第19話 抗争

(1)


 騎馬戦。

 運動会の目玉行事の一つ。

 5,6年生が行う行事

 馬役の人が3人馬を組んで騎手がその上に跨り帽子を奪い合う競技。

 団体戦と個人戦に分かれる。

 今やってるのは個人戦。

 勝ち抜き戦で最後の大将を落とした方の勝ち。

 僕は騎手役として参加していた。

 美希の声援が聞こえてくる。

 相手方の声援が一際激しい。

 相手は赤色のタスキをしている。

 大将である証。

 この1人を倒せば僕達白組の勝ち。

 相手は焦っているようだ。

 呼吸が乱れている。

 両者にらみ合う。

 その瞬間を狙っている。

 ここ一番の集中力には自信がある。

 相手の吐息が聞こえてくる。

 大丈夫、入れてる。

 だから審判の合図がすぐに察知出来た。

 合図が出された刹那僕は利き足をけり飛び上がる。

 そうしないと相手は6年生。とてもじゃないけど帽子に届かないから。

 相手が帽子を押さえる前に、相手が僕の手を掴む前に帽子を手に取る。

 勝負は一瞬だった。

 味方からの歓声が沸き上がる。

 僕の役割は終わったようだ。

 1人で全員倒してた。

 団体戦も同じような感じだった。

 隙を見せた相手の帽子を奪いながら遊撃して相手の数を減らしていく。

 その間に陣形を乱した相手対象に集団で突っ込んで大将の首を取る。

 味方が大将を落とした時籏が上がった。

 騎馬戦は白組の勝ちだった。


「お疲れ、空。カッコよかったよ」


 応援席に戻ると翼がそう言ってくれた。


「お前は一人で全部こなしやがって、俺の出番なかったじゃねーか」


 光太が言う。


「そういえば遊たちはどこに行った?」


 学が探してる。

 言われてみると天音たちもいない。というかなんかガラガラじゃないか?応援席。

 次の出し物の学年がいないのは分かるけど。


「悪いちょっと捜してくる」


 学はそう言って校舎の方へ向かっていった。

 今日は運動会の日。

 親も見に来ている。

 我が子の雄姿を一目見ようと来ている。

 中には騒ぎたいだけの大人もいるけど。

 学や水奈の父親のように。

 騎馬戦は運動会の目玉の競技。

 午後の終盤に行われる。

 すでに大半の競技が終っていた。

 徒競走やら組体操やら玉入れなど。

 徒競走の結果は言うまでもない。

 父さんと母さんの血を継いだらどうなるか?

 100Mを11秒前半で走る僕の独走だった。

 翼はもっと酷い。

 6年生の日本記録くらいを記録する実力を持っている。

 天音も同じだった。

 だから僕達は3人揃って最後の対抗リレーに呼ばれていた。

 しかし競技前になっても天音は戻ってこない。

 何をやってるんだか……

 先生たちが騒ぎ始めた。

 さすがに児童十数人ががいないとなるとちょっとした事件になる。

 そして本当に事件が起こっていた。


(2)


「こんなところに呼び出して何のつもりだ?」


 私達SH4年生組は喜一達に体育館裏に呼び出されそして囲まれていた。


「挨拶をしておきたくてね」


 喜一はそう言った。


「挨拶?」

「俺達もお前たちと同じようにグループを作ることにしたよ」


 グループ?


「お前たちみたいな仲良しこよしの馴れ合いグループじゃない。ちゃんと目的を持ったグループだ」

「そりゃよかったな。それと私達と何の関係があるんだ?」

「せっかくだからお前たちも誘ってやろうかと思ってさ」

「ああ、パス。私らは仲良しこよしのグループで結構。面倒なの嫌いなんだ。行こうぜ水奈」

「そうだな。精々頑張れ」


 そう言うと私達はその場を立ち去ろうとしたがゆく手を阻む取り巻き達。

 よく短期間でこれだけ集めたものだ。

 中には上級生もいるじゃないか。


「後悔するよ?グループに入らないならお前たちは敵だ。敵には容赦しない。お前たちみたいに甘くないぞ」


 要は仲間に入らないと袋叩きにするぞってことか。


「ちなみにグループ名は?」

「Falling Grace」


 フォーリンググレイス?

 恵みの落下?

 なんでこう意味の分かんない英語使いたがるかな?

 SHも翼が考えたらしいが響きが良ければいいってもんじゃないぞ?


「で、目的ってのは?」

「この学校の支配」

「支配?」

「俺がこの学校のトップに立つ!」


 喜一がそう宣言すると皆静まり返る。

 そして私が最初に笑い出すとSHの皆は笑い出した。

 なずなと花は震えていたけど。


「お前いくつだよ。その年で早くも中二病か?」


 遊がそう感想をストレートに言う。


「いやあ、参った参った。そりゃ大層ご立派な目的だ。最高だわお前」

「……何がおかしい?」

「あ、わりぃわりぃ。真面目に話してるんだったな。分かったよ喜一様。お前が大将だ。精々頑張れ」


 下らねえ事に付き合わせるな。


「……あまり怒らせない方がいいと思うよ?俺達はそんなに甘くない」


 喜一が手をかざすと取り巻きが構える。


「天音。僕が突破口を作るから先生を呼んで」


 大地が私の前に出る。

 そういや大地も強いんだっけ?


「先生を呼ぶことはねーよ。こんだけいれば何とかなる」


 なずなと花を囲むようにして構える一同。


「大地は二人を頼む、私はあのボスざるを袋にする」

「天音、一人だけ抜け駆けはずりーぞ!」

「同感だな。この雑魚共を片付けて全員で袋にするでいいじゃねーか」


 祈が提案する。

 その前に教師に見つかったら面倒だろ!


「いやあ、こういう経験できるとは思ってなかったぜ。粋、びびってないよな?」

「当たり前だ。お前こそどさくさに紛れて逃げるなよ遊」


 男子二人はやる気になってる。


「君たち頭悪いの?この人数相手に喧嘩売るわけ?」


 喜一の隣には喜一の弟・勝次がいる。


「俺達相手にこの程度の雑魚集めてどうにかなると思ってるのか?」

「……やれ」

「待て!!」


 全員が声のする方を見た。

 学と光太が立っていた。

 学と光太は群れをかき分けて私達の所に来た。


「天音、お前この後リレーに出るんだろうが。早く戻れ」

「リレーどころじゃねーだろ」

「お前がリレーに出なかったら騒ぎになるから行けって言ってるんだ。騒ぎになったら勝負どころじゃないだろ?」


 学はそう言って笑う。


「確かにそうかもしれませんね……。天音の分もきっちりやり返しとくから」


 大地が言う。


「まさか一人で逃げるとか言わないよな。片桐」


 喜一が言う。


「……大地。天音を連れてグランドに戻れ」

「はい、行くよ天音」

「わ、分かった」


 大地は私の手を取って雑魚どもの群れに突進する。


「逃がすかよ!」


 雑魚の一人が私の肩を掴む前に大地の拳がその男の顔面を捕らえていた。


「僕の彼女に手を出すなら容赦しませんよ」


 あの時もそうだったけど、私は大地に守られている。

 私を女子としてみてくれてるんだな。大地は。


「天音、ぼーっとしてないで早く!」

「あ、ああ」


 私達は乱闘状態になった体育館裏を後にしてグラウンドに戻った。


「何をしてた!?」

「トイレだよ!女子には女子の都合ってもんがあるんだ!」

「ああ、もう時間がない!早く位置に着きなさい」

「先生僕もお腹痛いんでもう一回トイレに行ってきます」

「大地もか!早く戻って来いよ」

「はい!」


 大地は体育館裏に戻ったようだ。

 体育館裏も気になるけど教師たちに気付かれないようにするのが私の役目。

 大人しく準備を始めた。


(3)


「ぐへっ!」


 また一人ぶっ飛ばした。

 こういうのは人数がいたら勝てると思ったら大間違い。

 1人1人の処理の仕方で戦局は大きく変わる。

 徹底的に叩きのめす。

 そうすることで次は自分の番だと思わせることで戦意を削ぐ。

 戦意の無くなった奴は頭数に入らない。

 現に何人かはこの場から逃げ出した。

 残るは山本兄弟だけ。

 弟の勝次が襲い掛かる。

 この手の馬鹿は必ず顔を殴りに来る。

 冷静に距離を取れる蹴りを入れる。

 腹を押さえて屈みこむ勝次の襟を掴んで喜一に投げつける。

 これで残るは喜一だけ。


「ここからがお楽しみだな」

「二度とこんな馬鹿な気を起こさないように徹底的に躾けておかないとな」


 遊と粋が指をならす。

 あとがない喜一はポケットからカッターナイフを出す。


「後々面倒だからそれはしまっておけ」


 俺が警告する。


「俺に近づいたらこいつで刺すぞ」


 喜一が言う。


「やれるもんならやってみろ!」

「やられる前にボコボコにしてやらぁ」

「さあ、メインディッシュを頂く時間だな」


 遊と粋と水奈が言うと、俺はそれを制した。


「SHのリーダーは俺だ。頭同士のタイマンにしないか?」

「何言ってんだ。ふざけんな光太」


 水奈が言う。


「水奈は学の事も考えてやれ。お前にもしもの事があったらこいつ一生悔やむぞ」

「お前だって麗華がいるだろうが!」

「この期に及んで刃物持ち出す年下のガキに負ける気はしないからな」

「なめやがって!」


 喜一はカッターナイフを振り上げて襲い掛かってくる。

 俺はその手首を掴む。

 俺だって喜一より年上だ。それなりに握力も鍛えてある。

 喜一の手を握り締めると喜一はカッターナイフを落とす。


「これだからど素人に刃物を持たせても怖くないんだ。本気で刺す気があるなら脇を締めて腹部を狙うのが定石だ」


 喜一の手首を話すと喜一は大きく振りかぶって殴りかかる。

 それを冷静に交わしてカウンターを入れる。

 喜一は吹き飛んだ。

 もはや喜一に戦意はなかった。


「覚えて置け、頭数や腕っぷしの強さだけで喧嘩に勝とうなんざ100万年早い」


 俺がそう言うと喜一は逃げ出した。

 追いかけようとする遊たちを学が止める。


「放っておいたらまたやって来るぞ!?」

「頭が手下残して逃げるようなグループすぐに瓦解するよ」


 遊と学が言ってる。

 残っていた手下も散っていった。


「そろそろ閉会式だ。俺達も戻ろう」

 

 そう言うと俺達はグラウンドに戻った。

 閉会式が始まっていた。

 こうして無事運動会が終わったかのように見えた。


(4)


「へえ、お前ら出来てんだって?」


 同級生の何人かに私と秀史君は囲まれていた。

 にやにやと笑っていて気持ちが悪い。

 女子も何人かいた。


「恨むんだったら二人のお兄さんを恨むんだな。お兄さんが逆らうからこうなったんだ」


 秀史君は私を庇うように前に立つ。


「お、やる気かい?この人数相手にたった一人でやれるの?」

「紫、隙があったら逃げて先生を呼ぶんだ。わかった?」


 無理だよ、足が震えて立ってるのがやっとだもん。

 しかし女子が一言言った。


「私達だって鬼じゃない。お前らが私達の仲間になるっていうなら見逃してやれって言われてるんだ」

「仲間に?」


 秀史君が反応した。


「そそ、私達フォーリンググレイスの一員になるなら見逃してやる」

「どうすればなれるんですか?」

「私に服従しますって証明すれば許してやるよ」

「どうやって証明すればいいの?」

「そうだね、貢物でも貰おうか?」

「……お金は今持ってない」

「お金より大切な物くらいあるだろ?」


 何のことを言ってるのか分からなかった。

 女子が秀史君を指差した。


「彼氏を私に譲ってくれよ。誠実そうだしさ」

「……そしたら紫には手を出さないと約束するか?」


 秀史君が言う。


「ああ、約束してやるよ。そういう風にボスに言われてるしね」

「何をすればいい?」

「そうだね、その女の前で私とキスでもしてもらおうか?」


 女子がいうとヒューヒューと囃し立てる。

 私の中で何かが弾けた。

 私は秀史君の腕を強く握る。


「そんな子の相手をする必要なんてないよ、秀史君」

「紫?」

「こんな下品な女に秀史君を渡せだなんて笑わせないで!」

「なんだって?」


 女子の表情が険しくなる。


「こんな手を使わないと自分の彼氏すら作れない下種な女に秀史君は渡さない」


 足の震えはおさまっていた。

 代わりに握りしめたこぶしが怒りに震えている。


「大人しくてしりゃつけあがりやがって!やっちまいな!袋叩きにして服を引き裂いて写真撮ってばらまいてやる」


 一斉に襲い掛かる。

 秀史君と二人で応戦する。

 拳を痛めたくはない。

 足と肘を使って迎撃する。

 しかし人数が多い。1年生の体力ではとてもじゃないけど応戦できない。

 集中力も長続きしない。

 時間切れ。

 疲労する私に襲い掛かる男子。

 秀史君も疲れて反応が遅れた。

 やられる!

 だけどやられたのは相手の方だった。

 お兄ちゃんたちと優君と天君と繭さんだった。


「祈姉さんが言ってたのはあなた達の事ね」


 繭さんが言う。


「妹たちに好き勝手やってくれてるじゃねーか!」

「ただで帰れると思うなよ?」


 奏お兄ちゃんと要お兄ちゃんが言う。


「何やってんだお前たち!閉会式始まってるぞ!」


 先生に見つかった。


「ちっ!今日は見逃してやる!」


 女子がそう言って逃げていく。

 先生達がそれを追いかける。


「紫、怪我無いか?」


 要お兄ちゃんが言った。


「大丈夫」

「お前またアレやったのか?」


 要お兄ちゃんが言う。

 アレというのはさっきの状態の事。

 私は怒ると胸の中で何かが割れる。

 そうすると一時的に能力が飛躍的に向上する。

 その状態を「覚醒状態」とお兄ちゃん達は呼んでいる。


「やっちゃった」

「危ないから気をつけろって言われたろ?」


 奏お兄ちゃんが言う。

 多分私が危険というよりは相手に致命傷を与えかねないから。


「そのくらい気を付けるよ」

「全く気をつけろよ」


 奏お兄ちゃんが言う。

 でもそんな事より……。


「ダメだよ。秀史君。簡単に自分の唇安売りしたら!」

「ご、ごめん」

「秀史君の初めては誰にも渡す気はないんだから」

「まあ、羨ましいですわね。そんな相手がもういるなんて」


 繭ちゃんがそう言って笑う。


「お前たち何やってるんだ。運動会は終わったぞ!教室に戻れ」


 先生に言われると私達は教室に戻った。


(5)


「ああ、参ったな」

「本当参った」


 俺は遊となずなと花と教室の掃除をしていた。

 天音と水奈と大地と祈は別の担当区域。

 運動会が終わった後なんか教室使ってないんだから掃除させんなっての。

 俺達が掃除してるのは掃除時間だったからじゃない。

 体育館裏での騒ぎがばれたから。

 5年生も同じ目に合ってるらしい。


「でももう危ない真似止めなよ」

「そうだよ、年上相手にヤバいって」

「やられたらやり返すだろ?」

「そうだよ、仕掛けられたんだぜ?」


 俺と遊はなずなと花に言った。


「やられたらやり返す……確かにその通りだね」


 喜一が現れた。

 喜一の背後にはクラスの皆がいた。

 天音達はまだ戻ってない。

 フォーリンググレイスの連中か?

 まだ懲りてないみたいだな。

 俺は箒と塵取りを置いて構える。


「犬でももう少し学習するぜ?」


 遊が挑発する。


「そうだな」


 喜一が言う。

 何だその余裕?

 その余裕の正体はすぐにわかった。


「花!なずな!!すぐ逃げろ!」


 しかし花となずなは捕まっていた。


「状況を把握できたかな?」


 喜一が言う。

 この下種野郎。


「あまり時間かけるなよ」


 そう言うと喜一は笑う。


「この卑怯者……」


 頭に走る激痛。

 その一撃を皮切りに俺と遊は袋叩きにあう。


「粋!遊!……きゃあ!」

「やめろ!!二人には手を出すな!!」

「誰に向かって言ってるんだ?」


 全身に痛みを感じながら意識が薄れていった。

 花となずなは無事なんだろうか?

 それだけを祈りながら……。


(6)


「全く走らされた上に掃除までさせられたんじゃたまらねーぜ」

「この分仕返ししてやらねーと気が済まねえな」

「私達に手を出したら割に合わないくらい思わせねーとな」


 私と水奈と祈は口々に言っていた。

 教室に戻る途中に喜一達とすれ違う。


「天音、今はまずい。すぐ見つかる」


 祈が言う。


「わかってる」


 私はそう言うとそのまま教室に戻ろうとしていた。


「待てよ、拾ったんだけどこれ返しておいてくれない?」


 喜一が言う。

 喜一の方を振り向くと喜一が何かを放り投げた。

 女子の運動着だった。

 名前が書いてある。

 竹本花と三沢なずな。


「てめぇ!二人に何をした!?」


 私は喜一に怒鳴りつけていた。


「この学校の支配者が誰か教えたまでだよ」


 なめやがって!


「待て、天音。今は教室の4人が先だ」


 祈が言う。

 高笑いする喜一の声を無視して教室に戻ると教室の隅で裸にされて小さくなるなずなと花を見つけた。

 2人に運動着を返して着るように言う。

 2人は泣いていた。


「粋と遊は?」


 大地が聞く。

 2人は泣いたままロッカーの中を指差す。

 水奈がロッカーを開けると中からできてたのは袋叩きにされて、縄跳びで縛り付けられた粋と遊。

 2人はなずなと花を人質にとられて抵抗できなかったらしい。

 取りあえず二人を保健室に運ばないと。

 4人で2人を抱えて保健室に連れて行くと、保健室の先生は驚いていた。


「これは酷い、病院に連れて行かないと!」


 病院には私と水奈が付き添った。 

 祈と大地にはなずなと花の護衛を頼んだ。

 2人とも家の送迎を使って二人を送り届けた。


「命に別状は無いわ。心配しないで。ちょっと外傷が酷いけど脳や内臓の損傷はなかった」


 よく分からないけど、命に別状は無いという事だけは理解できた。

 粋の父さんと遊の母さんが来た。

 学も来てる。


「水奈、お前は無事か?」

「ああ、無事だけど」

「変な気起こすなよ。俺達が対処する」

「そんな生ぬるいやり方じゃダメだ!100倍返ししてやらないと気が済まない。息の根止めてやらぁ」

「落ち着け水奈」

「水奈!!」


 水奈の母さんも来た。


「神奈。あなた安静にしてないと駄目でしょ」

「誠の馬鹿はこう言う時に限って飲み会に行ってやがってな。運転はトーヤにしてもらった」

「2人の容体はどうなの?」

「重症なのは間違いないわ。内臓に損傷が無かったのが奇跡なくらい」


 パパが先生と話してる。


「しばらく入院してもらって容態を見るわ」

「学、母さん遊の世話するからしばらく家の事お願い。話を聞いた感じだと恋も巻き込まれそうだし」

「分かってる」


 学と学の母さんが話をしている。

 それから私達は家に帰った。

 夕食の間は考えないようにしていた。

 仕返しをするなら早い方がいい。

 だけど明日は振り替え休日だ。

 と、なると明後日か。

 どうなるか思い知らせてやる。

 朝から殴り込みだ。

 水奈と祈と大地と話し合っていた。

 SHのグループチャットでは二分していた。

 関わらなければ反撃は受けない派。

 舐められっぱなしだと今後に関わる派。

 共通して言えることは空と翼は違う事を考えていた。

 その異様な二人に光太が声をかける。


「空、妙な真似はよせ!」

「そうだね……」


 空はその一言を言っただけだった。

 この時すでに空の心は決まっていたのかもしれない。


(7)


「空、ちょっといいかな?」


 その晩翼が部屋にやってきた。


「どうしたの?」

「今考えてる事すべて忘れて!」

「……僕は大丈夫」

「私や麗華が人質にとられたらどうするの?」

「光太がいるよ」

「私は?誰が私を守ってくれるの?」

「善明がいるだろ?」

「じゃあ、美希はどうするの!?」


 翼の様子が普通じゃない。


「絶対に美希には手出しさせない」

「そうじゃないでしょ!空の身に何かあったら美希が悲しむよ」


 美希の事を想うなら美希に不安な思いをさせるな。

 僕があの2人の様になったら美希は確実に不幸になる。


「分かってるよ」


 でもこのままじゃ絶対に済まさない。

 喜一とやらは天音が処分するだろう。

 僕はその手助けをするだけ。

 その手段をSHのグルチャに流す。


「お前ひとりで大丈夫なのか?」

「下級生の方が大変だと思うから」

「空、無理しないでね」

「分かってる」


 このまま放っておくほど出来た僕じゃない。

 しっかり清算させてやる。

 その身をもって償わせてやろうと思っていた。

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