はち. 2
〈……——…♯…♪…〉
ひとつ…。
いろんな動物の骨を組みあわせて、お団子にしたような悪夢を処理した後。
就寝下の野原を歩いていた
幻聴めいた旋律…。
遠方。壁を二枚も三枚もへだてていそうなところから届く、かすかな響き。存在感。
知らない音ではない気がした。
記憶にひっかかる…。
なんの曲と断定もできないのに、あるか無きか、遠くで細々と共鳴するグラスハープ…または透明感のある笛の音色にも似たその気配になんとも言いあらわしがたい近似感をおぼえた。
漠然となつかしい気分になり、とても親しい者に呼ばれているような気がした
足をとめ、耳をすましながら、あたりをみわたして…。
気になった方面へ進んでみる。
こちらの界隈にあって、効果的にはたらくBAKUとしての第六感。生来の特技。資質だ。
コウなどは、どんなに探しても――思いのほか、近くにいても――見つけられなかったりするが、対象が、それとして感じられる範囲内にあれば、たいていのものは見いだせる。
獲物を追う野生動物の嗅覚にも類似するものだ。
直感をたよりに進んだ
支えがないのに空中に浮いている、ごつごつした灰色の岩。
普通車一台ほどの巨石に見えるが、じっさいは、もっと大きそうだ。
海に浮かぶ氷山のように、全貌が見えていないのだろう。
冷えて、かたくなっているが、まだ、彼女が手をかけるほどには熟してはいない。
不安定な幻影、その場所を占めている、かたくなな夢の
その中の何かが、彼女の感覚を刺激する。
異物がまぎれこんでいる?
少し前から、聞こえていたもの。気になる音を発するものが、その奥にひそんでいそうな予感がした。
腕をつっこんで、さらに押しひろげてから、ためらうことなく、中へ足をふみいれる。
洞窟内の壁は、幽かな光をはなっていた。
湿気をおびて、こころなしか気温が低い。
現実と違い、地熱も冷気も感じられないが、その空洞は、地中に形成される鍾乳洞に似ていた。
ふみこんだ洞窟に、ただよう
何者かの夢の一幕が、空気のように。だが、たしかに存在している。
寒々として、あまり質のいいものではなかったが…。やはり、排除しなければと思うほど、
もう、音は聞こえなかったけれども、親しい存在に呼ばれているような感覚は、いまもくすぶっている。
(…誰だろ。見ても判別つくとは限らないけど…)
その気配が、まえより、ずっと近くなった気がした。
蛍石のような光沢をはなつ暗がりは、人間が、ふたり並んで歩いてゆとりができるくらいの
正確には、
空洞を
邪魔になるものは、強制的に排除した。
この精神世界にあっては、暗かろうとまぶしかろうと、感覚で見やぶることに慣れている
しばらく行くと、わずかにだが空間がひらけ、左右の壁が遠くなった。
さらに先をうかがえば、袋小路で先がない。
いきどまりだ。
そのいきどまりから、四、五歩ほど手前に、自然のものとは思えないものが鎮座していた。
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