あなたに祈りを、星には罰を

藤原かふわ

プロローグ

古城と月と地獄と食人

 人里離れた山の奥、ずっと使われていない古城に、人が捕らわれているらしい。それも、一人や二人なんて規模じゃなく、数十人は巻き込まれているのではという話だ。


 救出に行った部隊は、無傷で生還した。ただし誰一人救出せず。

 黙って首を横にふる相原あいはらさんに、何があったのかなんて聞けるはずがなかった。


「地獄だと思ったよ」


 生還から五日経ったある日、ようやく相原さんが口を開く。


「初めに感じたのは異臭だ。門を潜る頃には嘔吐する隊員も出始めた。新人にはキツい現場だっただろう」

「——それで?」

「ああ——城の中はもっと酷かった。死体の山なんてもんじゃない。外れた腕、抉れた片目、溢れる内臓、全身に広がる火傷。床も壁もぐちゃぐちゃだった。かなり古そうな死体もあったから、突然ああなったわけじゃあないんだろうな」


 生存者がいないか城中の死体を漁ったんだと、悲しそうな顔で言う。


「いなかったんですか」

「……いたよ。奥の部屋で泣いてたんだ。泣きながら……人を食ってた」


 きっとそれだけじゃなかったんだろうな、と思った。あの相原さんがこれほど弱っているのだから、人を食っていただけヽヽじゃないんだ。きっと。


 助けに行こう。

 生存者が一人なら、私だって助けられる。場所はわかっているし。


 どうして助けたいと思ったのかはわからない。

 でも、この決意のおかげで、私の人生は明るくなった。


 古びた城の奥の部屋、まだ泣き続ける声をたどって、ひとりの少女と出会うことになる。

 私は少女の隣に座って、一晩、ただ話を聞いた。


「よかったら、私の家で続きを聞かせてくれないかな」


 少女は黙って頷くと、ゆっくりと立ち上がる。

 ひどく冷えて、静かで、明るい夜。その夜は、満月だった。

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