Change Blossom

朱ねこ

光の使者ポメ

 高校からの帰り道、いつも通り本屋に入る。購入する本は決まってないし、漫画と小説を集めすぎて母に怒られたばかりだから買おうとも思っていない。

 絵やタイトル、あらすじを見ているだけでも楽しめるから、買う予定がなくてもつい寄り道してしまう。


 最近は異世界が舞台の物語に夢中だ。理想的な世界や人となり、その世界の主役となれる。現代とはかけ離れた物語が憧れを強くさせてくれる。

 私も物語の中のヒロインのようになりたいと想っていた。


 気になった本を時々手に取りながら漫画コーナーから小説コーナーへと移動すると、背表紙にタイトルのない本を見つけた。


「なんだろう?」

 

 不思議に思い棚から本を抜きひっくり返して表表紙と裏表紙を見る。桜模様で飾られ革紐で綴じてある手帳のような本だ。


 タイトルのない本になぜか強く興味を惹かれ革紐を解きごくりと小さく喉を鳴らす。


「えいっ……!」

 

 表紙をめくると眩い光が放たれ咄嗟にぎゅっと瞼を閉じた。

 次の瞬間、私の顔にふさふさしたものがある。

 ……毛? もぞもぞとうごくそれはくすぐったさを誘発させてくる。


 動物だろうか。恐る恐るそれを掴み、顔から離して見ると、多量の毛で覆われ頭にちょこんと耳が出ている犬のようなぬいぐるみだった。

 ぬいぐるみは頬を膨らませポカッと柔らかい肉球で殴ってきた。


「苦しいポメ!」

「ポメ?」

「まったく光の使者を称えないなんて愚鈍ポメ」

「愚鈍ってひどくない!? ていうか、なんでぬいぐるみが喋ってるの!?」


 ツッコミどころが多すぎる……!

 これは夢かと右頬を引っ張ってみるけど……。


「いたたたっ」

「何してるポメ? 僕はぬいぐるみじゃないポメ! 僕は光の使者ポメ!」

「光の使者? って?」

「ブロッサムをこの国に呼び出す力を持っている優秀な妖精のことポメ!!」

「ブロッサム? この国……? って、ここどこ!? 本屋は!? 本屋にいた人たちは!?」


 ポメポメしつこい不思議な生物から視線を外すと見慣れた風景はなく、色とりどりの花畑が広がっている。さらに先には壁がありその奥にそびえ立つ建物が見える。


「ここはチェリー王国ポメ。あそこがお城ポメ!」

「なんか、壊れてない……?」

「ポメ……」


 急に元気をなくしたぬいぐるみが指すお城は半壊しておりお城のそばでは黒い煙が点々と立ち上っている。

 うるうるとした瞳を向けてくるぬいぐるみに嫌な予感がしてくる。


「ブロッサム、僕の国を助けてほしいポメ!」

「お断りします!」

「ポメ!? 困っているかわいい妖精を助けないなんて冷酷非道ポメ!」

「ただの人間が国を助けられるわけないでしょ〜!」


 本の中に入りたいと思ったことはあるが、求めている世界はこんな危険そうな世界ではない。私に都合のよい幸せな世界がいいのだ。

 冷酷非道と言われようが、わけのわからない世界にいたくはない。


「私を元の世界に帰して!」


 夢か現実かわからないけど、もしこれが現実でこのぬいぐるみが私を呼び出したのなら帰し方も知っているはずだ。


 夢ならばいつか覚める……!!


「お断るポメ!」


 ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。予想通り知っているらしい。


「お願い〜!!」


 鞄がないからお菓子も出せない。というか、お財布も鞄の中だ!

 盗まれてないといいなぁ〜。


 ブツブツとさっきまで居た場所の未練を呟いていると、罪悪感が生まれたのか耳とふわふわのしっぽを垂らしもじもじとし始めた。


「し、仕方ないからこの国を助けてくれたら帰してあげるポメ! 交換条件ポメ!」

「交換になってなくない?」

「うるさいポメ。これをお前にやるポメ」


 差し出してきた小さな桃色の石が散りばめられた可愛らしい箱と桜の形をした綺麗な石を受け取る。蓋を開けると鏡と石をはめ込めるであろう桜型の穴がある。


「さっそくブロッサムにチェンジして捕まった国王さまや王女さま、襲われている妖精たちを助けに行くポメ!!」

「いやいやいやいや、状況飲み込めないって!! そもそもブロッサムって何〜!?」

 

 偉そうにブロッサムと敵について説明をしてくるぬいぐるみにうんざりしながら、これが夢であることを期待する。


 早く元の世界に帰して……!!

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