自意識だけ高い秀才モブが、美少女邪神に取り憑かれた結果ッ!
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第一章 邪神ヤマダサブロウの華麗なる覚醒(希望的観測
邪神との遭遇
僕は現在、学校の裏山にできた裂け目に転落し、地下深くで立ち往生していた。
なぜか、担任に突き落とされたのである。
谷底は想像していたより天井が広く、圧迫感はない。だが、その面積のせいで、窪みに手を引っかけられなかった。
暗くなってきた空を見上げる。
眼鏡に一粒の小さな滴が落ちた。灰色の空から、霧雨のような雨粒が視界を遮る。
思いっきり手を伸ばしてみた。けれど、起き上がれない。
「痛……」
背中に激痛が走る。転落した際に打ち付けた背中が痛む。力を入れるが、やはり身体を起こせない。助けを呼ばないと。ポケットに手を突っ込んで、ケータイを探す。ない。きっと教室に置いてきた。
探していた先生は見つからない。僕みたいに落っこちてはいないか。
このまま白骨化して数百年後に見つかるのではないか。そんなあり得ない想像までもが頭をよぎる。
「ワタシの眠りを覚ましたのは、キミかい?」
鈴を鳴らしたような声が、暗黒の向こうから聞こえてきた。
目の前に現れたのは、一二歳くらいの幼女である。どうして、こんな所に少女が? この少女も崖に転落したのか? そもそも何者だ?
「へーえ、この子が。随分と可愛らしいじゃないか……」
興味深げに、少女は僕の顔をのぞき込む。背は僕の腰くらいしかない。地面につきそうなくらい長い髪は、夜の色を思わせる。全体的にほっそりとしていて、少しの力で折れてしまいそうだ。儚げな体つきなのに、風格は尊大で芯が強そうである。
何より引き込まれたのは、幼女の顔立ちだ。鏡でも見ているのかと思うほど、僕とそっくりである。しかも美しい。なにも僕がイケメンだなんていうつもりはない。だが、「女になったらここまで美人になるのか」と、そんな妄想をしてしまう程に似ている。
かくいう僕も、見た目が女っぽいとは言われるけど。
「君は、何者、だ、ゴホッ!」
背中の痛みがひどすぎて、声すら出せない。
ちくしょう、どうしてこんな目に。
「怪我をしているね。傷を治してあげよう」
コツコツと靴音を鳴らし、少女が近づいてくる。
「く、くる、な」
身体を動かそうとするが、痛みと恐怖で動けない。恐怖? 僕が恐怖するなんて。
「怖がらなくていいよ。じっとしててね」
「しかし!」
僕は逃げようとした。
「動くとキミは死ぬよ」
少女に言われて、僕はおとなしく従う。脅されたからではない。動くと、本当に背骨が砕けそうになったからである。
「!”#$%&’=~……」
そっと僕の背中を撫でながら、少女が耳元でささやく。
どこの世界の言語かは、わからない。
いつの間に背中にとりついた? さっき目の前にいたはずなのに。
「うわあああ!」
僕は思わず飛び退いた。
「だから、怖がらなくてもいいって、失礼だなぁ」
不満顔で、少女は頬を膨らませる。
「これで、動けるだろ?」
「ん、動ける。これは、どういう事だ?」
なんと、患部に痛みを感じなくなっているじゃないか。
この少女が、何かの力で治したのか?
「これでやっと、話ができるね」
特に驚かず、少女があっけらかんと言う。
「初めまして。ワタシの分身、ヤマダサブロウ」
どうやら、僕はこの幼女に助けられたらしい。その証拠に、折れたはずの背骨はすっかり治療されていた。今では起き上がれて、正面を向いて幼女と話し合える。
だが、どうやって僕を治した? こんな事、神か悪魔でしかできない。彼女はおそらく異形の類いだ。僕に似せているのも、警戒心を解くために違いない。
「その神様だよワタシは」
今更何を聞いているんだ、とでも言いたげな口調を、幼女は返す。
僕が思っていたことに、少女は答えた。心を覗いたのか?
「何を寝ぼけたことを、この世界に神など」
「実際にワタシは神だった。違う世界からこの地球に逃げてきた。眠っていたワタシを、キミの血が目覚めさせたわけ」
僕の存在が、こいつを蘇らせただと?
「ずっと、この山に眠っていたのか?」
「ワタシは今目覚めたばかりだよ。キミのことは感じ取っていたけどね。ワタシがこの地に来たのは、キミの気配をたぐり寄せてきたからだ」
「すると、君がこの世界に迷い込んだ、邪神とでも?」
この学校には、裏山に邪神が潜んでいるという伝説があった。その邪神に頼めば、どんな願いも叶うと。その代償は魂であることも。
「バカバカしい。そんなオカルトじみた伝説」
「でも、ワタシは伝説の存在なんだけど?」
幼女は否定しない。あくまでも神様だと言い張る。
「どうすれば、ワタシが危険な存在じゃないって信じてもらえるのかな?」
「何をしても信じられん」
彼女は、僕のケガを治した。その事実は認める。
だが、それだけでは彼女が神格を持つ存在であると証明できない。
「たとえ貴様が神の類いだとしても、目的は何だ? 元の世界への帰還か? それともこの世界の滅亡か?」
僕の問いかけに、少女は沈黙した。しばらくすると、「ふう」と一息つく。
「果たすべき事をするだけだよ。僕には使命があるんだ」
わけが分からん。そんなに気まぐれな存在なのか。
「果たさなければならない事って?」
「この国で言えば、『害虫駆除』かな?」
「スズメバチ退治なら役所に頼めよ」
「いや、キミにしか頼めない」
どうして僕が、こんな不審者の役目を引き継がないといけないんだ。
僕にだって使命がある。
南郷院(なんごういん) ヒカルに勝つ、という使命が。
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