第53話 人材増やし


「私はヴィトリオと申します。どうかお見知りおきを」


 ミーストス王城執務室で、文官風の恰好をした男が頭を下げてきた。


 元ミーストス領地を総出で探させて、なんとか彼を発見したのだ。


「楽にして欲しい。急に呼び寄せて悪かった。実は貴殿に我が国で働いて欲しいのだ」

「私は文武片道。武の才がありません、文官のみとしての力となります。刃での評価が入るならばお断りさせて頂きます」

「貴殿に武人としては期待していない。ただ文の力のみで評価し、出世してもらうつもりだ」


 ヴィトリオ。彼は戦闘はからっきしで、2セリア姫程度の力しかなかった。


 ただしゲームにおいて彼は極めて優れた文官だ。素の内政ステータスがLV98もある上に、スキルで三つの政務を同時に行える。


 無論三平行の作業をさせると、内政LVが60ほどまで落ちる。だがそのレベルの者が三人いるのはものすごくありがたい!


 そもそもヴィトリオを戦わせるのがおかしいのだ。彼を武官として使うというのは、シャルロッテを内政官にするのと同様だぞ。


「感謝致します。元ミーストス王に仕官を申し出た時は、私の武を見て弱者はいらぬと言われたもので」


 ヴィトリオはざまぁ見ろと言わんばかりの顔をする。


 本当に元ミーストス王無能すぎる。ヴィトリオは政務がゲームトップクラスで、多少無理しても欲しい人材なのに。 


 それを労せず手に入れられるはずだったのに、自ら雇わないとかある意味天才か?


「ではヴィトリオ。これからお前は私の臣下として尽くすように」


 ヴィトリオは俺の直臣にする。


 いやセリア姫も人手が足りてないのは分かるんだけど、俺もかなりヤバイ状態だ。


 このままだとシャルロッテを領主にするのを、本格的に考えないとダメなレベル……人がいなさすぎて、階級的に土地を任せられる者がいないのだ。


 現在の我が国、なんと貴族制のはずなのに貴族がほぼいない。


 セリア姫の周囲が敵だらけだったせいで、今までの貴族ほぼ追い払ったから酷いことになってる。


 この国で自分の土地を持ってるの、セリア姫とリーンと俺だけだぞ。


「ヴィトリオ。お前にはこの元ミーストス領の代官として、この土地の面倒を見てもらう。かなりの大任だがいけるか?」

「もちろんでございます。新参者にこのような大仕事をお任せいただけるとは」


 代官というのは、上司の土地の面倒を代わりに見る者だ。


 例えば領主は自分の土地をもらって、その面倒を見る義務がある。


 だが広い土地だと身一つでは処理しきれない場所もあるだろう。そんな領主が代官を雇って、自分の代わりに土地のことを任せる。


 つまり代官は自分の土地を持っていない。小作人に近いものかもしれない。


 とは言え重要な仕事なので、信用のない者には任せられない。仮初の権利とは言えども、土地の権利を得るということだからな。


 その土地の民を扇動したりとか、最悪自分が武力でその土地を強奪するなんてこともある。


「勝手知ったる土地ならば、代官もしやすいだろう。期待しているぞ。よろしく頼む」


 だがヴィトリアに関してはその恐れはない。彼は戦闘技能が弱すぎて、謀反とか起こせないからな。


 万が一謀反してきたらすぐ勝てるから、新参者でも権力を与える! 我が国は才ある者に甘すぎる国だ! 


 まあヴィトリアがダメだと、シャルロッテしか選択肢がなくなるのもあるが!?


 そして仕官話は終わったので、次にやることのために急いで広場に向かう。そこには大勢の民が集まっていた。


「フーヤ様! 我が国に仕官希望の者を集めておきましたよ! それとシャルロッテさんも呼んできました!」

「なんで呼ばれたかは分かりませんが、このシャルロッテにお任せください!」


 エメラルダとシャルロッテが駆け寄って来る。


 今から行うのも人材補充のためだ。役に立つ武将を見つけ出して、代官として雇い入れないと国を回せない。


 俺のゲーム知識による武将集めには限界があるので、ランダム出現する武将を集めたい。


 とは言え優秀な人材を見つけ出すのは、時間もかかるし骨も折れる作業だ。いまの俺達にそんな時間も人手もない。


 すぐにでも雇い入れないと政務が回らずに酷いことになるが、人を雇い入れるのにもまた人手がかかる。


 よい仕事につくためには元手が必要だが、元手を稼ぐにはよい仕事につく必要があるみたいな状況。それへの対策がこれだ!


「諸君! これより仕官のためのテストを行う! シャルロッテの兵士となってもらい、正気を保てた者の仕官を許す!!!!」


 エメラルダを発見できたのは、シャルロッテの軍にいても狂わなかったからだ!


 これなら何千人だろうが一気にテストできるぞ! しかも合格基準も明確で時間もかからない!


「このシャルロッテに続け! オオオオォォォォォォォ!!!!

「アアアアァァァァァァ!!!!!」

「イイイイイィィィィィィ!!」


 どんどん暴走していく兵士たち、周囲を見回すと頭を抱えている者もそれなりにいるが。


「オレハ、コンナッ……! アアアアアァァァァァ!!!!」

「あいつもダメか。惜しかったんだが」

「後十秒耐えれたら、その後は狂う衝動が来ないんですよね」


 暴走軍ソムリエのエメラルダが、豆知識を教えてくれる。


「ワタシハ、ニンゲン?」

「タエロ……タエロ……! シカンスルゥゥゥゥゥ!!」

「あそこらへんはどうなんだ? 壊れてる気はするが」

「セーフだと思いますよ。自意識が残ってるので」

「なるほど」


 暴走軍ソムリエの言うことは参考になるなぁ。


 こうして俺は新たな人材を雇い入れるのだった。

 

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