──僕の家には本屋がある

せにな

悪いことはするんじゃないよ

 僕の家には本屋がある。

 とは言っても全部おじいちゃんが書いた小説なんだけどね。


「なに胸を張っておる。本を読むなら静かにせい」

「別に喋ってないもん」

「今喋ってるのなら変わらんよ」

「おじいちゃんが話しかけてきたじゃん!」

「すまんすまん」


 軽く笑うおじいちゃんを睨むけどすでに僕からは目を外してペンを動かしていた。

 バレないように舌を出した僕は床に落ちている本を拾い、椅子に座る。

 紙をめくっていると、おじいちゃんが話しかけてくる。


「そうじゃ。これからは本を読む度に千円貰うからの」

「なんで!?」

「わしの本を読むからにはお金ぐらい貰わんとな」

「今まではそんなルールなかったじゃん!」

「この小説はわしが書いたのじゃからわしに決定権があるのじゃぞ?」

「でも僕、千円もの大金持ってないよ」

「そんなしょんぼりするでない。今日はこれをやるから」


 ほれと出された紙切れを見て声を上げてしまう。

 おじいちゃんの右手には1枚の千円札が握られていた。


「いいの?」

「今回だけじゃ。それにわしの本を読むのはお前さんだけだからの」

「ありがと!」


 紙切れを受け取ると直ぐに、本の代金を貰うぞとおじいちゃんが言ってくる。

 はやい!と抗議はするもののルールじゃからなと言って僕の手から紙切れを取って机の上に置く。

 その後も講義を続けたが聞く耳を持ってくれなかった。

 翌日は朝早くに部屋に行き、机の上であるものを探す。


「どうしたんじゃ?」

「今日はこの本を読む!」

「お金はあるのか」


 頷いた僕はポケットから昨日の紙切れを取って渡す。

 おじいちゃんは何も聞かずにそうかそうか、と言いながら受け取ってくれた。

 翌日からも同じ手口で本を読んでいると、机の上には千円札の横に2枚の紙があった。


「題名もあるしこれも読んでいいよね?」


 題名『孫が題材のおじいちゃん作』サブタイトル『悪いことはするんじゃないよ』そして最初の1文目は──

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