第15話 それぞれの花

(1)


「ふぅ~」


 湯舟に浸かってのんびりする。

 銭湯っていいね。

 足を延ばして肩までつかる。


「となり良いか?」

「僕もいいかな?」


 学と酒井君がやってきた。

 5年生組は5人だけだ。

 4年生組は泳いではしゃいでる。

 中島君はサウナに入ってる。

 大人組は大人組で集まって何か話してる。


「桐谷君のお父さんの話は聞いたらいけません!」


 母さんからの言いつけだった。

 渡辺さんは正俊君の世話をしてる。


「何一人でにやけてるんだ?」


 学に言われて現実に戻った。


「なんか重大な話してた?」


 僕が学に聞いた。


「全然話聞いてなかったんだな」


 学が呆れてる。


「どうやったらお前みたいに女心が分かるようになるんだ?って話をしてたんだよ」


 なるほど。


「学は一つ大きな勘違いをしてる」

「と、いうと?」

「僕は女心が分かるわけじゃない。翼と共鳴できるだけ」


 人の心を正確に把握するのは多分父さんくらいだ。

 その父さんですら偶にミスする。


「酒井君はどうなの?」


 酒井君に話を振ってみた。


「いや、僕にもわかりませんね。彼女どころか妹の気持ちすらわからないんですよ」


 酒井君はそう言って笑う。


「確かに女子の精神年齢は男子の2つ上は言ってると聞いたことがあるが恋の気持ちはさっぱりわからんな」


 学が言う。

 恋はまだ小学2年生。学君にべったりなんだそうだ。

 そういや3人とも妹がいるんだな。


「僕達ってみんな妹がいるよね?」

「そうだな」

「そうですね~」

「妹の扱い方ってわかる?」


 ちなみに僕にはさっぱりわからない。


「繭の面倒は祈がだいたいみてるので……」

「恋は家にいる間はずっとそばにいたがるな」

「でも空も、天音は大地がいるから手がかからないんじゃないのか?」


 そうでもないよ学君。

 4年生は飽きたのか風呂を出て行った。

 多分外に出てゲームで遊ぶ気だろう。


「どうしたお前たち。3人そろって」


 渡辺さんが来た。

 同じ質問を渡辺さんにしてみた?


「女心を知る方法?そりゃまた小学生にしては難しい問題に遭遇してるな」


 渡辺さんはそう言って笑う。


「そんな事が出来るのは俺の中ではただ一人。冬夜だけだ」


 やっぱりそうなのか?


「父さんってモテたんですか?」

「普通にしてたらモテただろうな」

「と、いうと」

「あいつには最初から愛莉さんがいた。愛莉さんだけが全てだった」


 小6の時から付き合ってたんだっけ?


「普通の男にはぜったいわからんよ。嫁の気持ちすらわからないんだから」


 渡辺さんが言う。


「その冬夜も言ってたぞ”二人でお互いのトリセツを作るしかない”ってな」

「トリセツですか……」


 学が言った。


「渡辺君、そろそろ出ようか」


 大人組が言う。


「そうだな、俺達もそろそろでよう。のぼせるぞ」


 渡辺さんが言うので僕達も風呂を出た。

 風呂を出るとやっぱりコーヒー牛乳だよね。

 買うと一気飲みする。

 ふぅ~。

 その後にアイスクリームを食べる。

 僕がアイスクリームを食べていると正俊君が渡辺さんに強請っていた。


「仕方が無いな」


 渡辺さんが買ってやる。

 満足そうに食べていた。

 それからしばらくして女性陣が出てきた。

 昼ごはんをファミレスで食べて解散になった。

 ファミレスに行くといくつかのテーブルに分かれる。

 僕のテーブルには翼、天音、水奈、大地、学の6人。

 注文をする。

 その量に大地と学は驚く。

 ご馳走になってるんだし控えめにした方なんだけど。


「お前ら一体どこにその栄養いってるんだよ?」


 水奈が言う。


「翼は間違いなく胸にいってるね。毎日見てるから気づかなかかったけど昨日水着姿みて確信した」


 天音が言った。


「そ、育ち盛りなの!」


 翼が恥ずかしそうに言う。


「でも食うだけで大きくなるものか?それなら私も頑張って食ってみるが」


 水奈が言う。


「そう言えば揉まれたら大きくなるって言ってたな。まさか善明、お前人の見てないところで……」

「そ、そんな事あるわけないよ」


 天音が言うと酒井君が言った。


「そんなに否定されると結構傷つくんだけど」


 翼が言う。


「大体天音だって大地に揉んでもらえばいいでしょ!」


 理屈がおかしいよ翼。


「うぬぬ……大地!お前他人事みたいに聞いてるんじゃねーぞ!お前が私の胸を揉めば済むだけの話なんだからな!」


 大地はジュースを吹いた。


「その理屈で言うなら私も学に揉んでもらうかな……」


 学は苦笑いしている。

 いいタイミングで注文した料理が来たようだ。

 我が家では食い物は絶対。

 3人とも黙って食べることに集中する。

 それを呆然と見ている水奈たち。

 そんなに見てもあげないよ?

 それより食べないと冷めちゃうよ?

 料理を食べ終わると家に送ってもらう。

 荷物を降ろして「ありがとうございました」と礼を言う。


「年末は無理だって言ってたな」


 渡辺さんが父さんに聞いてる。


「ごめん、さすがに出産予定日間近の愛莉残して飲みには行けない」


 父さんが申し訳なさそうに言う。


「まあ仕方ない。また落ち着いたら遊びに行こう」

「ありがとね」

「気にするな、じゃあな」


 そう言って渡辺さん達は帰っていった。

 荷物を部屋で整理するとベッドに横になる。

 

「さっき風呂場で確認したんだけどさ。美希ったら服脱いだら結構胸あるよ」


 そんなこと暴露していいのか?

 でもそんなに大きいのか……美希。


「今想像したでしょ?」


 翼はそう言って笑っていた。


「まあ、そんな事は置いておいてさ。美希から聞いたけどキスはしたんだって」

「うん」

「じゃあ、次のステップだね。また私がレクチャーしてあげようか?」

「それは無理だと思う」

「どうして?」


 僕は翼の後ろを指差した。

 翼は後ろを見る。

 翼の背後には母さんが立っていた。


「翼……ほどほどにしておかないと空の部屋に立ち入り禁止にしますよ」

「姉弟でいちゃついたらいけないの?」

「冬夜さんの気持ちも察してあげてください。小学生からそんな関係を持ったなんて知ったらどう思うか考えたことありますか?」


 母さんの言ってることはまともに見えるけど結構無茶苦茶だと思う。


「じゃあ、中学生になったらいいの?」

「……美希の気持ちも考えてあげたら?翼だって善明が妹といちゃついてるなんて知りたくないでしょ」


 ほらね、やっぱり無茶苦茶だった。


「やっぱり酒井君を攻略するしかないか」


 酒井君も大変だろうなぁ。


(2)


 私は石原家の家族の車に乗っていた。

 

「天音ちゃん楽しめた?」


 大地の母さんが聞いてきた。


「はい」


 私は返事した。


「それはよかったわ」


 会話が続かない。

 私から積極的に振ったほうがいいのだろうか?

 何を話そうか?

 無難なところから攻めてみよう。


「大地は夏休みの宿題終わった?」

「もうちょっとかな。言われた通り7月中には終わらせるよ」

「じゃあ、8月は遊べるね」

「それは大丈夫だと思う」


 8月は花火から始まってプールにカラオケ、ボーリング、ゲーセン……映画でもいいか。今度は私が選んでやろう。


「天音読書感想文どうした?」


 大地が話題を振ってきた。

 指定された本から一冊選んで読んで感想文を書く課題。

 率直に書くと「つまらん!」の5文字で終わってしまうんだけど400字詰め原稿用紙何枚以上って規定があるので適当に書くしかない。

 適当に流し読みして印象に残ったところを頭にあるだけの単語を繋ぎ合わせて書くだけの作業。


「もう終わったよ」

「ちゃんと読んだ」

「読むわけないじゃん」

「そうだよね……」


 大地は読書感想文で苦戦してるのか?

 ……まてよ?これはチャンスなんじゃないのか?


「大地、分かんないところあるなら教えてあげる。今度大地の家に遊びに行ってもいい?」


 我ながら良い攻め方だと思った。


「う、うちに来るの?」


 慌てる大地。


「何か来られたらまずい事でもあるの?大地」


 大地のお母さんが動いた。これで決まりだ。


「いや、特にないけど……」

「じゃあ、招待しなさいな。ちゃんとおもてなししてあげる」


 そう来ると思った。


「天音ちゃん、うちはお風呂も広いから大丈夫よ。2人では入れるわ」

「え、恵美!?」


 大地のお父さんが動揺してる。


「何か問題あるの?2人は恋人同士なのよ?泊ってくくらい当たり前でしょ」

「そ、それは片桐君にも許可を得た方がいいんじゃないかな……」


 大地のお父さんがそう言う前に大地のお母さんは行動してた。


「もしもし愛莉ちゃん?今度我が家に天音ちゃんを招待したいんだけど……大丈夫、うちの息子にも徹底しておくから”まだ孫は早い”って……」


 頭を抱える大地。

 大地のお母さんが電話終えるとにこりと笑った。


「これで問題ないわよね?望」

「そ、そうだね」

「そうね、私達外泊しておいた方がいいかしら?2人とも色々遠慮するだろうし」

「え、恵美まだ大地たちは小学4年生だよ?」

「馬鹿ね、望。大地がそんな真似するはずないでしょ。精々抱き合ってキスして寝るくらいよ」

「でもさすがに2人きりにするのは駄目だよ。美希を片桐君の家で2人きりにして大丈夫なの?恵美は」


 上手く切り返したように見えた大地のお父さん。


「空も美希を誘ったことはないみたい。だから私が空を誘ってみたわ」

「それで何て返ってきたの?」

「愛莉ちゃんが”小学生の間は大目に見てあげて”って」

「そ、そうなんだ……」

「小学生でも一緒に寝るくらいすると思ったんだけど違うのね」


 大地のお母さんは笑顔だった。

 大地と大地のお父さんは笑うしかなかった。

 私の家に着くと「じゃあ、いつでもいらっしゃい」と笑顔の大地のお母さん。

 こりゃ私もとっておきの下着準備するしかないな!


(3)


 うちの馬鹿もそうだけど学の父さんの運転も危なっかしいな。

 スマホを操作していても急な動作で手が滑ってしまう。

 学の母さんが注意しているが一向に聞かない。


「すまんな……」


 学が耳打ちする。

 それを見た遊が言う。


「ああ、今ひそひそ話してた!一々見せつけやがって!」

「遊!一々冷やかすんじゃない!男としてみっともないぞ!」


 学の母さんが言う。


「学はプールに行くのか?」

「いや、母さんたちが仕事で……」

「ごめんね、水奈ちゃん」


 そっか……じゃあしょうがねえな。

 けれどそれで諦める私じゃない。


「学、いいアイデア思いついたんだけど」

「ほう?どんなアイデアだ?」

「学は遊たちの面倒を見れる。私は学と一泊できるwin-winのアイデアだ」

「それはいいな、どうすればいいんだ」

「私を学の家に泊めてくれ」

「え?」

「は?」


 学と遊のリアクションが大体同じだった。


「しかし親御さんが黙ってないだろ」

「ああ、母さんなら問題ない」


 私はそう言いながら母さんに電話してた。


「もしもし母さん。今度の盆休みなんだけど……うん。サンキュー」


 私が電話を終えると学の母さんの電話が鳴る。


「もしもし神奈?……あんた大丈夫なの?……ああ、そういうことね。分かった」


 学の母さんが言う。


「神奈は実家にいるから問題ないってさ。いざとなったら誠君の親が面倒見てくれるって」

「これで問題ないよな?」

「しかし寝る場所がない」

「布団くらい予備あるわよ。学の部屋に敷いてあげる」

「それは母さんダメだろ?せめて恋の部屋に」

「粗相をするんでないよ」


 学の母さんが言った。

 私の家に着いた。

 車を降りると学たちは帰っていった。

 家に帰ると母さんが出迎えてくれる。


「亜衣から聞いたぞ。学と付き合う事になったんだって」

「うん」

「よかったな。まあ、多分父さんよりはましだろ」

「それ何の誉め言葉にもなってない」

「かもな」


 そう言って母さんは笑っていた。

 父さんが帰ってくると夕食になる。

 父さんにもその話を振る母さん。


「瑛大の息子って大丈夫なのか?神奈」

「お前よりましだって水奈も言っていたよ」

「……どこまで進んだんだ?」


 そういう事しか頭に無いのだろうか?


「キスくらいはしたよ。じゃあ、風呂行ってくる。ごちそうさま」

「まじか!」

「まあ、そのくらいするだろうな。あまり大切にしててもしょうがないだろ。心配するな、今夜はお前の相手してやるよ」


 なんだかんだ言って両親の仲はいいんだろうな。

 その証が母さんのお腹に宿っているのだから。

 私と学はいつまでいっしょにいられるだろう。

 私と学の物語はいつまで続くのだろう?

 そんなことを考えながら学が電話に出られる時間まで待っていた。

 いつもの時間きっかりにメッセージが返ってくる。


「すまんな、花火にも連れて行けそうにない。思い出を作ってやれない」

「今日作ったからいいじゃねーか」

「……ありがとう」

「それはこっちの台詞だ。ありがとな」

「ああ、それじゃお休み」

「おやすみ」


 こうして思い出を共有していくのだろう。

 いつまで続くのか、永遠を約束されているのか分からないけど、私達の物語はまだ序章でしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る