第52話 人手集め
さてミーストス王が無様と言ったが奴は本当に酷い。
何故なら……。
「あーやっぱりあいつが臣下になってない。噂で聞かないからおかしいと思ってたが」
俺はミーストス王城の執務室で、元ミーストス国の臣下の名簿を確認していた。
ミーストス国にはすでに優秀な武将がいるはずなのだが、この名簿に記載されていないのだ。
つまりあの無様はそいつを発見できないか、雇うのに失敗したことになる。
「まったくあの無様は本当に最後まで役に立たない……セリア姫のことを散々悪く言っておいて自分はこれかよ」
俺は元からミーストス王はキャラ的に嫌いだったが、今回の件で大嫌いになった。
まったく自分のことは棚に上げて、セリア姫のことを無能呼ばわりしやがって。
「それでそのお前の求める人材とやらはどこにいる?」
ソファーで寝転がったユピテルが口を開く。
「まだ元ミーストス国内にいるとは思うんだが……俺の知ってる場所からは移動してる可能性が高い」
ゲームでも在野武将は、国に仕えるために移動していく。
なのでミーストス国が雇ってくれていれば、国を滅ぼした時に臣下に出来たのだが……。
「とりあえず兵士に捜索させるか。まったくあのミーストスの無能は……」
「相当怒ってるな貴様」
「好きなモノが悪く言われたら怒るだろそりゃ」
例えば推しのアイドルが悪く言われたらファンはキレる。好きな漫画家の絵をボロクソに評価したら不愉快。
応援してる人の悪口を聞いて、嬉しい奴はそうそういない!
俺はさっきの言動で、ミーストス王に慈悲を与える気が一切なくなった。
「とにかく! 兵士たち! ヴィトリオという名のやつを探してくれ!」
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シャルロッテと綾香は元ヴォルガニア領の王城応接間で、隣国との交渉を行っていた。
長机に対面に座って話し合っている。
「そういうわけで私たちとしましては、一年ほどの同盟を望みます。我が国は旧ヴォルガニア領の統治を安定させねばならず、貴国もまた先日までの戦でボロボロなはず」
「なるほど。確かに我々にも利がありますなぁ」
エルス国が旧ヴォルガニア領を得たことで土地が広がり、新たに隣国が多く発生した。
現在交渉しているのはその隣国のひとつ。旧ヴォルガニア領の北に位置する国、ホルモー。
現在のエルス国の半分ほどの土地だが、武将が粒ぞろいで相手にすると厄介な国だ。特に王の猛牛陣は攻暴優れた兵科陣形だ、防は低い。
そんなホルモーのナンバー2である宰相と、綾香たちは和睦交渉をしていた。
「しかし確かに我らにも利はありますが、エルス国の方が恩恵が多いのでは? 我らは戦える力を残している。平等な和睦は対等ではありませんなぁ」
「ふふふ。実はウチ、ちょっと小耳に挟んだんです、貴国の王が先の戦で負傷したと聞いてましてなぁ」
「ははははは、ただの根も葉もない噂ですなぁ」
「ふふふふ」
「はははは」
綾香と宰相は微笑み合う。だが彼女らの間には、バチバチと火花が飛び散っているようにしか見えなかった。
「ここからはウチの独り言なんやけど。もし隣にいるシャルロッテがこのまま貴国に突撃して、ホルモー王が満足に戦えなかったらどうなるやろなぁ」
「はははは、面白い仮定ですな。我が王は万全の状態、悪夢の赤鬼相手でも遅れはとりますまい。むしろ攻め返すことになるでしょうなぁ」
「ふふふふ」
「はははは」
綾香はホルモー王が手傷を負ったと噂を聞いた。あえてシャルロッテをこの場で隣に置き、この交渉に失敗すれば攻めると脅している。
対してホルモー宰相も強気な言葉で、その噂が嘘であると断じる。事実がどうであろうとも。
綾香とホルモー宰相の舌戦が繰り広げられる中、シャルロッテは『なんで私は呼ばれたのだろう?』と考えていた。
実際のところ、ホルモー王が怪我をしているのはほぼ確定だ。何故ならこの交渉の場に、宰相が出てきたのがおかしい。
もしホルモー王が出てくれば、エルス国はセリア姫で相手しなければならなかった。片方の国が王なのに、もう片方はその下の者が相手するのはおかしいからだ。
セリア姫相手なら言いくるめが出来ただろうに、それをしていなかったのだから。
つまりホルモー王は交渉に立てる状態ではない、ということになる。
「とは言えウチとしても、私たちで争うのは得策でないと思ってるんですよね」
「その隙に周辺国が好き放題しますからなぁ。我らが潰し合うのを望んでいるでしょう」
「そうなるとやはり互いに後腐れなく、平等な和睦が対等と思いません?」
「そうですなぁ。我らとしては戦ってもいいのですが、仕方ありませんなぁ」
そうして綾香とホルモー宰相の交渉は終わった。
互いに対価を渡さずの平等な停戦協定。エルス国とホルモーの双方、最初から停戦を狙っていたので達成できたことになる。
ホルモー宰相は退席しようと立ち上がったところで、綾香とシャルロッテに目を向けた。
「いやはや。お二人とも噂にたがわぬ力を感じます、さらにはその主である英雄フーヤ殿もさぞかしすごいお方なのでしょう」
「当然だ! フーヤ様は完璧なお方!」
「我がホルモー国の民たちも、そう噂されてますよ。ただ一点を除いてですが。いかに優れた刃とて、使い手が弱ければ宝の持ち腐れでしょう」
ホルモー宰相はニヤリと笑って、さらに言葉を続ける。
「我が国の窓はいつでも開いております。汚点を消したくなればいつでもどうぞ」
「……くだらないですね。聞かなかったことにしましょう」
「フーヤ様は完璧だあああアァァァ! フザケダコトヲヌカスナアアァァァ!!!」
「ひ、ひいっ!?」
「まずい!? 蛮族が暴走した!? 余計なこと言うからです! 宰相殿さっさと逃げなさい!」
綾香の人形たちが蛮族を抑えている間に、宰相は死ぬ気で逃亡した。
「蛮族! 敵国の使者相手にそれはダメでしょう! 向こうもかなり攻めて来た言動だから、たぶん問題にはしないでしょうけど!」
「フゥー……フゥー……! フーヤサマノワルグチはユルサヌゥ!!!」
「仕方ありませんわよ、事実ですし言われても当然です」
「ア”ア”ア”アアア”アァァァァァァ!!!!」
シャルロッテの咆哮が部屋に木霊するのだった。
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関係ないんですけど昨日焼肉食べてきました。
尊敬してる人が悪く言われたら、イラッとしますよね('ω')
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