第35話 未来はどこへ?
(1)
「おはよう善明」
「おはよう翼」
今日は僕達6年生は朝からグラウンドに並んでいた。
そして学年担当の教師から注意事項を聞いている。
そんなのしおりに書いてるんだけど。
話が終るとバスに乗り込む。
バスの席は適当だった。
空は美希の隣。
光太は麗華の隣。
僕は翼の隣。
2日目はテーマパーク。
きっといい日になるだろう。
バスがゆっくりと動き出す。
光太たちは寝だした。
光太達は何のために隣に座ったのやら。
「楽しみだね。長崎」
翼が言い出した。
「翼は初めてなのかい?長崎」
「うん、宮崎や福岡・熊本あたりなら行ったことあるんだけど」
長崎までは日帰りじゃ厳しいらしい。
「でも今回は善明と一緒だから……」
バスガイドの話を聞きながら皆勝手に喋ってる。
空と美希は景色を見ながら二人の世界に浸っているようだった。
長崎に着くと昼ごはんを食べる。
「何で長崎まで来て普通の昼食なんだ!」
片桐姉弟はそう主張している。
原爆資料館に行ったり。観光名所に寄ったり。
皆楽しんでるようだった。
そしてホテルに泊まると風呂に入って部屋に戻る。
部屋は僕、学、光太 その他がいた。
空はお土産を買いに行くついでに美希と話をしているようだった。
そしてお決まりの恋バナに花を咲かせる。
きっと告白が上手く言ったのだろう。
皆スマホで恋人とメッセージを交わしてる。
そうなることを予感してたので、電源タップを用意しておいた。
これで皆充電できる。
スマホを見ていた。
不思議なメッセージが残っていた。
「姉が出来た」
祈からだ。
妹が出来たなら分かるけど姉?
一体何が起こっているのだろう?
想像を絶する修羅場が起きていたとはこの時知る由も無かった。
(2)
私達の部屋は私、美希、麗華、輝夜。
就寝時間になると皆大人しくなる。
麗華が電源タップを用意してくれたおかげで充電に困るという事は無かった。
私も善明とチャットをしていた。
この2日間は善明との思い出で埋め尽くすことにした。
同じ時間は二度と来ないから。
明日はテーマパークに行く。
呼子のイカも捨てがたいけどどうせ普通の食事しか食わせてもらえないんだ。
異性の部屋に忍び込むなんて真似は私達はしなかった。
スマホのあるご時世。
恋の終わり、将来の夢、大きな希望を忘れない。
10年後の私達は何をしているだろう?
そう思いながら眠りについた。
(3)
「社長、お客様です」
まだ定時だ、この忙しい時に誰だろう?
早く決裁書にサインしないと大変なことになってしまう。
社長の残業は許されない。
この会社のルールになっていた。
だから夕方になると稟議書やら決裁書が山のように届く。
専務の溝口さんも秘書の佐瀬さんも大変だ。
しかし晶ちゃんが来るにはまだ早い。
それでも皆突然の来客に怯えていた。
「誰が来たんだい?」
「広瀬と言う方です。社長の知り合いだとかで」
「アポはあったのかい?」
「いえ、ですが”会わせてもらわないと困るのは社長”だというもので……」
「用件は聞いたのかい?」
「”誰にも聞かせない方がいい”と一点張りで困っていて」
直接会った方が良さそうだ。
「応接に通して」
「かしこまりました」
作業を二人に任せ応接室に向かう。
同年代の女性と高校生らしい。恐らく桜丘高校の制服だろう。
「えーとご用件は」
「久しぶり、善幸。私の事忘れた?広瀬聖恵。高校の時いっしょだった」
ああ、今思い出した。
昔話した。高校時代の彼女。
僕がサッカーを辞めると急に彼女の熱が冷め、そして進路が違うのを理由に別れた。
今さら何の用だろう?
それに……
「隣のお嬢さんは君の子?」
随分年上の様だけど。
彼女は話を始めた。
僕と別れた後の話だ。
高校卒業後、彼女は妊娠が発覚した。
親と喧嘩した末、彼女は大学を中退して出産した。
それが今隣にいる彼女、広瀬岬だ。
彼女は一人働いて育児をしていたのだが近々結婚することになった。
だが、その条件に問題ああった。
「自分との血のつながりのない子供は引き取れない」
悩んだ末、僕のところに着たらしい。
何てヘビーな話だい。
晶ちゃんがいなくてよかったよ。
「お待ちください、社長は今接客中でして……」
来たみたいだ。
時計を見る。
定時を過ぎていた。
「定時に亭主を迎えに来て何が悪いの!?」
僕は子供じゃないんだよ。
応接室のドアを容赦なく開ける晶ちゃん。
そして聖恵さんを見て僕を睨みつける。
「この女誰?」
聖恵は事情を説明する。
当然晶ちゃんは怒り出す。
「この子が善君の子供って証拠はあるの!?」
「DNA鑑定でも何でもしたらいい!」
二人の意見は平行線のまま。
それを黙って聞いていた岬は立ち上がる。
「だから無理って言ったじゃん。帰ろう?私のことなら何とかやっていくからさ。もう17だし」
「なんとかやっていくってどうするつもりだい?」
僕は岬さんに聞いていた。
「高校は中退して働く、家は彼氏と同棲するからいい」
「彼氏?」
「調理師やってる。私の一個上の先輩。てか、なんであんたにそんな話しないといけないの?」
早く帰ろうと、聖恵に言う岬。
いくらなんでも高校中退はまずい。
就職先だってそんなにあるわけがない。
そう思ったのは晶ちゃんも同じだったらしい。
「待ちなさい!」
晶ちゃんが言う。
「なんか用があんの?おばさん」
「……あなた社会を軽く見てない?高校中退で仕事なんてそう見つかるわけないでしょ」
「おばさんには関係ねーだろ!」
「聖恵さんだったかしら?たった一年くらい待てないの?彼女が卒業した後でも問題ないでしょ?」
「そうもいかないのよ」
どうやら聖恵にはその新しい彼氏との子供がいるらしい。
それで切羽詰まってるわけか……。
「随分身勝手な言い分ね。子供は産むんじゃなかったといいながら子供が出来たから預かってくれって」
「その話はもういいって言ってるだろ!」
「善君!まだ部屋余っていたわよね?」
「ああ、まだ部屋ならいくらでも」
7人くらい産む気でいたらしいからね。部屋だけは用意しておいたよ。
「……いいわ。私達が引き取りましょう。この子は私達が責任もって面倒を見るわ」
晶ちゃんが言った。
そして岬に言う。
「あなたの将来だからとやかく言われたくないでしょうけど、あなたの可能性を広げてやるのが親の務め。私達の家に住むからにはせめて大学くらい行ってもらうわよ」
「資格なら十分取った」
「資格?」
「調理師の免許!彼氏と一緒に店を開くのが夢」
「十分夢を持ってるじゃない。いいわ、店が出来るまでは世話をする」
晶ちゃんが言うと岬の反抗が止まった。
「後悔しても知らないぞ?」
「少なくとも子供に”産むんじゃなかった”とか”引き取って後悔した”とかいう非道な人間じゃないの。お生憎様ね」
晶ちゃんは僕を見て言った。
「善君、すぐに手続きを取りなさい」
「ああ、わかったよ」
「じゃあ、私はこの子を家に連れて帰るから。荷物くらい持ってきてるみたいだし。大きなものは後日配送すればいいわ。岬だったっけ?行くわよ」
そう言って晶ちゃんは岬を引き取って。家に帰って行った。
手配は早急にされた。
親権は僕にもあったらしい。
手続きはスムーズにすんだ。
週末にも引越しは行われた。
こうして僕達の家に新しい家族が増えた。
(4)
「あんたなんか産むんじゃなかった!」
親と喧嘩する度に言われてきた事。
私は生まれて来るべきじゃなかったのか。
だから言い返してやるんだ。
「産んだのはお前の勝手だろ!」
自分の子供にそんな事を言われたらどう思うだろう?
そんな事も考えた。
だけどこの親は私を産んだ事を後悔している。
私が死ねばこの親は満足なのか?
そんな風に考えたこともあった。
それを救ってくれたのは一個上の先輩の相羽陽介先輩。
今は個人経営の創作料理屋で修行中。
シェフの渡辺美嘉さんは若くして店をもった。
天才的な味覚の持ち主なんだそうだ。
育児をしながら仕事もきっちりこなしてるらしい。
「子供はいいぞ!この子の為に何でもやろうって気になれる。子供が生きがいになるんだ」
美嘉さんが私に言った言葉。
そんな風に思う親もいるんだ。
だけど私の親も同じだったようだ。
新しい男との間に子供が出来た。
だから、私が邪魔になった。
その為に別れた元カレに私を押し付けようとした。
その人は立派な会社の社長で家族もいる。
母さんのやってることは無茶苦茶だ。
案の定反対された。
もういい。
私は一人でやっていく。
そう覚悟を決めると奥さんが言った。
「待ちなさい」
あんたには関係ない話だろ?
放っておいてくれ。
だけど奥さんは言う。
「少なくとも子供に”産むんじゃなかった”とか”引き取って後悔した”とかいう非道な人間じゃないの。お生憎様ね」
私を引き取る気になったようだ。
そのまま私は家に向かった。
そして一室を与えられた。
何もない。空虚な部屋。
今の私にぴったりな部屋だ。
あるのは大きなベッドだけ。
家族を紹介された。
酒井祈と繭と梓。
もう一人兄がいるらしい。
4人とも小学生だという。
新しい父さんが帰ってきた。
夕食の時間だという。
そこで私は晶に言われた。
「進路はどうするつもり?」
「働くつもり」
そんなに長い間世話になる覚えはない。
「私の家に来た以上私の意見に従ってもらうわ。やりたい事が無いのなら専門学校でもいいから進学しなさい」
晶は言う。
やりたい事か。
陽介と店を開く……そんな淡い夢を語っていた。
それを聞いた晶は笑顔で言った。
「やりたい事あるじゃない。もう十分成長したあなたに私達に出来ることはその夢の手助けをしてやるくらい。そのくらい親に甘えなさい」
私はこの人たちに甘えて良いのか。
不思議と涙があふれていた。
週末に弟の善明と対面した。
驚いていたようだがもう過去の私にサヨナラをしていた私は笑顔で言った。
「よろしくな。善明」
部屋に荷物が届いて引越しの手続きも済んで私達は細やかなパーティを開いた。
妹の祈や繭と話していた。
その事を夜、陽介に伝える。
「よかったじゃないか。頑張れよ。岬」
「ありがとう」
父さんと晶は私に道を作ってくれた。
死んで行く私の過去。
生まれて来る私の未来。
彷徨える焔、時を騙る闇。
朝と夜の狭間で私の物語は幕を上げる。
(5)
テーマパークで僕達は遊んでいた。
花のテーマパークは女子たちには人気だった。
もっとも翼と僕の興味は佐世保バーガーにあったけど。
旅行に行ったらご当地グルメを堪能する。
片桐家の不文律。
チャンポンも皿うどんも食えなかった僕達はせめてこれだけはと食っていた。
テーマパークで遊ぶと後は帰るだけ。
バスに乗って帰る。
みんな疲れて眠っていた。
2人の初デートはちょっと豪勢なものだった。
2人で燥いでた。
夜の高速道路は何も映らない。
ただ星空を見ているだけ。
美希も疲れたらしく眠っていた。
そして学校に着くと家に向かって帰る。
家に帰ると両親が迎えてくれる。
準備されていた夕食を食べると風呂に入る。
風呂から出るとリビングで土産話を両親にする。
両親は楽しそうに聞いていた。
話が終ると部屋に戻る。
そして僕達の一日が終る。
祈りの星が降り注ぐ夜。
悼みの雨が降り注ぐ朝。
光を抱いた小さな温もり。
それは地平線を軽々と飛び越えるだろう。
やがて懐かしくも美しきあの日を駆け巡る為に。
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