【実録】修羅の書店

マコンデ中佐

第1話 修羅の書店

 これは30年前の話。多少の脚色はあるが、全て実在の人物と実話を元にしている。


 都内某所に牙城を構える大型書店。その近隣にある居酒屋で定例となっている、通称「能登の会」には、書店業界にその人ありと謳われる猛者たちが集う。


 ビジネス書の神様と言われる北里きたざとは色の着いた眼鏡を掛けた無類の酒好きで、旅行先のホテルの大型テレビを破壊した前歴を持つ。怖い。


 実用書フロアのナンバー2である山井やまいは会の中でも一二を争う武闘派。内線電話の対応が悪いと「テメエだれだ」と下りのエスカレータを駆け上がり、女性スタッフを泣かせた前歴がある。怖い。


 俺の兄貴分は50人を超える若手で構成された「竹田派」の総長だったが、この山井はそのさらに兄貴分で、可愛がって貰った恩は計り知れないが、怒ると嘘みたいに顔が赤くなる。超怖い。


 文庫売り場を取り仕切る武森たけもりは、いつもニコニコと温厚な人柄だが、何かの拍子に怒った時にはギャップが凄い。やはり怖い。


 そしてたまに顔を出す支部の望田もちだ。明るい性格で良く喋る男だが、口調が乱暴でとにかく声がデカい。たまに来るので余計に怖い。


 この男たちに舎弟を加えたメンツで酒を飲むが、ビール以外は頼めない。一度水割りを頼んだら「スカした物を飲むな」と怒られた。ひたすら怖い。



 小さな出版社の営業に対して「こんなツマラン本を出していたらお前のところ潰れるぞ」と言い放ち。名だたる大出版社の営業も彼らには頭が上がらない。


 彼らはそれだけ、本を売れる男たちだった。


 そんな彼らは給料の多くを使って本を買い、読み、感想を戦わせる。


「お前、アレ読んだか。どう思った」

「良かったですよ」

「何がいいんだあんなもん!アイツはあんなもん書いてる場合じゃねえだろ!」


 アイツとは有名な作家の事だ。


「何が悪いんだこの野郎!」


 と始まると止まらない。一度などは口論が白熱し、相手を椅子で殴ろうとした事もある。怖すぎる。


 そんな修羅の中にあって、ただのオタクだった俺は随分と優しくして貰った。


 読んでいる本を聞かれて答えると「いい本を読んでるな」と褒めてくれたのは、涙が出るほど嬉しかった。多分、気を遣ってくれたのだろうけど。


 皆さんお元気ですか。自分は今、ラノベ書いてます。

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