第111話 言葉が突き刺さる

件の出来事があって以来、今まで砕けた雰囲気だった隊員たちが賛成派と反対派で何となくまとまり、異なる派閥の隊員とはどこかギクシャクし、互いにあまり干渉しなくなった。

数週間経つ頃には一年生間と三年生間の蟠りはとけたけれど、二年生は相変わらずだった。その理由は三年生がよく知っていた。



「あいつらはな、入隊当初はずっと喧嘩ばかりしていた。何かにつけて意見が食い違う。特にいはる、涙、七星、翼は自分がこうだと思ったら絶対に意見を曲げない」



鏑木さんの言葉は意外だった。前者三人はわかるけど、翼くんも?。それに勇さんがこのメンバーに挙げられていないのもまた意外だ。勇さんこそ英さん並みに意見を曲げなさそうなものなのに。



「意外そうな顔をしているな、空」


「ええ、翼くんの名前が挙がっているのと、失礼を承知で言うと勇さんの名前が挙がっていないのが…」


「案外友一と愛斗は相手の意見が正しいと思えば相手の意見を聞き入れて、自分の意見を簡単に変えられる柔軟性があってな。それに自分の間違いを認められる素直さもある」


「二年生のSTのみなさんはその喧嘩を止めなかったんですか?」



すると薄野さんがふらっと鏑木さんの背後から姿を現した。



「慧一君は意外と自分に関係ないことにはドライだし、その点では隊員の須藤君もそう」



そうだ、須藤さんこそ自分の意見は曲げなさそうなのに。



「百合に関しては例外だな。羽千嘉の言うことはどんなことでも正しい意見として受け入れるが、他人には興味がなさそうだ。その他人に自分の意見を否定されれば抵抗するが、そうでない限りは自ら喧嘩になるような発言をあえてしたりはしない」



山内さんや英さんは喧嘩に発展することが予想できるような物言いをするからなぁ。



「そうだね。涼ちゃんは仲裁に入っても最終的には喧嘩に加わっちゃってるし…。海君はいつものことみたいな感じで気に留めてない感じだね」



学年ごとにカラーはあれど、ここまで血の気が多い学年は二年生だけだろう。

ふと羽千嘉さんはどうしていたのだろうかと気になり、尋ねてみる。



「羽千嘉さんは喧嘩が起こった時どうしてたんですか」


「喧嘩した先に得られるものがあるって、優しく見守ってたかな」



薄野さんは過去に思いを馳せるように遠い目をした。

話しによると、喧嘩の元凶である山内さんと英さんがいつの間にか仲直りしていることで場が収まっていることがほとんどらしい。



「だが今回は長引いているな。賛成派、反対派などと分けない方がよかったかもしれない。俺が隊長として判断を誤ったな」



何も言い返さなかったけど、僕は先日の一件は派閥別に行動してよかったと思っている。ひとつの集団として意見が割れ行動や判断が遅れるより、いっそ同じ考えの隊員をまとめて二グループにして各々行動した方が効率がいい。



「あの子たちの喧嘩が続くと、本人たちより喧嘩を端から見てる僕らの方がメンタルやられるんだけどね」



薄野さんの言った言葉の意味がわかったのは食堂で食事をしている時のこと。



「やぁ動物殺し君。夕飯はトマトソースのハンバーグ?。黒焦げになった動物たちを思い出して喜ぶサディスト超こっわ」



山内さんから英さんに放たれた容赦のない言葉に、思わず噎せて咳き込んでしまう。



「僕の名前は英涙だ。人間を裏切って危険生物に味方した君は野生になり過ぎて、名前って概念すらも思い出せなくなったのかな、可哀想に」



あまりの口喧嘩に本人たちより、周囲で食事を摂っている他の隊員やSTが顔を青くして食欲を失くしているのがわかる。

それもそうだろう。山内さんがぶつけた言葉は賛成派の隊員に、英さんの言葉は反対派の隊員に突き刺さる。



「それにしても、随分とブロッコリーを食べるんだね。焼けて亡くなった森でも恋しいの?」


「人間にまで被害を出して結局何も守れてないただのエゴイストに言われたくないね」



二人の様子を窺いながら、隣で浮かない表情をしながら食事を摂っていた舞子に耳打ちする。



「ずっとあんな調子?」


「うん。ことみちゃんや彌槻君はそのせいで具合悪くなっちゃって」


「そう…」



二人の喧嘩はさらに一ヵ月ほど続いた。誰も二人を止めることが出来なかった。なぜなら誰しもが賛成派と反対派のどちらかであったから。仲裁しても「お前は賛成派だから口を挟むな」とか「君は反対派なんだから、僕に何かを言う資格はないと思うけど?」と鋭い反論が返ってきてもっと喧嘩が酷くなってしまうだけなのだ。

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