第一章 千歳灯月

追憶 - 01

 はじめに食べた丶丶丶のは舌だった。

 閉じ込めていたあの子が、舌を噛み切って死んだとき。なんで食べたのかなんてもう覚えてない。味も忘れた。

 ザラザラして、グミより固くて、頭が痛かった。


 次は血。おなかを割ってあふれる血を飲んだ。

 その次は眼球。太腿、指、卵巣、胃袋、肺、心臓、脳味噌。


 ずっと吐き気を堪えてた。

 生きた人間を食べるのも、死体を食べるのもきもちわるかった。

 あの人丶丶丶はどんどん面白がって、楽しそうに笑って、私が苦しいと嬉しそうで。


 ——あの人?

 あの人ってだれだっけ。


 いつもそう、うまく思い出せないの。

 ここがどこで、私はなんでここにいて、なにをしていたのか。今日が何日なのか、ううん、今日丶丶がなんなのかもわからない。


 音もよく聞こえない、空もよく見えない。

 ただ、あの人の声がする。「今度こそちゃんとしろよ」って。

 あの人——誰かもわからない人。


 頭が痛い。


 なにも考えたくなくて、動けなかった。

 動いたら、立ち上がったら、ここでなにをしていたのか思い出してしまう気がした。


「——ずっと、一人でいたの?」


 女のひと。知らない人の声がする。

 ここに誰かがくるなんてありえないから、たぶん、幻覚なんだと思う。


 だから返事はしなかった。

 だって、本当はいない人だから。


「今日は冷えるね。寒かったでしょ」


 その人は、気付いたら隣に座ってた。

 血まみれの、どろどろの床に。


「なにがあったのか、聞かせてくれない?」

「————あ……」


 話したいことが、たくさんあった。ひとりじゃ抱えきれなかった、抱えたくなかったいろんなこと。

 話したら怒られるから、だれにも話せなかっただけ。


 本当はいない丶丶丶丶丶丶、この人になら——。

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