どんな願いでも叶えてくれる本

!~よたみてい書

第1話

「お願いしますっ……!」


 どんな願いでも叶えてくれる本。

 この本屋の本棚のどこかに、その神秘的で不思議な力を持った本が眠っているという。

 だけどそう簡単には目にすることが出来ない。

 なぜならその本に導かれなければ、どんなに頑張っても見つけ出すことが出来ないのだ。

 それが今、出回っている有力な情報。

 

 その魅力的な本に惹かれて、様々な願いを抱いた者達がこの本屋に毎日訪れていたけど、誰一人として願いをかなえられたという情報は得られなかった。

 きっと全滅したのだろう。


 そしてこれからもう一人、魅力的な本に惹かれた者の数が増えるわけになる。

 だけどどうか、私で最後になって欲しい。

 違う、私が願いを叶えてくれる本に出合えた最初の人物になって欲しい。


 私は淡い期待を抱きながら、地面に描かれた魔法陣の上に足を踏み入れる。

 するとまるで宙に浮いているかのような感覚が一瞬体中に襲い掛かってきた。

 地に足を着けているのに、矛盾した感覚に頭がしばらく混乱している間に、どうやら本屋に転送できたみたいだ。


 気だるそうに店番をしているカット族の女性を横目で確認しつつ本棚の前に移動していく。

 ちなみに彼女の容姿だけはとても可愛らしく、特に尻尾と耳は魅力的だった。


 しかし、私はもっと魅力的なものを見つけ出さなければならない。

 どんな願いでも叶えてくれる本を探すために、本棚に詰め込まれている本をじっと睨めつけていく。


 すると一冊の本が、まるで私に見つけられたがっているような色合いで目立っているのが分かった。

 落ち着いた色の表紙ばかりの中に、薄紅色の本が混ざっていたら目が留まるのは必然だ。


 すぐさまその本に手を伸ばし、棚から引き抜く。

 そして中に願いを叶えてくれるための文字が書かれているのだろうと開いて確認する。


 しかし、そこにあったのは白紙。


 宣伝戦略に乗せられてしまった。


 私はため息をつきながら本棚に戻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どんな願いでも叶えてくれる本 !~よたみてい書 @kaitemitayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ