第21話 待った!


 俺が急いで玉座の間に飛び込むと、泣いたセリア姫とボルギアスがいた。


 よしあいつは絶対許さん。セリア姫泣かせた罪で三日三晩磔の刑に処してやる……!


「き、貴様!? どうやってここに!? 盗賊たちに始末を……い、いやここは神聖なる玉座の間ぞ! 誰の許しを得……」

「アアアァァァァォオオオァアアアアアァァァァァ!!!!」

「い、いいっ!?」


 ボルギアスの叫びを、俺の横に控える化け物じゃなくてシャルロッテが威嚇する。


 王都への道中、盗賊の大軍が俺達を妨害してきたのだ。


 盗賊は基本的に強い者に自ら仕掛けたりしない。なんでわざわざ危険を冒してまで、正規軍なんて厄介なものと戦う必要があるのか。


 盗賊だって危ないことはなるべく避けるし、死んだら終わりだからな。しかも軍を倒したところで金など手に入らず旨味もない。


 食料や金などが豊富で、かつ軍よりは弱い街や村や行商人を襲うだろう。


 ましてや俺はこの国の英雄として名が広まっている。そんな者、盗賊が好んで狙うわけがない。つまり盗賊はほぼ間違いなくボルギアスの手の者だった。


「国の大事を聞いて、必死に軍を率いてやってきた! 明らかに俺を妨害する目的で、盗賊などが配置されていたがな!」

「む、むむむ……!」


 ボルギアスが顔を歪める。なお盗賊は瞬殺した。あいつら基本的に数だけで弱いから、防御力強い陣形使うとノーダメで勝てる。


 そうして王都に到着したが、王都内もボルギアスの軍が駐屯していて俺達の入城を拒んできたからだな。無理やり押し通るしかなかった。


 これは決して悪ではない。何故なら王都にボルギアスの兵がいるのはおかしいのだから。


 私兵を王のおひざ元に潜り込ませるとか完全にクーデターである。


 そういうわけで俺達も軍を率いて、王城に突撃したわけだ。俺達のはクーデターではなくてセリア姫を助けるためだから。


 王都は一応は自軍の判定なので兵士さえいれば好きに出陣できる。なのでシャルロッテに軍の指揮権を譲渡した。


 敵兵が少なかったので彼女の独壇場だったのだ。敵を恐慌させれば反撃喰らう前に勝てるからな!


「ボルギアス! 貴様の隙にはさせん! セリア女王陛下、そんな男の言うことなど聞く必要はありません!」


 俺はセリア姫の元へと近づいていく。するとボルギアスが彼女を庇うように前に出てきた。


「控えい下郎! セリア女王はこの忠義の臣、ボルギアスがお守りするのだ!」

「なにが忠義の臣か! 忠臣が、王の都や居城に無断で私兵を配備すると?」

「国の混乱を考えればこそだ! リーン殿に大事があったのだ、ならば女王は必ず守らねばならぬ! 貴様こそ私兵で突撃しておるではないか!」

「それこそ女王を守るためだ!」


 流石に王城に私兵を配備する言い訳は考えているか。


 側近の者が何者かに襲われた疑惑がある。なので女王陛下を守るために私兵を投入……無理くりではあるがかろうじて筋は通っている。


 まあセリア姫を脅していたのでアウトだと思うが。


「女王陛下! このボルギアスは三十年もの間、この国のためにお仕えしてまいりました! このようなポッと出の者の話を聞いてはなりませぬ!」


 ボルギアスは無駄に食った年数で、己の正当性をセリア姫にアピールする。その三十年の間に、私腹を肥やしてこの国の土地を奪って行ったんだろうが!


「女王陛下! ボルギアスの話を聞いてはなりませぬ! リーン殿とてボルギアスのことなど信じておりませんでした!」

「黙れぇ! この小童がぁ!」

「アアアアァァァ!!! フーヤサマ! ヤリマショウゥゥゥゥゥ!」

「ひ、ひいっ! ほれ見ろ! そんな化け物をまともな者が連れるわけがない!?」


 ボルギアスは後ずさりながら叫ぶ。完全にシャルロッテに怯えてるな。


 さてこのカオスな状況をどうすればいいだろうか。ここからセリア姫の説得合戦をするしかないのだろうか。


「ゴメイレイをおおお!! あのオトコをメッスルゥゥゥゥゥ!」

「こ、この蛮族めが!?」

「ま、待てシャルロッテ! 迂闊にそんなことしたら……!」


 シャルロッテが今にもボルギアスに飛び掛かりそうなのを、必死に彼女の腰を掴んで止める。


 止めたが……あれ? ボルギアスをここで捕縛してもいいのでは?


 今の王都にボルギアスの兵はいない、俺達が全員倒したからだ。なので王都内で戦いが起こることはもうない。今のこいつは飛んで火にいる夏の虫だ。


 もちろんボルギアスを捕縛してしまえば、奴らの陣営との仲たがいは間違いない。


 だが正直な話、もうこの事態になってしまった時点で平和的解決は無理だろう。それなら敵陣営のトップを掌握することは、交渉材料なり敵の分断の役に立つのでは……?


 トップのいなくなった組織は大抵内輪で割れる。いなくなるのを予期してしっかりと引継ぎするならともかくこんな急にではな。


 それに何よりボルギアスはセリア姫を泣かせたのだ、万死に値する。俺はシャルロッテの腰を掴んでいた両手を放し、化け物を解き放つことにした。


「……シャルロッテ! ボルギアスを捕えろ! だいぶ手荒な真似も許す!」

「オオオオオォォォォォ!!! アアアァァァァァ!!!!」

「ごっはぁ!?」


 シャルロッテはボルギアスの腹部を殴りつけた!


「オオオオォォォォ!!!!」


 さらにみぞおちを拳で連打! その後にボルギアスの肩を掴んで、絨毯の床に思いっきり叩きつける! さらに頭をガンガンと床に当てつける!


「ごべぇ!? ごばっ!? ごぼう!?」

「アアアオオオォィロラアアアァァァァァ!!!」


 シャルロッテは怪物にふさわしい叫びをあげると、ボルギアスの股間を思いっきり踏みつけた!


「テキショウ! モギウチトッタリィィィィィィィ!!!!」


 ボルギアスは泡を吹いて気絶し、玉座の間には咆哮が轟くのだった。


 なお別に討ち取ってはいない……よな? 一応捕らえろと命じたはずなんだが。


 と、とにかくボルギアスは捕らえた。ここはセリア姫を安心させねば……俺は急いで彼女に身体を向けて頭を下げる。


「もう大丈夫です、セリア女王……あれ?」


 セリア姫は玉座にへたれこんで気絶していたのだった。


 どうやらシャルロッテがあまりにショッキングすぎたらしい……。



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王都の民「なんで王都が同じ国の軍同士の戦場に……?」

ボルギアス兵「なんで人間の軍に化け物が……!?」

ボルギアス「なんで化け物が城内ごへぇ!?」

セリア姫「…………」(恐怖で気絶)


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