姉妹チート

和希

第1話 だれ!?

(1)


「空起きろ!!」

「うわ!起きてるって。ちょっと待って!」


 妹の天音は容赦なくドアを開ける。

 僕は着替えてる最中だった。


「なんだ起きてるじゃん。飯だから急げってよ」

「ノックくらいしろよ!」

「いいじゃん、今更隠さなくたって。一緒に風呂入ってる仲じゃねーか」

「着替えたら下降りるから先行ってろって!」

「つまんねーの。もうちょっとましなパンツ穿けよ。小学生だからって地味すぎるぞ。そんなんだから彼女ができねーんだよ」


 余計なお世話だ!


「……空。愛莉が呼んでる。急いだ方がいい。時間もぎりぎり。あと今度一緒にパンツ選んであげようか?」


 そう言ってやってきたのは姉の翼。姉と行っても双子なんだけど。


「あ、ずりーぞ翼!抜け駆けすんな!」

「同世代の方が趣味が合うと思って。それに私、空と”共鳴”できるし」

「それがずりーってんだよ!空を独り占めすんな」

「天音はできなくて残念ね。三つ子にしてもらえたらよかったのに」

「うぬぬ……」


 姉妹で言い合ってる間に準備が終わった。


「3人ともいつまでぐずぐずしてるの!?学校に遅れますよ!また空がお寝坊さんですか?」


 母さんが来た。

 母さんの名前は片桐愛莉。

 父さんとは10年間付き合って結婚して11年目の結婚生活を送っている。

 二人のいちゃつきっぷりは凄い。

 息子の僕が見てもドン引きするほどだ。

 でも夫婦げんかの絶えない家よりはましだと思う。例えば水奈みたいな家庭とか。

 多田水奈9歳。天音の同級生。天音とは仲がいい。父親がJリーグの選手。カッコいいから人気もあるけど夫婦げんかが絶えない。水奈を溺愛してる。

 父さん・片桐冬夜も昔はサッカーで”ファンタジスタ”と称されるほどの天才だったのだけど、なぜかやめてバスケットボールを始めた。

「バスケがやりたいです」って言ったら本当にさせられたらしい。

 父さんはバスケでも名選手だったらしくて日本バスケ史上初の金メダルをもたらした”日本バスケの神様”と呼ばれている。

 でも今はただの個人経営の税理士事務所の社長。大学時代に「金メダルを取ったらバスケ辞める」って言って有言実行したらしい。

 やることが一々かっこいいのになぜか母さんと翼と天音には頭が上がらないみたいだ。

「どうして?」って聞いたら「片桐家の男は皆そういう運命なんだ」って言ってた。 

 まあ、気持ちが分からないでもないけど。


「空!まだ準備できないんですか?夜のうちにしておきなさいって言いましたよ?」

「着替えてる最中に天音たちが乱入してきたんだよ」

「妹のせいにするんじゃありません!」

「愛莉。その事で話があるんだけど」

「どうしたの?翼」

「パパに話さないと意味無いから朝食の時に話す」

「わかりました。じゃ、3人とも降りていらっしゃい」


 そうして僕達は1階のダイニングに向かった。

 家は天音が生まれた時にリフォームしたらしい。

 2階には父さん達と翼と天音の部屋と僕の部屋がある。

 翼は同い年だからだと僕との同室を望んだらしいけど母さんが「天音はまだ小さいんだから一人だと可哀そうでしょ?」と説得したらしい。そう言う問題なんだろうか?

 1階にはLDKと浴室とトイレとお爺さん達の部屋がある。

 ダイニングと行っても7人が共有する大スペースだ。改築するだけでどうにかなる問題なのかと思ったけど。「大人の事情」ってやつなんだろう。

 7人が揃うと食事を始める。

 翼がコーヒーを飲みながら話を始めた。


「パパ。私達3人一緒にお風呂に入ってるでしょ?」

「あ、そうか。翼はもう気にするお年頃か」


 父さんは割と常識がある人だと思ってる。

 少なくとも母さんよりは。


「気にする事ねーって翼まだおっぱい小っちゃいじゃん!」


 そう言う問題じゃないと思うぞ天音。

 だけど翼の要求はそういうレベルじゃなかった。


「そう、小さいの浴室が」


 はい?


「なるほどね~」


 母さんが一人で納得してる。


「翼と天音だけで入ればいいんじゃないか?」


 父さんの提案は大体却下される。


「それじゃ空が可哀そうですよ。冬夜さん」


 ほらね。


「し、しかし空も色々気にするお年頃だろ?」

「……天音はもう大きくなったんだから一人で入ればいい」

「ふざけんな!お前ら二人だけで入るってのか!?」


 そもそも僕一人でって選択肢はないんだろうか?


「わかったわ、今度お風呂を大きくしてあげる」


 母さんに軍配が上がった。


「ありがとう」


 そういうと食事に戻る翼。

 呼び鈴が鳴る。


「多田ですけど。おはようございます」


 さっき話した天音の同級生・水奈が来た。

 慌ててご飯を食べてカバンを持って玄関に行く。

 ミディアムヘアをサイドポニーで纏めた背は天音よりも高く翼並みにあるスタイルのいい子が気が。

 と、言っても小学校4年生だからそんな色気のあるスタイルではないけど。

 水奈の母さんはモデル並みにかっこいい。

 僕達は靴を履いて家を出る。


「車に気をつけてね」


 母さんの声が聞こえる。


「いってきまーす!」


 天音の声が響き渡る。

 そして僕達は登校する。

 何を考えているのか分からない翼。

 盛り上がってるのは天音と水奈の二人。


「しかし桜子の野郎頭にくるよな!」


 桜子とは天音たちの担任水島桜子先生。

 父さん達の大学の後輩らしい。

 水島先生の旦那さんと父さんは同じ大学のチームでバスケをしていたそうだ。

 桜子先生には僕と同い年の娘がいるらしい。

 その娘には地元サッカークラブのチームに入れて英才教育をしているんだとか。

 ちなみに僕は球技全般がだめだ。

 運動音痴じゃないんだけど球技だけはどうしても出来ない。

 例外はあるけど。

 それは翼と一緒にいる時。

 翼と心の波長があったとき翼と僕の能力を「共有」出来る。

 僕達はそれを「共鳴」と呼んでいる。

 理由はなぜだか分からない。ただ「双子だから」で済ませている。

 僕の力がチートだ?

 こんなのチートのうちに入らないよ。

 翼はありとあらゆることを本や漫画テレビやゲームで「学ぶ」ことが出来る。

 翼に不可能はない。

 天音も翼ほどじゃないけど身体能力も成績もいい。挙句の果てに「歌姫」と呼ばれるほどの美声をもっている。

 しかも神の舌と言われるほどの味覚の持ち主でありとあらゆる料理を一口食べただけで再現する。

 小学校4年生のやることじゃない。

 だけど天音と僕は「共鳴」はできない。

 翼は「三つ子だったらよかったのにね」と挑発してる。

 天音はそれが悔しいらしい。


「話聞いてたか空!」


 あ、聞いてなかった。


「空はすぐ自分の世界に入る癖止めた方がいいぜ」


 天音が言う。


「ごめん。で、どうしたの?」

「桜子の奴、とかげを机の引き出しに入れておいただけで一人で怒り出しやがってよ」

「で、その日1時間説教だぜ!」


 天音と水奈が言ってる。

 思い出した。

 それで母さんと水奈の母さん・多田神奈さんが学校に呼び出し受けたんだっけ?


「どうせ自習だからって学校帰ってゲーセンに遊びに行っただけで親呼ぶしよ」

「この恨みどう晴らしてやろうか」


 そうこう話してる間に学校についた。

 昇降口で靴を脱いで靴箱を開ける。

 あれ?

 僕は動きが止まった。

 靴箱には上履きがある。

 当たり前のことだ。そこまでは。

 だが上履きの上に紙切れが入ってある。

 なんだろう?

 その事に天音が気づく。


「なんだよそれ!」


 天音が素早く手紙を取る。

 封筒には「空君へ」と書いてある。

 天音が中身をってよむ。


「なになに……”突然の事で驚いたでしょう。あなたの事が好きです。友達からでもいいので付き合ってください。放課後体育館裏で待ってます”……ってラブレターかよ!」


 天音が大きな声で叫ぶ。

 当然、周りの人間にも聞こえる。

 翼が天音の手からそれを奪い教室に向かう。

 僕は翼を追いかける。

 天音は4年生、校舎が違う。

 僕と翼は同じクラス……ま、大人の都合ってやつだろう。

 翼は自分の席に荷物を置くと僕の席にやってくる。

 そしてさっきの手紙を差し出して言った。


「それ、差出人書いてないよ」


 手紙を見る。確かに書いてない。


「悪戯なんじゃない?」


 その時感じた。

 翼が動揺してた。

 僕は「人の心が読める」なんて芸当は持ってない。そんなの知ってる人では父さんくらいだ。

 さっき説明した「共鳴」の能力で翼の感情を読み取ることが出来るだけ。

 いつもは平静な翼が動揺してた。

 どうしたんだろう?

 とりあえずは手紙の差出人を考えてみる。

 恥ずかしくて書けなかったか、ただの悪戯か?

 クラスを見渡す。

 僕の事を好きだなんて言うのは当然僕の事を知ってる人だろう?

 クラスの中で知ってる女子。

 まず一番は石原美希。黒い長髪をおさげにしている。彼女も頭が良いし美人だ。でもラブレターを書くような積極的な子じゃない。あ、でも差出人を書いて無いとはそういう事か?

 次が栗林麗華。翼とよく話をしている。でも彼女が恋愛とか考えにくい。

 同級生だとこの二人くらいか。

 その時気配を感じた。

 とっさに手紙を隠す。


「おっす、空。今何隠した?」


 話しかけてきたのは亀梨光太。


「別に何も?」

「なんか手紙っぽいもの持ってたじゃないか?」

「そろそろ席につかないと来るんじゃない?」


 翼がそう言うと、そっと入ってくる担任の高槻千歳先生。

 皆慌てて席に戻る。

 朝礼が始まって昼休みまでの間ずっと手紙の事を考えていた。

 妥当な線は誰かの悪戯。

 翼や天音にならともかくなんで僕?

 悩んでるのも無駄か。同級生で唯一の友達・光太に相談してみた。


「ラブレターってお前まじかよ」


 声がデカいぞ光太。


「で、誰なんだよ」

「それが差出人の名前が書いてないんだよ」

「……おまえの交友関係で考えられるのは同級生だと石原か栗林だよな?」


 同じ結論に達する。だけど光太はさらに考えていた。


「同級生とも限らないんじゃないか?ほら4年生の三沢とか多田とか竹本とか」

「4年生で恋愛って考えられるか?」

「女子は精神年齢高いらしいぜ。それに幼稚園でも誰かを好きになったりするだろ?」


 そう言われると確かにそうかもしれない。


「ま、放課後になれば分かるんじゃね?」

「……お前見学しようと思ってるだろ?」

「馬鹿言うなよ、そんな野暮な真似しねーよ。ただし後で結果教えろよ」


 そう言って光太は去っていた。

 放課後になれば分かるか。

 あんまり悩んでてもしょうがないな。

 悪戯だと思ったら馬鹿馬鹿しくなる。

 取りあえず放課後待ってみることにした。


(2)


 空にラブレター?

 誰から?

 空の交友関係なんて知れてる。

 空は友達を作るのが下手だ。

 多分パパに似たんだろう。

 空が女子と仲良くしてるなんて話聞いたことない。

 考えられるのは私の友達の美希か麗華。

 まさか違うクラスの人間?

 ……あり得ない。

 空は滅多に他のクラスに行かない。

 天音の友達?

 無いとは言えない。

 なんだろう?

 胸が苦しい。

 落ち着け、私達はまだ小学生。

 ただの友達でいましょうの可能性だって十分ある。

 考えるだけ無駄だ。

 そんな大それた関係になれるはずがない。

 空自身にその気が無いのだから。

「共鳴」の力を使えばそのくらい分かる。

 空は女子にまったく興味がない。

 男色とかそういうのじゃなくて恋愛に興味が無いんだ。

 まだ花より団子の年。

 でも、愛莉は言ってた。

 パパは小学校1年生の時から慕われている人がいたって。

 幸運にも4年生の時に転校したから愛莉にチャンスがあったんだって。

 パパは小6の時に恋をした。

 花より団子だったのに恋をしていた。

 空がそうなったらどうしよう?

 ……どうもすることない。

 私達は姉弟。

 絆が消えるわけじゃない。

 理解してるのに心が苦しいのはなぜ?


「ねえ、どうしたの翼ちゃん」


 え?


「翼ちゃんが給食残してるなんて珍しいから」

「あ、本当だ」


 急いでかきこむ。

 その様子を見ていた。美希と麗華は何かを感じたらしい。


「空君と何かあった?」


 美希が聞いてきた。

 この二人に話を振ってみるか?

 何かしらの反応があるかもしれない。

 二人に空のラブレターの件を話してみた。


「へえ、空君も隅に置けないね」


 麗華は笑っている。


「そうなんだ。それで翼が妬いてるの?」


 美希が言う。


「そんなわけない。弟だよ?」

「そうだよね……」


 美希のトーンが下がった。

 ひょっとして?


「美希まさか……」

「そんなわけないじゃない。いくら何でも親友の弟はないよ」

「そうだよね」


 麗華でもなさそうだけど。

 と、なるとやっぱり結論は一つ。


「悪戯か……」

「ま、そう考えるのが妥当なんじゃない?」


 麗華は言う。

 給食を食べ終えると片づける。


「逆にさ、翼は誰か好きな人っているの?」


 美希が聞いてきた。


「……特に興味ない」


 真っ先に空の顔が浮かんだけど敢えて伏せて置いた。

 空は晴れているのにこんなに浮かない気分なのはなぜなんだろう?


(3)


 空にラブレター!? 

 相手は誰だ!

 あの野郎、私の知らない間に女子に手を付けてやがったか。

 食い気しかないと思っていたら油断した!

 無性にイライラする。

 どんな女子か確かめてやらないと気が治まりそうにない。

 イライラして授業どころじゃなかった。

 授業?

 適当に聞いてりゃ大体分かるだろ。

 翼はどう思ってるんだろう?

 あの二人には「共鳴」って能力があるから分かり合ってるはず。

 そもそも翼は空の事どう思ってるんだろうか?

 まさか……しれっとしてラブレターを書いたのは翼なのか?

 ダメだ。

 いくら翼だったとしても絶対に譲れない。

 あいつは私のものだ。


「どうしたんだ天音。朝から機嫌が悪いけど?」


 水奈が休み時間にやって来た。


「また桜子ちゃんになんかやらかした?」


 なずなと花も来た。

 この3人に話していいものか?

 話してみて反応があればカマかけてみるか?

 私は3人に空がラブレターを受け取ったことを話す。

 水奈が大笑いした。


「空にラブレター!?」


 水奈の驚き方からして水奈でもなさそうだ。

 ただ、水奈の様子がなんかおかしいけど。


「でも天音は気になるんだね?どうして?」


 なずなが聞いてきた。


「それは……」

「それは?」

「……仮にも兄の恋人だぞ?気にするなって言う方がおかしいだろ」


 多分上手くごまかせた。


「まあ、言われてみると確かにそうだね」


 花は納得した。


「で、どうするの?」


 水奈に言われて私は考える。

 そして水奈の少し不安気な様子をみてあることを思いついた。 


「今度は何をやらかすつもり?」


 花が聞いてきた。


「空の相手をはっきりさせる、ちょっとおもしろい方法を考えた。ちょっと耳かせよ……」


 私がが言うと3人は耳を傾ける。

 決行は今日の放課後。

 きっちり確かめてやる!

 ついでに空を驚かせてやろう。


(4)


 放課後になると僕は鞄を持って教室を出る。

 天音が廊下で待っていた。

 翼と3人で帰るのが日常なんだけど……あれ?


「水奈は?」

「ああ、用事があるって言って先に帰ったぜ」


 天音が言った。


「じゃあ、僕も用事があるから二人先に帰ってて」

「私達がいたら何か問題あるの?」

「どうせ手紙の件だろ!隠し事は無しにしようぜ!」


 翼と天音が言う。

 確かに隠す事でもないか。

 姉妹だしな。

 考えた末、翼たちも連れて行くことにした。

 体育館裏にいく。小学生だ。タバコ吸ってる不良がいるわけない。

 ていうかこんなところに用がある人間がそんなにいるわけない。

 そーっと物陰から覗いてみる。

 女子が一人いる。

 悪戯じゃなかった。

 じゃあ誰?

 

「私達ここで見てるから」

「とっとといってこい」


 翼は険しい表情をしている。天音はなんか企んでそうな感じだ。

 でも、ここでじっとしていてもしょうがない。

 僕は彼女に近づく。


「すいません、この手紙くれたの君?」


 彼女は俯いたまま「はい」と言う。


「えーと君だれ?」


 ごめん。まったくオブラートに包むことなく直球で聞いてみた。

 彼女はゆっくりと顔を上げる。

 僕の知ってる女子だった。

 多田水奈。

 そういやあの時いなかった。

 驚いた。今までそんな素振り全く見せなかったぞ。


「あの手紙に書いてる事、本気なの?」

「ずっと空君の事見てました。大好きです」


 その時感じたのは背後にいる翼の怒りのオーラ。


「友達の兄だからって遠慮してたけど、もう我慢できない!」


 そう言って水奈は抱きついてくる。

 この流れはヤバい気がする。

 翼がものすごい怒ってる。


「水奈。ちょっと落ち着こう」


 落ち着かないといけないのはのは僕の方だけど。

 彼女は背が高い。小3なのに小5の僕と唇の高さが会うくらいだ。

 水奈の唇が接近してくる。

 これはまずい……。


「そこまで!」


 翼が飛び出して来た。


「悪ふざけもいい加減にしなさい!水奈」


 翼が怒ってる。

 天音は何も言わない。

 悪ふざけってどういう事? 


「空が困ってる。とりあえず空から離れなさい!」


 翼がこんなに怒ってるの見たことない。

 すると水奈は僕から離れる。

 笑いをこらえているようだ。

 そしてこらえきれなくなると笑い出した。

 腹を抱えて笑っていた。

 それを見ていた天音も同じように笑いだす。

 木陰に隠れていた竹本さんと三沢さんも笑い出した。


「ごめんなさい、ちょっとどっきり仕掛けてみました。てへっ」


 舌をちょこっとだす水奈。

 どういうこと?

 思考がついていかない。

 困惑しているのは翼も同じ様だ。

 落ち着いたらしい水奈が状況を説明する。


「私と花となずな以外誰も来なかったよ」


 4人で策を練ったらしい。

 どうせ同じクラスの誰かだろう。

 5年生の授業より4年生の授業の方が早く終わる。

 だったら先回りして誰が手紙をだしたのか確認してやろう。

 もし誰も来なかったらどっきりをしかけてやろう。


「水奈。そう言う揶揄い方趣味が悪いよ」


 平静を装っているが、翼は本気で怒ってる。


「天音に言われたからやってみただけだよ。空の反応見てたら笑えてきて……このままキスしてやろうかと思った」

「それは流石に私も許さないぞ水奈」


 そう言いながらもいまだに笑っている天音。

 そうか悪戯だったのか。

 なんだろうこの脱力感。

 空しさと寂しさと悲しみが同時に襲ってくる。


「なんて顔してるの空。悪戯だってわかってよかったでしょ」


 翼がそういってこつんと僕の頭を叩く。

 もう帰ろう。帰ってゲームでもして気を紛らわそう。

 そう思った時だった。


「これは一体何の騒ぎ?」


 誰かが来た。

 その場にいた全員がその新たな人物を見る。

 それは……

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