キュアノエイデス
青時雨
プロローグ
第0話 継承
現隊長へ
以下に記された内容を、入隊式で全隊員に余すことなく読み聞かせよ。
全隊員に告ぐ
まず、我々の歴史が途絶えぬよう隊長という重責を引き受けてくれた者、そして勇気を持って入隊してくれた隊員たちへ感謝を申し上げる。
今から書き記すことは、────年の出来事である。
2000年ほど前の先祖たちは、どうやら未来が明るいものだと信じていたらしい。科学技術は驚くほど発展し、病も大方根治出来る世界。自動車や列車がまるで生き物のように忙しなく移動していたとされる時代。
だが、そんな資料に残された夢のような過去とは裏腹に、現状は酷く厳しいものだった。
地球は万能ではない。
私たちと同じように生きていて、惑星にも寿命があり死がある。
人間はこれまで自然環境の悪化を止められずに来た。人間の努力は地球の耐えうる限界に間に合わず、その影響は我々の身近に死という形で姿を現した。
異常気象を始めとし、触れただけで致死に至る害虫や動物などが大量に人を屠った。
地球に害とみなされた人類は、能動的に動き出した地球に、自然環境に、絶滅へと追い込まれて行った。
日々人口が大幅に減少する中で、この現状をどうにかするべく発足されたのが我々の働く機関───
キュアノエイデス
である。
様々な環境被害から人々を守るためにこの機関は設立に至り、調査隊とサイエンティスト──通称ST──の二つの役職から構成されている。
薬剤の製作や武器などの製造を中心とした業務や、調査隊のサポートをするのがSTの主な任務。
実際に被害のあった場所に赴いて、人々の安全のために危険な対象を駆除するのが調査隊の主な任務だ。
私はここの責任者、つまり隊長に任命された。初代隊長の頃から隊長となれる者は、前隊長の任命制により就任する。生前または殉職後遺言書に任命された者が、隊長が退き次第隊長となる仕組みだ。
戦力を増やそうとした結果、入隊した者の多くが命を落とした。力の伴わない者を戦わせれば当然だ。
このような惨劇を繰り返さないためにも、これを聞いている諸君には入隊志望者に過酷な試験を受けさせてほしい。突破できた者にのみ入隊の許可を出すことを強く願いたい。
その件に際して、我々の代では二つの条件を設けた。
一つ。試験を受けるには十六歳から十八歳であること。
二つ。親元を離れ寮生活を確約できる者。
この条件を追加したことにより、入隊志望者の数を大幅に少なくすることが出来たことを報告する。
随時諸君の裁量で条件の変更や増減をしてくれて構わない。
キュアノエイデスという名前は後付けのもので、設立当初につけられたのは環境被害対策戦力機関と長ったらしい名前であった。
しかし我々の代で人類が身を寄せあっていた地域一帯が消滅の危機に陥ったことがあり、その際名前の変更が行われた。
醜く変形した動植物が意志を持ち森からやって来て、人間がささやかな暮らしを送っていたこの地を蹂躙し始めた。
人々の一縷の望みである我々の多くも戦いに敗れ、命を落とし誰もが死を覚悟した。
その時、突如大きく渦巻く青い霧がどこからともなく現れ、眩い光を放ちその場を鎮めた。
人を食い散らかしていた生き物たちはその光によって溶け姿を消し、人の生きる地を呑み込んでいた巨大植物たちは一瞬にして石版と化して砕け散った。
謎の光は、我々を死の危機から救ってくれた。
青い光は、淡い光を放った小さな光をこの地に降らせた。それにより怪我を負っていた人も、死ぬ間際だった私のような人間も助けられた。
あの青い光が何であったのか、どうして現れたのか、謎は深まるばかりであった。
STはあの光やその物質を総称して〝キュアノエイデス〟と命名した。
それを踏まえ私は我々人類を救ってくれたあの謎の光に敬意を評し、機関の名前をキュアノエイデスに変更した。人々を守り救うためにあるこの機関は、あの光のようにあるべきだと考えたからだ。
とはいえ、この出来事によって森に侵食された国土やそこに住んでいた者たちの命はもう戻らない。
尊い命が多く失われたこの悲劇をカタストロフィーと呼び、もう二度とこのようなことが起きないよう尽力してほしい。
謎多き青い光に関しては今後も研究を進め、これからも諸君にはあの光のように人々を守っていってほしい。
最後に、これを読み上げている隊長に告ぐ。自身が隊長を退く時、これまでの隊長が残してきた過去の記録を忘れずに、最新の情報も加えた書を残すように。
第四十一代隊長
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