インクも油っぽいモノではなく滲む事の無い上質なインクが使われていた。
それが今や機械で大量生産する再生紙がメイン。
彼はため息をつく。
『まったく本にたずさわって早数百年。気付けばこの世のモノでは無くなったがそれでも本は
彼はそう言って本棚を見渡す。
ここは古本屋。
古今東西の珍しい本が積み上がっている時間が止まったかのような空間。
彼は虫だった。
それも本を食べる虫。
自我も何も無い本能で本を食べる虫だった。
しかし長年本を食べ続け、そして気がつくと
それからだ、彼は
そんな彼が今は古本屋にいる。
時代と共に様々な本に憑りついた。
西洋の本だったり、和紙の本だったりと。
そんな彼だが最近ひとつ気になる本が有った。
それはページがなく、扉も無い不思議なものだった。
四角いのは同じだが、表面にはガラスが張られ、そして変なボタンが数個あり、それを押すと文字が浮かび上がる。
ページは画面を触って横に指をずらすとめくれるようだ。
『全く、紙も使わない本だと? それでは食べられないじゃないか?』
彼はそう文句を言いながら店主が使っているそれを見る。
『俺たちが食べられる本ではなくなったのだな、これも時代か?』
彼がそう言っていると、画面の文字がおかしな表示になっていた。
店主は慌ててボタンを押したり叩いたりしたが直らない。
彼はふとその画面を見て笑う。
そこには彼と同じ「
『俺の時代は終わっても次の俺たちがいるのか、なら安心だ』
そう言って彼はまた旨そうな古本を物色するのだった。
本屋の虫 さいとう みさき @saitoumisaki
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