第3話
僕の頭は柔らかいモノの上に乗っていた。
暖かくていい匂いがする。
サラリと僕の頬を撫でるモノのくすぐったさも何だかいい。
「これは、イリスかな。」
「はい。アスカさん、魔族は逃げてしまいました。アスカさんが起きていれば、逃がしなどしなかったのでしょうが。申し訳ありません。」
僕は僕の頬を撫でていた髪の毛に触れる。
「構わないよ。僕が剣で圧倒できれば良かったんだけどね。それができなかったから仕方ない。」
枝毛もない、艶やかなな漆黒の髪。
僕と同じ色の髪。
この世界では呪いとも言える髪色だ。
黒髪は異端の象徴。
イリスの場合は異常な自己回復能力と、相手を回復させる能力。
更に、イリスに触れているコトで、自然と体が回復するというオマケ付き。
異端の象徴だけあって、黒髪の人間は嫌われる。
黒髪の女性は特に嫌われる。
なぜなら、国の半分を更地にしたのは黒髪のとある魔女だったからだ。
だから、生まれたら殺されたりすることもあるらしい。
「今日も、イリスの髪は綺麗だな。」
160cm程の身長にFはあろうかという胸、キュッと引き締まったウエストにプリッと柔らかそうなお尻。
お尻あたりまで伸ばした黒髪は、外人風の顔と黒髪のセットがなんだか新鮮だが、それでも黒髪という、僕の故郷を思い出させるその髪色が僕は好きだった。
特に、柔らかくサラサラとしているので、いつまでだって撫でていたい髪だ。
しかし、魔族の男は逃げてしまったらしい。
魔族の全員があれ程の戦力をもっているならば、僕は魔王の元へとたどり着けない恐れがある。
僕は立ち上がった。
いつまでだって、膝枕されていたいが、僕にもやるコトがある。
装備の点検。
傷ついている防具はないか。
刃はかけていないか。
切れ味が落ちていないか。
魔力伝導率に違いはないか。
重さに変化はないか。
動くのに変化が起きている部位はないか。
一つでも、1mmでもズレていたら、僕は死ぬかもしれない。
それくらい、僕は綱渡りをしている。
「イリス、ありがとう。君がいるから、僕は無理ができるんだ。前みたいにいなくなったら、今度は僕は死ぬかもしれない。だから、いなくならないでくれよ?」
点検をしながら、呟くように言う。
今の敵は相当強くなっている。
僕も昔に比べれば強くなったが、それも昔に比べればだ。
「はい。私の居場所はアスカさんの隣だけですから。それに、アスカさんこそ、私を捨てないで下さいね?」
「何を言ってんだ?イリスはもう僕のモノだ。イリスにはイヤだと言っても僕に着いてくる義務がある。」
剣を磨いていると、僕の顔が写る。
トス、と、僕の体に重みが加わる。
イリスの豊満な体が押し付けられた。
「そういえば、エリカやフェリティアはどうした?」
「今、食べ物を取りに行ってます。そろそろ、戻ってくると思いますよ。」
僕は魔法ではエリカの足元にも及ばず、剣技はフェリティアと素直に戦ったら100戦中99回負けるだろう。
使える魔法は幻影だけ。
他の魔法は魔法陣を描かなければ使えない。
これで勇者とは笑わせる。
「アスカ、食べ物取ってきたわよ…。って、アスカぎ起きたら、今日は私の番って約束だったじゃない!何、イリスが抱きついてるのよ!」
エリカがイリスを押しのけて、僕に抱きつく。
しかし、エリカのお子様ボディを押し付けられても、楽しくない。
エリカは145cm程度の身長で、胸は絶壁、尻もない。
上から下まで、引っかかるものがない。
「エリカ、アスカの体調を考えるともう少しイリスとくっつかせていた方がいい。エリカの魔法でそんな風になってしまったんだから、エリカが我慢しなきゃ。」
フェリティアが魚を数匹持って戻ってきた。
フェリティアは身長175cm程あり、かなり背が高い。
モデル体型とでも言うのだろうか、胸はCくらいはあるだろう。
クビレから尻への曲線がなんとも言えない。
「でも、フェリ!私の番なんだもん。」
「なら、上手く制御なさい。これで何回目なの?暴走させてるとは言っても、もう少し制御できるようにならなきゃ、使えるとは言わないわ。」
魚に木の枝を刺して、焚き火のところに、置く、チリチリと焼ける香ばしい匂いが徐々に漂う。
「ごめん…。」
「エリカ、言う相手が違うでしょ?アスカにちゃんとあやまりなさい。」
ぷくっと頬を膨らませながら、エリカが僕から離れて、僕のコトを見る。
「ごめんなさい。これからは、当てないように頑張ります。」
僕はそっとエリカの頭を撫でる。
少しずつ、エリカの機嫌が戻るのがわかる。
「アスカ、アスカが甘やかすから、エリカがそんなにワガママなんですよ?」
撫でて欲しそうに僕の手元を見ているのがわかるが、撫でてはやらない。
皆の前で撫でられるのは、恥ずかしいらしい。
「ごめんごめん。なんか、甘やかさなきゃいけない感じがするんだよ。」
エリカが怒っていると甘やかしたくなってしまうのだ。
「まぁ、いいですけど…。そういえばアスカ、今日はここで野宿するコトにします。流石に街に帰るには時間的にツライです。」
もう夕方とも言える空の色だ。
そんな色を見ると、僕の幼馴染を思い出す。
一条茜、アイツは本当に物語の主人公だった。
そして僕は友人Bか何かだろう。
僕の人生はアイツの物語の中のモブの一人が正解だったと思う。
「アスカ?」
イリスが僕を見つめていた。
「なんでもないよ。焼けてきたね。もう、食べてもいいだろうか。」
「アスカ、まだです。」
僕は茜が好きだった。
でも、そんな思いは捨てて、今はこの三人とも共に勇者を演じると決めたのだ。
「そっかー。久し振りにお肉が食べたいなぁ。今度、みんなで買って食べようね。」
僕が微笑みかければ、皆も優しく微笑んでくれる。
そんな、みんなを守れるようにならなきゃいけないだろうな、と思った。
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