弥生朔日

待雪 ぜな

受験生にとっての冬盛り、

前期国公立入学試験が終わって3日目。


麗らかな陽に包まれて、

私は校舎を後にした。





少し寒さのある多目的ホール。

目の前の舞台で整然として座る、

違和感しかない正装をした教師達。


そして、

互いの肩が触れ合うほどに、

ぎっしりと並んだ私達。


体育館とは違い、一学年だけで集まっては、

公演を聴いたり集会に使ったりする場所。

そこに私達だけでなく保護者達も入るのだ。

保護者は一名のみ、の制限をつけて尚、

この場所は狭い。



重い静寂に包まれたホールにて、

卒業式が執り行われた。

コロナで入学式をしていない私達には、

高校で初めてのセレモニー。

入学式をしていたら、

こんなに重たいものになっていたのか。


今となってはわからないことだ。



入学式はせず突然高校生活が始まったが、

受験勉強に追われて時間が過ぎてゆき、

入試が終わり突然に卒業した。


余りにも呆気ない高校生活。

私は、有意義に過ごせたのだろうか。





母と合流し昼食を食べに行った後、

書店に向かった。

店内にカフェがある書店だ。


運よくちょうど席が空き確保。

母が飲み物を買ってきて、私は立ち上がった。


特に欲しい本がある訳ではなく、

中心のカフェを囲む環状の書店を彷徨う。


少し狭い通路。

円に接するように、整然と並んだ本棚。


そして、

抜いた物を戻すのが億劫なほどに、

ぎっしりと並んだ本たち。


表紙の綺麗な小説を手に取り、

席へと足を向けた。



好物だが値段の高さ故に、

普段は飲まない抹茶ラテを添え、

解禁された本に没頭する。


勉強の合間にも読書はしていたが、

心配事の無い今なら、

この歓びをより感ぜられる。


広くゆったりとした椅子に沈み、

心地よい静寂の中でめくるページ。

ふと見れば、

三年一組の打ち上げの時間が近づいていた。

呆気なく感じるが、

それくらい没頭出来るいいものだった。


付き合ってくれた母は帰り、

最後の賑やかさを楽しもうと、

私は静かな燈を後にした。

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