渚学園珈琲部

るなち

黒く熱く、純粋で甘い。

 よいコーヒーとは悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い。

 ――シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール


 少女は「これはエチオピア・ゲイシャ。と言っても語源は芸者ゲイシャじゃなくて地名の聞き間違えだったりとか言われているわね」と笑いながらコーヒーを少年に手渡す。少年はコーヒーから漂う香りに浸り、そして一口飲み始めた。程よい酸味の後に後からちょっぴりとした苦味がやってきた。

「これは最初はパナマ産で大ブレイクした品種で、この豆自体はゲイシャのルーツであるエチオピア産で、ゲシャ村って言う所がいつの間にかゲイシャになってたの」と少女は饒舌に語る。飲みながらどことなく柑橘類かんきつるいを思わせる味だなと少年は思った。その一杯を飲み終えると、少女は「次でラストだね」と少年に十一杯目のコーヒーを手渡す。

「これはフルッタ・メルカドンって言うコーヒーなんだけど、このコーヒーは収穫した生豆を発酵槽はっこうそうに入れて、豆の外皮についている天然酵母てんねんこうぼを活用しているからフルーティーなの」と満足げに話す。少年は時折ときおり頷きながら話を聞き終わるとコーヒーを一口飲んだ。

 少年は今までフルーティーとは何のことを指すのかイマイチわかっていなかったが、このコーヒーを飲むことによって理解した。この軽やかな味わいに程よい酸味、そして包み込むようなまろやかさがフルーティーと呼ばれるものなのだと。

 かくして少年は合計十一杯のコーヒーを飲み、その夜は寝付くまでかなり時間を要したのだが、少年にとってはそれはどうでも良かった。少女と過ごせた時間が何よりも大事だからである。

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