一緒にいる?

学校では、最後の文化祭が始まる。

中学校の文化祭なので、たかがしれている。

でも、これを機にカップルになる人が多い。

春乃への告白が一番多い日でもある。


孝司は例年、春乃の呼び出し係を務めていたが、さすがに今年は断っている。


春乃は、去年の文化祭で5人に告白された。今年は最後なので、もうちょっと増えるかもしれないと思ったら、春乃は憂鬱になった。


文化祭の日は、ステージ発表が終わると自由時間になる。

自由時間は、色んな教室の展示を見るだけでつまらないので、皆、時間をもてあます。

なので、この時間が、告白タイムになる。


当日、春乃は自由時間が近づくにつれ、嫌な気分になってきた。

春乃は佐和を見つけたかったが、クラスが違うのでなかなか会えなかった。

(どうしよう…。怖い…)


「春乃っ」

突然、声をかけられて春乃はビクッとした。

声のする方を見ると、孝司がいた。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃない…」

「あははっ」

「笑い事じゃない」

孝司は顔を引き締めた。

「一緒にいる?」

「いいの?」

「うん」

春乃の顔が明るくなった。

孝司も声をかけて良かったと思った。



2人はブラブラと廊下を歩いていた。

「教室の展示ってちゃんと見たこと無いな」

孝司は歩きながら、チラッと教室の中を覗いた。

「うん、私も…」

春乃の顔が暗くなった。

「あ、」

孝司は、春乃の自由時間はほとんど告白でうまっていた事を思い出した。

そして、自分がその一役をかってでていた事も。

「ごめんね」

「ホントだよ…」

春乃は少し笑った。


「教室展示、どれだけつまんないか、見てこよ」

春乃が孝司の肩を叩いた。


「思った以上につまんないね」

「ね。つまんなすぎて、笑える」

2人は、それぞれの教室展示を見るたび、そのつまらなさに笑い合った。

「あ、孝司のクラス行こ」

「…」

「何?」

「やだ」

「何でー?つまんないほうがいいんだよ」

「いや、恥ずいから」

「いいじゃん」

「…。テーマが成績学年1位の秘密をあばけっていう…」

「ホント?行こ!」

「やだよー」

嫌がっている孝司を、春乃が引っ張った。

2人は笑いながら、廊下を走った。

春乃はこんなに楽しい文化祭は初めてだと思った。



春乃に告白しようと思ってた人は、やはり今年も多かった。

「小林さん、ちょっと…」

と声をかけて来る人がいれば、春乃は孝司をチラッと見た。

孝司は面倒くさいなと思いながらも、彼氏気取りで、断った。

「小林さんは、今日は俺とまわるから」


今年の告白の回数は、去年を上回って7回だった。

「モテすぎるってつらいんだね」

孝司は疲れた声で言った。

「そうだよ」

春乃の顔は笑ってたが、悲しそうに言った。


「頭良すぎるのも大変だね」

春乃はニヤッとした。

孝司のクラスの展示が、ほぼ孝司のインタビューだったからだ。

「誰も見ないと思ってノリノリで答えちゃった。まさか、春乃が見るとは…」

「ウソがバレる?」

「うん」

バツの悪そうな顔をした。

「勉強の才能が…みたいな話だったもんね」

「本当は、泥臭く勉強してるだけなのにね」

「努力型だもんね」

「周りにバラすなよ」

春乃は笑った。



文化祭が無事終わった帰り道。

「何か意外と楽しかった」

春乃は笑顔だった。

「孝司、ありがと」

「うん」

孝司は、その顔を見てホッとした。


「また受験勉強だ!」

「好きだねぇ。勉強」

「結局そうだね」


「私も頑張んなきゃ」

「春乃が受ける高校、俺の次にいい学校だもんね」

フフンと孝司は笑った。

「やな感じ〜」

「ね、やな感じだね」

「だね」


「高校行っても遊んでね」

孝司は春乃に言った。

「うん」

「良かった」

孝司は嬉しそうな顔をした。

それを見た春乃は、ちょっと切なかった。


「孝司、高校入ったら、彼女つくっていいからね…」

「え?」

「私のことは、気にしないで…」

春乃はほんの少し笑った。

「…彼女をつくる予定はないよ」

春乃は孝司の顔を見た。

「さっきも言ったけどさ、結局勉強好きなんだよね。彼女とか正直…」

(あっ)

孝司は、自分を好きでいてくれる人に、自分には彼女いらないみたいな事を言ってしまって、しまったと思った。

「そっか」

孝司の思いとは逆に、春乃はすごく嬉しそうに言った。


孝司は春乃の反応に笑った。

(彼女いらないって話で、笑うか。)

「かわいっ」

「それやめてよ」

春乃は怒る。

「いいじゃん」

孝司は本当に可愛いと思っていた。

「10年一緒にいたのに、こんなんだって知らなかった」

「こんなんって?」

「恋愛偏差値が低すぎる」

「…」

「レベル1」

春乃はフンッと言って、あっちを向いてしまった。


「だから、いいんじゃん。かわいくて」

「それやめてって…」

嫌そうな顔をする。

「それがいいって男たくさんいるよ?」

「いたってしょうがないよ。今日みたいに辛いだけ」

「そうかぁ」

孝司はそれには納得した。


「辛かったら俺がまた彼氏のふりするよ」

(あ、また変な事言っちゃった。フリとか…)

「うん、ありがとう!」

春乃はまたすごく嬉しいそうに言った。

孝司は、また笑ってしまった。


「笑いすぎ」

「想像の斜め上いくから」

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