夢の国

hibari19

第1話

 枕元に置いてあるスマホが震えている。アラームかと思ったが違うみたいだ。無意識に手を伸ばし耳に当てた。

「彼と別れた」

 その声を聞いて、あぁまたかと思った。


「今何時?」

 目を開けたくなくて、スマホ越しに彼女に聞く。

「えっと2時45分だけど、ねぇ別れちゃったんだよぉ」

「うん、良かったじゃん」

 言ってから、しまったと思った。

 いつもは愚痴を長々聞いてやり、彼女の気持ちが落ち着いたころに言う台詞だ。そんな奴別れて良かったじゃんと。

 寝起きで頭が回っていなかったこともあり、また常々思っていたことだから、つい口が滑ったのだ。そんなやつらより私にすればいいのにと。


「えぇ、酷い」

 思ったとおり、拗ねた声が聞こえた。

「あぁ、ごめんごめん、またゆっくり愚痴聞くからさぁ、許してよ」

「じゃ、明日。じゃなくてもう今日か、一泊で夢の国へ付き合ってよ」

「ん……えっ?」

「7時に駅前集合ね、1秒でも遅れたら一生恨み続けるからね」

 ケラケラと笑いながら通話が切れた。


 行くなんて言ってないんだけどなぁ。

 はぁ、どうしよう。

 何着て行こう。

 最初から行かない選択肢なんてないに等しい。

 彼女のお願いなら一つ残らず聞いてきたし、これからも聞くつもりなのだから。

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