おばあちゃんと三毛猫

冨平新

おばあちゃんと三毛猫

 中学一年生の三恵子みえこは、

家や学校で嫌なことがあると、

秀丸ひでまる書店』を思い浮かべる。


 「今日もあの本屋に行こう。」


 給食のスープに牛乳を入れられる、

というイジメを受けた三恵子みえこは、

学校帰りに『秀丸ひでまる書店』にることにした。

 

◇◇◇


 ほの暗い本屋に足を踏み入れただけで、

三恵子みえこの心はホッとあたたかくなるような気がした。

 かもし出された、

なんともいえないあたたかみが好きだった。



 『秀丸ひでまる書店』には

いつもニコニコしているおばあちゃんが一人、

椅子いすに座っている。


 そして、看板猫かんばんねこ

と言えるかどうかはわからないが、

あまり可愛くない表情をした三毛猫みけねこが一匹、

おばあちゃんのひざの上に座って

背中をやさしくでられている。


◇◇◇


 ある日のこと。

 棚の最上段にある

『ぽんぽこぴーなの冒険』

が読みたい、と思った三恵子みえこ

おばあちゃんに頼むと、

おばあちゃんは脚立きゃたつを持ってきてくれて、

「気をつけてね。」

と言いながら、

三恵子みえこが本を取る間、

落ちて怪我をしないように

脚立きゃたつをしっかりと支えてくれた。


 おばあちゃんは、立ち読みをしても

文句ひとつ言わずに、

ずっとニコニコしている。


 三恵子みえこが本を手に取ると、

なんだかにおった。

 本の上部がしっとりとれていた。

 多分、あの三毛猫みけねこが本屋の中を

自由に歩き回ってそそうをしたのだろう。


 「ナン」


 三毛猫みけねこが、やや低めにいて、

おばあちゃんのひざから飛び降りて

本屋の奥の部屋に行ってしまった。


◇◇◇


 家への帰り道、

小さい頃におねしょをして

母親に怒られたことを思い出した。


 三恵子みえこは度々おねしょをして、

その都度つどひどく怒られたのだった。


 「あのおばあちゃんなら、

ニコニコ笑って

ゆるしてくれたりしたのかな。」  


◇◇◇


 ある日。


 『しばらく休みます』

毛筆もうひつで書かれたり紙が、

秀丸ひでまる書店』の引き戸にられた。


◇◇◇


 り紙がられてから3か月。

 

 ところどころがやぶれていた。



 おばさん達が

大声てしゃべりながら歩いてくる。


 おばさん達は

秀丸ひでまる書店』を指差しながら



「ここのおばあちゃん、

亡くなったんですって。」



 それを聞いた瞬間しゅんかん

三恵子みえこの目からは

大粒の涙があふれて止まらず、

その場に立ちくした。

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おばあちゃんと三毛猫 冨平新 @hudairashin

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