そして、私は今日も訪れる。

華ノ月

そして、私は今日も訪れる。

 チリーン……。


 店のベルが鳴り、一人の女性が本屋に入ってきた。そのまま、憩いのスぺースに向かう。

 本を読むわけでもない……。買うわけでもない……。

 でも、毎日のように彼女はこの店に訪れていた。


 僕は本を整理していた手を止めて、彼女の近くに行った。


「こんにちは、お客様」


 そう僕は言って微笑みかける。


「あ…、ごめんなさい。私、営業妨害していましたか?」


 彼女が不安そうに答える。


「いえ、大丈夫ですよ。毎日訪れているので顔を覚えてしまっただけです」


 僕は彼女を不安にさせないように優しく話しかける。


 彼女が不意に口を開く。


「…この本屋は昔から何も変わりませんね」


「確かにこの本屋は歴史がある方ですね。ずいぶん前から知っているのですか?」


「……はい」


 彼女はそう言うと、どこか懐かしいような雰囲気の表情をした。


 その時だった……。



 ポタ……ポタ……ポタ……。



 彼女は涙を流し、静かに泣き声をあげた。


 僕はそっとハンカチを差し出す。


 悲しいことがあったのは雰囲気で感じていた。


「……この本屋は、よくデートで彼と訪れていたんです」


 彼女は静かに涙を流しながら答える。


 彼女は更に言葉をつづる。


「彼とこの本屋で本を読みながらよく語り合っていたんです。でも、事故で帰らぬ人となったんです……」


 彼女はそう言うと、顔を手で覆いながら大粒の涙を流す。


「大好きだったんです。すごく、大好きな人だったんです……」


 ひとしきり泣いて、彼女は店を後にした。


 


 僕は本屋の仕事が終わり家に帰ると、仏壇の前に行った。


「彼女、今日も来ていたよ。とても、寂しそうだった……」


 仏壇に手を合わせながら僕は話しかける。


「僕、彼女を救ってあげたい。


 僕が彼女を幸せにするよ。


 だから、彼女を貰ってもいいかな……?」


 返事があるわけがない。


 でも、僕は兄さんが彼女の写真を見れてくれた時からずっと片思いをしていた。


 


 明日、彼女に気持ちを伝えるんだ…。

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そして、私は今日も訪れる。 華ノ月 @hananotuki

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