本屋
Totto/相模かずさ
第1話 本屋
祖母の店に正面から入ったのは数年ぶりだった。
足を踏み入れた途端に目に入るのは鮮やかに店内を彩るポップと、ずらっと並んだ本棚。
ずいぶん雰囲気が変わったね、なんて思った。
「いらっしゃいませ」
店の奥から低めの声がしてそちらに目を向けた。
バイトさんかな、背の高い男の人。茶髪にピアスをしていてデニム地のエプロンが微妙に似合ってない。
「こんにちは、私、静香です、えっと、電話で祖母から聞いてないかな。桜井静香」
「ああ、ばあちゃんから聞いてます。静香ちゃん。俺はバイトの望月悠人、大学一年です。ばあちゃん元気だったんでよかった」
孫の私の方が他人行儀だなんて、一年に一度しか会わなかった祖母の顔を思い浮かべた。最新の顔はつい先日だけど、そういえば老けたな。
祖母が倒れたのは二週間前。
病院に駆けつけた私たちを笑う様に元気な祖母の姿がそこにはあったけど、倒れた原因は重い段ボールを持ち上げた途端に起きたぎっくり腰。
ほら見た言わんこっちゃないと息巻く私の父や叔母に本屋を畳むことを迫られていたが、頑として首を縦に降らなかった。
「この店はアタシの命なんですよ」
それが口癖の祖母に、命を捨てろとは誰も言えない。
だったら後継者を用意して祖母は店番というのはどうだろうと、誰かが言ったらその意見が通ってしまった。
誰が継ぐ、お互いに顔を見合わせるかと思ったら、全員が私を見た。
そりゃそうだ、従兄弟の中で私だけが学生でこれからを選べる。
「静香ちゃん、高三よね、もうすぐ18歳」
「これから進学先決めるんだよな」
「俺が一時預かって、静香に引き継ぐか」
勝手に将来が決められていくのを静かに見守ることしかできなかった。
「大丈夫だよ、ばあちゃんも店も心配しないで。俺も手伝うし」
祖母に恩義を感じてるという望月さんが本当に色々手伝ってくれて、二人でこの店を切り盛りするようになったのは5年後のこと。
本屋 Totto/相模かずさ @nemunyo
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