第25話


 執務室で護衛騎士が見守る中、セリアは必要な書類に商会印を押していく。その中でも決済の甘いものや、不要と思われる大量の商品の確認書類を処分していく。商会印はシリア商会を立ち上げる上で職員と話し合って穀物と馬を象って作り上げた物だが、この印が押された書類を受け取ることで採用するという決定となっていた。逆に押されていない書類を返した場合は、不採用となって購入や仕入れを断るようにしている。

 中には行商人からの交渉による内容もあるが、ほとんど持っていても役に立たない紛い物が多いので始めから視野に入らない。せめて王都の宝石商タニアからの物品には実際に目を通してから許可をするようにしている。最近では冒険者組合で登録している者が出した素材をグラレス支部の商業組合が買い取らないので、素材を持ったまま冒険者が領内を右往左往していた。特に商業組合が追い出したせいもあり、商店で売っていた素材も無駄になっている。

 そんな素材をセリアが見逃す筈もなく、見かけた冒険者に口止めを込めて約束をしたら、シリア商会に来るようにさせていた。それでも冒険者の人数が多いため、こまめに職員を向かわせるようにしていた。素材の多くは担当の職員が処理しており、扱いづらい素材に関してはセリアが担当するようになっている。

 セリアが習ったわけではなく、学園で書物を読むことによって覚えている範囲で下処理をしているのだった。そうして下処理をした素材で使える物はセリアが保管し、使う予定のない物は綺麗にした上で行商人に売りつけている。行商人も始めは訝しんでいたが、交渉術に興味を示したことで、そこそこの高値で売ってもらっている。当主がいる際は用心し、いない時は買うフリをしながら買い取ってもらう。という体で行商人には動いてもらっている。勿論、シリア商会のことも知っている1人でもあるが。


「商会長、冒険者を会議室にお招き致しました。今は茶菓子で、もてなしております。騎士の方を1人入れましたが、大丈夫でしょうか?」


「えぇ。大丈夫よ、ありがとう。これから向かうわ、決済した書類を配っておいてね。」


「はい、畏まりました。」


 書類をまとめている職員に礼を言い、セリアは護衛騎士を先頭に会議室へと向かう。しかし会議室があるだろう部屋の前には人集りができており、会議室の中から喧騒が聞こえてくる。どうやら冒険者のうち数人が叫んで暴れているようだった。ため息を吐きたくなる気持ちを抑えながら、セリアは人集りを捌きながら護衛騎士と会議室前まで向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る