第50話 隣国に改めて侵攻計画


 俺はノースウェルの領主屋敷の作戦会議室で、シャルロッテと綾香とユピテルを集めて会議をしていた。


「東のヴォルガニアの脅威がなくなった以上、もう周辺三国との小競り合いは終わりにしたい」


 俺は机に広げられた地図の、この周辺三国を指で示す。


 旧エルス(ヴォルガニア領を奪う前)国から北、南、西にそれぞれ位置する国たち。こいつらと我が国は昔から領地などで争ってきた。


 正直言うと邪魔な存在であり、昔からの敵対関係はそうそう仲良くなれるとも思えない。そして今ならばさほど脅威でもない。


「ヴォルガニアを滅ぼすためにこいつらとは停戦を結んだが、その期間もそろそろ切れる。ならいまの間に滅ぼしてしまいたいと思ってる」

「いいと思われます! フーヤ様の言うことに間違いはありません!」

「特に反対する理由はありませんね」

「我はどうでもいい」


 シャルロッテ、綾香、ユピテルがそれぞれ意見を告げてくる。


 ……いやまともに意見出してるの綾香だけだな。


「攻め込んだらは敵王都も占領するぞ。交渉の余地なく滅ぼしてしまえば、セリア女王陛下の手を煩わせることもないからな」


 セリア姫は交渉が下手過ぎて、不平等な停戦を結んでしまう。


 ならば交渉させなければいいだけだ。敵国を滅ぼしてしまえばその必要はないのだから。


 停戦を結ぶなど手打ちにするつもりがなければ、その国と話し合う意味なんてない。


 これから滅ぶ国との関係を気にするのは無意味だ。


「女王陛下へのご足労およばずと。主様のお気遣い、まさに完璧と言えるでしょう」

「そうだろ?」


 セリア姫は残念ながらまだ呪いのせいで無能だから、なるべく仕事をさせない方がいい。


 出来れば彼女の呪いを解いてあげたいのだが、その条件を俺は知らない。セリア姫の生存ルートが発売中止になってしまったからなぁ……。


 ただなんとなく見当はつけているので、近い内に色々と試してみたいと思っている。


 セリア姫に仕事を振らないというのは、臭い物に蓋をする行為でしかない。彼女の無能を解決しなければ、いずれなにか問題が起きないとも限らないのだ。


「では三国への進軍は決定だ。流石に同時に三国に攻めるのはしんどいから、どの国からにするか」

「賽を振って決めればよい」

「それで滅ぼされる順番決められるの、いくらなんでも悲惨過ぎるだろ……」


 ユピテルにツッコむが、彼女は「くだらぬ」と呟いた。


「この世は弱肉強食、滅ぼされる方が悪い。まだなにもしてないのに攻められるなら同情の余地もあるが、ずっと小競り合いをしていたのだろう?」

「まあそれはそうだが……」

「無能な弱者は滅ぶのが世の常であろう。我はそれをずっと見てきた」


 背中の翼を羽ばたかせるユピテル。


 忘れがちだが彼女は堕ちたとは言えど神様だ。人とは考え方や倫理観も違う。


「ところでなにか美味な物を献上せよ」


 なお食欲は人並み以上にある。たまに俺の隠していた菓子が、コッソリ減っていたり……猫かな?


「食事なら食堂に行けば、なにかしら作ってくれるだろ」

「食べ飽きた」

「ワガママな……ほら後でなにかやるから、とりあえず話を聞いておけ」

「仕方ないな」


 ユピテルも一応は我が軍の主力なので、作戦会議には参加してもらわないとな。


 敵が悪い奴ならチートだから使える時は絶対に使う。悪い者イジメできないならお留守番だが。


「うーむ。じゃあ西、南、北の順で滅ぼしていくか」

「どうしてその順番に? 何か理由があるのですか?」

「それぞれの各王の性格かな。北の王辺りはわりと弱虫だから、状況次第では全面降伏する可能性もある」


 確か西と南の王は普通の性格だが、北の王は臆病だった記憶がある。


 王が強気であるほど降伏しづらく、臆病ならば結構すぐに降参してくれるからな。


 各国の王の名前はすでに調査していて、ゲーム通りなことは確認済みだ。


 敵王都を力づくで占領する予定ではある。だが敵が降伏してくれるならそちらの方が楽だし、戦いを避けられるならそれに越したことはない。


「じゃあまずは西からだ。戦の準備を整えておいてくれ」

「承知いたしました。主様」




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 私はフーヤ様が部屋から出て行くのを確認してから、シャルロッテと目を合わせた。


「やはり女王陛下は厄介だな。あのお方がいるだけで、交渉の類の選択肢がほぼなくなる」

「主様も辛いでしょうね。敵に下手に降伏を促せば、交渉で不平等な条件を突き付けられる。であれば攻めこんで圧倒的優位な状況に持ち込んで、さらに女王陛下には参陣願わないのは良策でしょう」

「その状況下であれば、前線指揮官のフーヤ様でも敵王と対等な交渉ができるからな」


 本来ならフーヤが隣国の王と交渉するのは難しい。相手王とて納得しないだろう、こちらを舐めているのかと激怒するはずだ。


 国のことを決めるのは王同士の話し合いでなければならない。


 だが例えば王都を完全包囲して、その中で降伏交渉をするならば話は別だ。


 剣を喉元に突きつけた状況でなら、そんなことを言える余裕はない。


 それに王都降伏までいけば、あくまで戦いの中での交渉だ。なので前線指揮官クラスの権限でも承諾は可能だろう。


 勝手に同盟や停戦を結ぶのは無理でも、王都の降伏を受け入れることまでなら前線指揮官の領分だ。なにせ戦の勝敗なのだから。


 フーヤはセリア姫のためにも、彼女になるべく仕事をさせないようにしている。


 だがそれは臣下たちにとっては、フーヤがセリア姫を邪魔に見ているとしか思えない。


「ダンティエルも我らの意見に賛同した」

「奇遇ですわね。私もローニンに賛成してもらいました」


フーヤがセリア姫に気を使うほど、臣下たちはセリア姫の評価を落としていくのだった。

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