僕が殺し屋になった日⑦
目の前にいるベティも困惑した表情でアレクのことを窺っていた。 もっともそれ以上に困惑していたのはアレクの方だが。
「いや、意味が分からない。 俺には親なんて・・・」
震える声でそう言うと得意気になってケイシーは語る。
『俺が親じゃないっていうことはあの時分かったんだろう? 5歳ながらよく知っていたものだとは思うが、確かに俺はお前の親ではない』
「あぁ、俺には親なんてものはいない」
『そうなるとアレクはどうやって産まれてきたんだ?』
その問いに思考が停止した。
「どうやって、って・・・」
『アレクをこの世に産んでくれた本当の親は? 一体どこの誰なんだ?』
―――言われてみれば、確かに・・・。
―――ケイシーは俺の本当の親じゃない。
―――だとしたら俺は誰の子なんだ?
―――コイツが言うようにボスの子供だなんて、そんな・・・。
それを考えたことがないかと言われれば嘘になる。 育ての親。 ボスのことをずっとそう思って生きてきたが、本当の父親だったらよかったと何度も考えた。
ケイシーやアグネスと過ごした幼少期を思い出す。 あの時勢いに任せて殺しかけてしまったが肝心なことは何一つ聞けていなかった。
『何度も言うがお前の本当の父親はブラッドだ』
「・・・じゃあ母親は」
『母親はアグネスだ』
その言葉を聞いてベティと目が合った。
「はぁ!? アグネスは俺の母親じゃない! だってアグネスはコイツの・・・」
『お前は血液型から勘違いしたみたいだけどな。 違うのは俺だけだったのさ』
「そんな・・・」
ベティも電話の内容が聞こえていたようでこう言ってきた。
「アイル・・・。 ううん、アレクお兄ちゃん、どういうこと・・・?」
尋ねられるもアレクだってよく分からない。
『お前のボス。 本当の父親のブラッドはアレクを殺し屋に育てようとしたんだ』
ケイシーが語り出した。
『だけどアグネスは普通の子として育てたかった。 そこで意見が食い違った二人は離婚して関係を切ったんだ』
「ッ・・・」
―――じゃあケイシーは?
―――どうして自分は本当の父親だと偽っていた?
―――単純に子供には複雑な家庭の事情を伝えたくなかったからか・・・?
『アレク・・・! ソイツの話は聞くな・・・!』
その時通信からブラッドの声が聞こえた。 ブラッドが生きていると分かり一安心だが、それは今までに聞いたことのないくらいに弱ったか細い声だった。
「ボス!? ボス!! 大丈夫ですか!?」
アレクの発言を無視しケイシーは続けた。
『アレクとベティは兄妹だ。 お前は実の妹を手にかけるのか?』
その言葉にベティを見た。 しばらくの間見つめ合うも互いに何も言わない。 ただ不安気な瞳がアレクの心を見透かすように覗き込んでいた。
「・・・ボスを返して」
そして出た言葉はやはりブラッドを優先するものだった。
『では待ち合わせ場所を決めよう。 取引成立だ』
淡々と話が進んでいく中再びブラッドの声が聞こえてきた。
『アレク、コイツの話を聞くんじゃない・・・ッ! 俺のことはいいから娘を殺すんだ!!』
最後の力を振り絞ったような力強い命令。 ベティは怯えた目でアレクを見つめていた。
―――確かに命令は絶対だけど取引をしないとボスを返してもらえない可能性がある・・・。
「・・・ごめんなさい、ボス。 それはできません」
『どうしてだ!? 俺の命令を聞けないと言うのか!!』
「俺はボスの方が大事だから」
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