綴る男
御月
生き様と価値
僕は、小説家を名乗る。
小学校の卒業アルバムには、こう書いた。将来の夢『人を幸せにできる小説家』と。
高校は普通科で、大学は行かなかった。
『小説家を目指すなら、文学に触れるべき』
親はそう言って僕を説得した。
「小説は生み出すもの。経験の無いところからは何も生み出せない」
本の世界に触れ、自身の世界が広がることもある。作品と同調する経験だって、今まで多分にあった。
でも僕はリアリティーに拘った。自分の生き様が、誰かの幸せに繋がる。これ以上幸せなことがあろうか。
社会人になり、企業に就職。親は心底安堵したようだった。小説家かぶれが働きに出たのだから。労働し、賃金を得て、税金を納める。人並みの生活だからね。
でも違う。僕は、小説のために働いた。経験を積み、得た賃金で小説を書き、生きる。
何時だったかな、警察に職務質問されたときも、堂々と小説家を名乗ったよ。
「ただ、この頃は……迷い、いや意固地になっていたな」
「あなたみたいな文章馬鹿、が?」
「あぁ、小説家であることに拘った……世間体に負けたのかもな」
生涯を小説に捧げ、老後にして初めて、同じ趣味の仲間が出来た。随分と愛らしい女性だったよ。まぁ、君のことなんだがね。
君は、僕の小説を愛してくれた。それは僕の生き様を肯定してくれたのと、同じだ。
そして君を失ったとき、思い出したんだ。人を幸せに出来る小説家になりたい、って。
僕も彼女の後を追うように死んでしまった。最後まで小説を書きながらね。
カクヨム書店……すごい店だね。その気になれば、世界中の小説家と読者が、一同に会せるとは。
「作者プロフィール? 綴る動機みたいなものかな?」
人を幸せに出来る小説家になりたいから。うん、それは変わらないね……でも、それ以上に
「とある女性に『僕は幸せだったよ』と伝えたくて。感謝のラブレターみたいな、ね」
いつの日か、コメントでも……おや?
綴る男 御月 @mituki777
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