採点少女は本屋(うち)に来る

不明

採点少女は本屋(うち)に来る

 どうもくそ田舎の古本屋のレジに立つバイトです。お客も来ず暇なので自己紹介でもしましょうか。

 学生で性別は男、好きなものはゲーム。嫌いなものは本です。

 え、嫌いなものが本なのにどうして本屋でバイトしているのかって? 理由は単純この本屋は自分ちの隣に立っているので通いやすから(自電車で十五分)。お金がたまったら便利な都会に出ようと必死にバイトし貯金してます。

「……」

 まぁ必死に働いてると言ってもお店はこの通り誰も来やぁしませんけどね。

 今や電子書籍時代。こんなド田舎で発売日から三日たたないと新作の本が入荷しない店なんかにお客なんて来るはずないんですよ。

『普通』はね。

「ねぇ。ねぇってば‼」

 ほら普通じゃない人間が来た。

 声をかけてくる小学校高学年の女の子は毎日決まった時間にやって来る。学校反対側なのに。

「あんた、お客様が来たら普通『いらっしゃいませ~』でしょ‼ マニュアルに書いてなかったの?」

 こんな店にそんなマニュアルねぇよ。店長のじいさんは『本を並べて……レジに立ってるだけでいいから……掃除はわしゃぁやるけん……』って言われた通りやってるよ(あまりにも暇すぎて掃除も自分でしてます)。

「らぁしゃ~せ~」

「あ”?」

 腑抜けた対応にいら立ちを見せる少女だったがこれでいい。これが俺たちの日課だから。

 少女は呆れた様子で一息つくと恒例の一言を口にする。

「あんたのおすすめ頂戴」

 出たよ、初めてこの店に来た時からこの注文だ。

 最初初めて会ったとき、バイト初日だっただろうか。少女がやって来ると鋭い目つきで同じように『おすすめ頂戴』と無理難題を言われた。その時は適当に当時人気ナンバーワンの漫画本を渡した(ガキだから)、のだが。

 次の日、お店にやってくるのと同時に『面白くない本をどうも』と言われ、本を売りに来た。『はぁ?』と頭にきた俺は家に帰るとネットで嫌いな本を買い読み漁り、漫画、小説、辞典、絵本などetc…完全に頭に叩き込み『自分が』面白いと思った本を数冊少女突き出すと驚いた様子を見せつつ、数冊の中から一冊を買っていった。

 その次の日もまた少女はやってきた。また『面白くない本をどうも』と少女は言い放ったが。昨日購入した本は持ってきてはいなかった。そして昨日と違うことはもう一つ。違ったのは『おすすめ頂戴』から『あんたのおすすめ頂戴』になっていたこと。

 それから毎日やれ『主人公のセリフがくさい』だの『ファンタジー系が読みたかった』ただのおすすめした本に文句を言うが、毎日自分のおすすめを買ってゆく。

 そして今日も自分のおすすめの本差し出すと素直に受け取る。その去り際にいつの間にか少女が言うようになっていた言葉がある。

 少女は買った本を両手で持ち、口元を隠すと。

「また明日も買いに来るから、待っててね」

 と言い残し去っていく。

 ……

 …

 畜生、都会に行く金はもう貯まっているのにそう言われると行けねぇじゃんか。

 そしてバイトが終わり、家に帰ると俺はいつも通りネットで嫌いな本を読み漁る。

 明日もまた来るあの子のために。

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