昭和一〇〇年、本屋より。

げこげこ天秤

お題:「本屋」

Q、いま人々は何に興味関心があるのか?




 その時々の流行を手っ取り早く調べるにはどうすればいいのかと、教授に問われたことがある。いま人々は何に興味があって、世間ではどういうものが流行っているのかと。友人が新聞記事を調べると言えば、教授は六〇点だと言った。私が世論調査をすると答えれば、教授は七〇点だと言った。テストの評価に直すならば、それぞれCB。足らない点数は何なのかと問うと、教授は悪戯っぽく笑った。


「君たちの答えは正しい。だが、僕はと言ったんだ。新聞のアーカイブを逐一チェックするにしても、世論調査をするにしても、手間暇がかかるからねぇ」


 誰にでも出来ることだ。教授はそうヒントを出したが、友人と私は教授の望む答えに辿り着く自信がなくギブアップした。思いつかないのかと、半分残念そうに、半分勝ち誇ったような表情を浮かべた教授は、模範解答を出した。



「本屋へ行くんだ。――中身まで読む必要はない。どんな本が並んでいるかを見るだけでいい。特に、入ってすぐの場所とかな。そこに、世間の興味は可視化されている」



 *****



 以来、私は本屋に足を運ぶときは、お目当ての物を探すついでに、どんな本が並んでいるかチェックするようになった。そして、教授の答えはおそらく正しかった。二〇二二年二月二四日を境に、店内に並ぶ本の表紙は戦争関連に様変わりした。


 教授は並んでいるものの変化を読み取ることで、未来も予想できると言った。二〇一〇年頃から書店で増え続けている異世界転生モノ。つまり、どうやらみんな異世界に興味関心があるらしい。その様子はGoogle Trendを見ても読み取ることが出来る。そして、その数は年々増加している。



 なぜ?



 この世がどうしようもなく救いがないからだ。「あの世」信仰を始めた一〇〇〇年前の日本もそうだった。二〇二五年でも末法思想が流行っている。

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