俺が出した本が本屋にない件

下垣

そこになければないですね( ー`дー´)キリッ

 ペンを握って早10年。長かった。ついに俺は小説で賞を取り、輝かしいデビューをした。今日は、俺の本の発売日だ。早速、本屋に行ってみよう。


 本屋の開店時間と同時に店に入る。発売日、入店1人目、本がないはずもなく……


 ない……! おかしいな。今日が俺が書いた神作である【Re:50代から始める資産運用】の発売日なんだけどなあ。書店にないわけがない。こうなったら店員さんに訊いてみよう。


「すみません」


「はい?」


「【Re:50代から始める資産運用】って本はありますか?」


「あー……えっと。ISBNはわかりますか?」


「はい。XXXXXXXXXXです」


 自著だから当然把握している。店員さんはなにやらパソコンをカタカタと打っている。


「お取り寄せでよろしいですか?」


「あ、いや。取り寄せじゃなくて、この本屋にあるのかないのかを知りたいんですよ」


 何が悲しくて自分の本を買わなくてはならないのか。自爆営業だなんていくらなんでも惨めすぎる。


「あー……そちらのコーナーにございませんか?」


「ないから訊いているんです」


「そこになければないですね」


 なんだこの店員。天才作家の俺様に向かって、態度悪いな。


「え? この本は今日が発売日なんですよ?」


「ええ。そのようですね」


「それなのに、ないんですか? 開店時間なのに?」


 これが、開店時間じゃなければ売れたって好意的に解釈できる。でも、開店時間すぐにないのはおかしいだろ。


「はい。今日入荷した商品は既に陳列しております。ないということは。ないってことなんですよ」


 ちくしょう。どこかのセクシー大臣みたいなこと言いやがって。


「え? 入荷してないんですか?」


「はい」


「なんでですか?」


「なんでと申されましても……え? お取り寄せではないんですよね?」


「はい」


「じゃあ、なんでそんなにこの本に拘るんですか? お求めならば、お取り寄せ致しますのに」


「だから、別に俺はこの本が欲しいからあるのかないのか訊いてるんじゃねえってわかんないかな?」


「わかりません。というより、ここまで拘っているお客様ですら、いらないと申されるんでしたら、この本は誰も欲しくないのでは? そんな本を入荷するわけないじゃないですか」


 キレた。俺の中で決定的な何かが。


「てめえ! 言いやがったな!” この本はなあ!」


「あの……申し訳ないのですが、騒がないでいただけます? 他のお客様に迷惑ですので」


「アッハイ」


 この本屋2度といかねえ。俺はそう決意した。ちなみに2件目の本屋でも同じ対応をされたので、近隣で俺の行ける本屋がなくなってしまった。なんてこったい。HAHAHAHA。

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