第2話 化けの皮
「で、なんでそんなに態度が急変してるんだ?」
「いいじゃない。あたしだってリーパー様の前では良い子を演じていたのよ。ずっとしんどかったんだから。楽させてよ」
スプーンですくいあげたスープをすすりながらリリスは答える。
この世界で気が付くと、右をみても左をみても見渡す限りが砂漠のど真ん中に倒れていた。
倒れていた近くに説明書は落ちていたが、目次だけで肝心の中身がなかった。この世界にも頭上に太陽があったので、いちかばちかの賭けで太陽の動く方向に向かって歩き続けた。
ほぼ1日中歩き続けてやっと町らしきものが見えたので、気が抜けたのか町の入口で2人して倒れていたらしい。それに門番が気づいて宿舎の中に運ばれたようだ。気が付くとスープとパンを差し出してくれた。
「あーーーあ。もう最低最悪だわ!なんで初っぱなから砂漠をさまよわないとダメだったのよ。やってらんないわ。リーパー様も町の中にとばしてくれればよかったのに、あの人のことだから適当にしたのよ。絶対そうに違いないわ!」
さまよっている途中から、リリスはバイトに後から入ってきた年上の後輩みたいに、敬語とタメ語を少しずつ織り交ぜて徐々に敬語を減らしていくあの話法を使ってきたので、少し違和感を感じていたのだが、さっきからは敬語のけの字もみあたらない。
「それにあんた、交渉してたようだけどあたしがついてくるのは元々決まってたのよ。見ていて笑いをこらえるのに必死だったわ」
「お腹すいているだろう?パンのおかわりはいるかい?」
デールと名乗った門番は近づいてきて空になったお皿を確認するとそう聞いてくれた。
「ありがとうございます。いただきます♪」
愛嬌全開の猫なで声。
「どんなときでも世渡り上手が勝者になるってリーパー様が言ってたわ」
そんなことを言っているリリスの方を向くとロングの黒髪に綺麗な赤い瞳の白肌でまさにザ・美少女である。
「ここにきてから愚痴しか出てないぞ」
「仕方ないじゃない。あたしは嘘をつけない正直者なのよ」
三つ指でのお辞儀は・・・
女ってこわい。女に免疫がない俺はひとつ経験を重ねたのだと思うことにした。
「あんたたしかトオルだったわね。トオル!せいぜい役にたちなさいよ」
「リ、リリス、だったよな?」
女の子を呼び捨てなんかしたことないから少しどもる。
「なんで呼び捨てなの?様をつけなさいよ」
持っているスプーンを指さしのようにつきだしては素早く指摘される。
リリス様はまるで高飛車なお嬢様だ。しかも16歳だということで18歳の俺からすると2個下のはずなんだが、妹属性は見る影もなさそうだ。そんなくだらないことを考えている内に食事を終えた。
「デールさんごちそうさま。ところでここはどこかしら?」
「そんなこともしらないでここを目指してきたのかい?ここは異種族交流の町クロスロードだよ。ここでは人間族、エルフ族、ドワーフ族など様々な種族が交流することができる町なんだ。元々は種族間の仲が悪かったけど、今の種族の代表達が調停を交してこの町ができあがったんだよ。そうだ。どうせならこれまでの歴史を語ってあげよう。なんせ我々の代表・・・」
「おい、失礼だぞ」
悦に入ったデールの長話の途中で見つからないとふんだのか、あくびをしているリリス様に小声で注意した。さらには「ありがとう」と途中で話をぶったぎっていた。
デールが「本当にもういいのかい?」と聞くのでリリス様が「もういい」と答えていたが、そう答えても説明を続けてくるゲームのチュートリアルにでてくるNPCばりにしつこかった。
「腹ごなしはできたし、まずはクロスロードの町を探検してみるか」
「そうね」
リリス様もどうやらご不満はないようだ。
道具屋、武器防具屋、民家もあり様々な種族の人々が見てとれた。
いろんな種族が仲良く生活しているんだろうなと町を歩いてみてそう感じた。
途中、タンスを調べようと民家に勝手に入ろうしたときに、リリス様に軽蔑のまなざしを頂けたのはお約束というやつだ。
しばらく町を歩いていると神殿のようなものがあった。
開放されていて誰でも入れるようだ。
「そういえば俺たちデールさんと普通に会話もできたしこの文字も読めるのはなんでだろう?」
「リーパー様の力よ。異世界に送る者にその世界の会話・読み書きの文法を備えさせてるのよ。コミュニケーションがとれないとひきこもりがふえるじゃない?異世界にまできてひきこもりになられちゃたまらないからね」
「そうですか・・・」
何気なく聞いた質問で心にダメージを負わされた。
俺達は神殿の中に入ってみることにした。
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