第34話
わたしの家に着いて、とりあえず山本さんにお水を飲ませた。山本さんはさっきまでよりもいくらか回復した様子で、わたしのベッドに背中をもたれつつ、リビングの床に座り込む。
「円城寺さんの部屋、いい匂いする……」
「あー、アロマキャンドルの匂いかな? そこに置いてて、たまに寝る前に点けたりしてるんですけど」
「なにそれ、女子っぽい」
「女子ですもーん」
なんだか笑ってしまう。山本さんだって、女子なのに、へんなの。
「ちょっと、点けてみてよ」
「いいですよ。じゃあ、お部屋暗くしますね」
そう言って照明を消したところで、あ、わたし馬鹿だなって気づいた。先に火を点けないと何も見えなくなっちゃうじゃないか。
「えーっと、ライターは……」
部屋の明かりをもう一回点けるのを面倒がって、手探りでライターを探す。
「……これ?」
山本さんが見つけてくれて、わたしに渡してくれたのだけど、どうしたんだろう。
ライターを受け取って、その瞬間。
たった一瞬だけ、手が触れた時、なんだか胸の奥の方がきゅっとなる。
……えっ? なに、今の。
とりあえず深呼吸しつつ、やっと部屋の暗さに目が慣れてきたところで、キャンドルに火を点けた。
光が灯って、ふわあっといつもの香りが広がる。
「これって何の匂い?」
「えーっと、何かな……たぶんローズとか色々混ざってると思うんですけど。甘い感じで好きなんですよね」
山本さんも香りを気に入ってくれているみたいで、なんだか嬉しい。
だけど次の瞬間、なぜだかわたしのほうに顔を寄せてきて。胸元のところにくっついてくる。
「円城寺さんもいい匂い……」
「ちょ、ちょっと……」
だめだってば、もう。汗をかいているというほどじゃないけど、まだお風呂にも入っていない一日の終わりのときに、こんな距離に近づかれるなんて。
恥ずかしさで身体が熱くなって、まだ全然暑い季節でもないのに、汗をかいてしまいそう。
山本さんはやっぱりまだ、かなり酔っ払っているみたいだった。
「山本さん、大丈夫ですか? そろそろ寝ます? お布団用意しなきゃ……」
と、そのとき、わたしが動こうとしたせいなのか、弾みで山本さんの唇がわたしの鎖骨のところに当たってしまって。
「ひゃあぁんっっ」
わたしがあわてて山本さんを押し返したせいで、山本さんは跳ね返って、背中がテーブルに激突。やばい、アロマキャンドルが倒れちゃう、と思って押さえに行く。いったんはそれでことなきを得た、と思った。
でも、わたしは忘れていた。
テーブルの上に置かれたコップには、まだ、なみなみとお水が入っていたことを。
飲み残されていたお水は、見事に溢れて、山本さんのスーツはびしょびしょになってしまった。ついでに、わたしの服も。
「つめたい……」
酔っ払ったままの山本さんは恨めしげにそんなことを言う。
もう、自業自得じゃないか。そんなに酔っ払うほうが悪いんです。
「もう、脱いじゃいましょ」
「うん、そうする」
そう言って、山本さんは服を脱ぎ始める。
わたしも濡れた服をとりあえず脱ぐ。もう、お水がたくさん残っていたせいで、下着までびしゃびしゃだった。
「えーっと、部屋着は……」
今更ながらにクローゼットを開けて、部屋着を探すのだけど、山本さんは背が高いから、ちょっと大きめの服がいいかな、とかなんとか考えていると、なかなか見つからない。
「ちょっと待っててくださいね、山本さ……ん??」
そう言って振り向いたら、なんと。
山本さんは上半身まで下着を脱いだところで、ショーツ一枚を身につけただけの格好で寝落ちしていた。
しかも、わたしのベッドの上で。
……ああ、もう。
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