KAC20231 小さな本屋さんの日常

日々菜 夕

小さな本屋さんの日常

 シャッター街と化した通りに私のアルバイト先である小さな本屋さんがある。


 この本屋は祖父が経営しており。


 完全に趣味だった。


 持っていた山が高速道路に化けて、とんでもないお金が転がり込んだためである。


 周りのお店が次々にシャッターを下ろすしかない中で祖父達は別だった。


 赤字経営にもかかわらず、めったに人の来ない本屋を続けることにしたのだから。


 そして、その恩恵に対しヒモのようにぶる下がっているのが私なのである。


 やっている事と言えば、膝でまぁるくなってゴロゴロと喉を鳴らす猫のみゃーこを撫でながらパソコンでネット小説を読みふけることくらいである。


 本屋の娘が宿敵とも言えるネット小説にハマっている事も祖父母は知っているし。


 そのことで文句を言われたこともない。


 下手なところに就職でもしたあげく、どこの誰だか分からないヤツに可愛い孫娘を持っていかれるくらいなら自分達が養うと言い始めたのがきっかけで私の大学デビューはなくなった。


 両親は、大学くらいは行った方が良いという意見だったが。


 家の建て替え費用の大半を祖父が出してくれるという条件の前では無力だった。


 そして、今にいたるわけである。


 私だってね、最初のうちは仕事なんだからそれなりに真面目に取り組まなきゃって思ってたんだよ。


 でもね、来ないんだもん……


 お客さん。


 たまにお客さんかなって思って、


「いらっしゃいませ~」


 みたいなこと言って営業スマイル作っても。


 主に来るのは、祖父と将棋をしにくるお友達さんくらいなもの。


 だらけるなって言う方が無理だよね。


 だって、下手に気合入れて本の注文したって、そもそも需要というものがこの寂れた町にはないんだもん。


 むしろ、この店で本の取り寄せをお願いするくらいならネットで注文した方が早くて確実ってなものだしね。


 大手の本屋さんですら縮小を余儀なくされている昨今。


 紙の本を手にする人が減っているんだから、こうして本屋を続けている事に驚かれるくらいである。 


 活字中毒と呼ばれる人だって下手にかさばる物より電子書籍を選ぶようになっているって聞くし。


 ますます私のやっている事は、お遊びに近くなる。


 雑種であるみゃーこは、頭のところにだけ黒い縞模様があり、そこを撫でられるのが特に好きみたいで今日もとってもご機嫌だ。


 こんなことしててお金がもらえるんだからホント高速道路様々である。


 これで、私好みの恋愛小説みたいな出会いでもあれば文句のつけようもないのだが……


 今の私には、そんな浮ついた話が舞い込む要素なんて思いもつかない。


 カランカラ~ンと、扉を開ける音がする。


 どうせ、お爺ちゃんか、お婆ちゃんのお友達だろうと思いながらも営業スマイルを作って、


「いらっしゃいませ~」


 と、言うと……ん!?


「やぁ、音無おとなしさん久しぶりだね。本の注文したいんだけどできるかな?」


 以前、図書委員で一緒だった河上かわかみ君だった。 


 同年代の人とやり取りするのは半年ぶりくらいな気がする。


 他のお客さんが居ないのだから昔話に花を咲かせるのも悪くないだろうと思って話していると……


 なぜか今度、一緒に隣街まで行って映画を観ようと言う話でまとまっていた。




 おしまい

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