第4話 親子関係

 出来上がったアツアツのポップコーンには、スキムミルクと砂糖を混ぜたものを振りかけて甘くしてみた。キャラメルソースがあれば一番だったかもしれないが、今あるものでおやつにできそうな味付けはこのくらいだから仕方ない。


 だが全員甘いものに飢えていたのかあっと言う間に食べ終わり、ミーヤは再び乾燥したコーンの粒を鍋へカラカラと入れることになっていた。


 出来上がりまでしばらくの間、今度こそ本当に対策会議と行きたいところだが、今のところ有用な話は出来ていない。そんな時、思いもかけぬチカマの言葉に驚くことになった。


「ミーヤさま? ボクも急に眠くなって倒れたことあるよ」


「えっ!? チカマは何か知ってるの?

 聞かせてちょうだい!」


「んとね、首領に首絞められたときかな。

 頭がぽやーっとして苦しくないけど眠くなってきてバターって倒れちゃったの」


「ちょっとチカマ!」


 ミーヤが恐る恐る全員の顔を見回すと、大体想像通りの顔をしている。


「ミーヤ? 首領ってどういうこと?

 もしかしてこの間の盗賊団の首領のこと?

 チカマと何か関係があるわけ?」


 なんと答えたらいいだろう。勘のいいレナージュ相手に下手なごまかしは通用しない。なにかうまい言い訳を考えるしかないが何も思い浮かばない。どうしたら……


「こないだのはボクのお父さん。

 最後は二つになっちゃったね」


 チカマああああ!! もうここまで来たら隠していても仕方がない。ミーヤは諦めて今までのいきさつを話しはじめた。するとレナージュもヴィッキーも、ナウィンでさえも咎めたり怪しんだりすることなくあっさりと受け入れてくれたではないか。


「なんだそんなことだったのね。

 親と子供は別の人格なんだし、別の人生送って悪いことなんてないじゃない?

 それに才能を授からなかったおかげで盗賊にならずに済んで良かったわよ」


「そうね、この間の討伐で相当数の盗賊が処罰されたわ。

 そこにいないで済んだなんて幸運としか言えないわね。

 王国は盗賊を野放しになんかしないんだから」


「はい、えっと、あの……

 親の言いなりは不幸です……」


 どうやら今まで隠してきたことに、なんの意味もなかったようだ。素性が知れると警戒されたり嫌われたりするなんて、この異世界では当てはまらないと言うことか。


「なんだ、心配して損しちゃったわ。

 私が考えすぎだったのね。

 今まで内緒にしていてごめんなさい」


「どうもミーヤは考えすぎるきらいがあるわね。

 私だって色々と経験積んできてるんだから大体のことは許容できるわ。

 もっと信頼してもらっていいのよ?」


「ありがとう、レナージュ。

 これからはちゃんと話して相談するね」


 ミーヤは安堵と感謝が入り混じった感情が溢れて来たからか、いつの間にか涙を流していた。レナージュはそんなミーヤをそっと抱きしめてくれたのだった。


「ホントあなた達ってことあるごとにベタベタするのね。

 もしかして珍しくもない当たり前のことなのかしら」


 そう言われてみるとレナージュとチカマとはすぐにくっついたり頬ずりしたりしているが、誰にでもするというわけではない。でも親しければそれほどおかしいことではないとも思っていた。


「もしかして姫様は羨ましいの?

 私が抱きしめてあげよっか?」


「結構よ、私はそういうの好きじゃないの。

 普段お父様にベタベタくっつかれて懲りてるのよ」


「へえ、王様ってそういう方なのね。

 一国の長でも娘には弱いなんて意外だけど安心したわ。

 好戦的な人よりもずっといいじゃない」


「そうでもないわ。

 負けず嫌いだからいまだにローメンデル卿をライバル視してるしね。

 もういい歳なんだから過去は水に流せばいいのよ。

 それなのに、どんなことであろうとジスコに負けるのは許せないみたい」


 レナージュとヴィッキーはどうも気が合うようで、良く二人で話をしている。気にしていないようにふるまってはいるが、実はイライザが一緒でないことで寂しい思いをしているのだろうか。


 そう言えばジスコでは今どうなっているだろう。フルルはともかくハルとモウブはちゃんとやれているか心配だし、酒場のおばちゃんも元気にしているか気になるところだ。


 ジスコもトコストもそれぞれにいいところがあるのだし、もっと仲良くできないのだろうか。かといってローメンデル卿が国王や王都を嫌っている様子はなかったので単なる逆恨みのようなものかもしれない。


「今回だって、新たな洞窟で資源や魔鉱採取が出来ることを期待してのものよ?

 近郊にはローメンデル山くらいしかいい狩場がないしね。

 獣が多い不帰の森だって近いってわけじゃない。

 その分安全な場所にあるとも言えるんだけど、お父様は不満みたいだわ」


「ローメンデル山だってそれほど遠くないじゃない。

 それにジスコには武具屋も無くなってしまったのよ?

 だから今後冒険者は王都を拠点とするんじゃないかしら」


「へえそんなことがあったのね。

 武具の流通が無くなったら困るでしょうにねえ。

 あなた達はどうしてるの?」


「困ってるからトコストまで来たのよ。

 でもあまりいいものは無かったわね。

 王都の武具屋でもヨカンドへ行けって言われたわ」


「そうよねえ、鉄製品は結局ヨカンド頼みなのが情けないわ。

 近くに鉱山があれば違うんでしょうけど、こればかりは何ともならないわね。

 それだけにこのバタバに期待しているってわけよ」


 そうだ、すっかり話がそれてしまったがあの謎の現象について対策を立てないといけなかった。ナウィンはすっかり元気で今や何ともないようだが、もう一度入っていったら同じことになる可能性は高いだろう。


「それで明日はどうするの?

 原因がわからないから対策のたてようがないかもしれないけど、このままってわけにはいかないわ」


「私はナウィンを置いていくべきだと思うわ。

 留守番はかわいそうだけど、また倒れたり大ごとになっても困るでしょ」


 レナージュの言う通り、今回は無事生還したが二度目も同じとは限らない。もちろん二度目が無いと言う可能性もあるが、環境の問題なら明日突然変化があるとは考えにくい。


「ごめ、えっと、あの……

 足を引っ張ってごめんなさい。

 私はここでお待ちしてます……」


「寂しいかもしれないけどそれが無難ね。

 錬金術の修行でもしながら待っててもらえる?」


「はい、えっと、あの……

 付いて行ってもお役に立てませんし仕方ないです」


 納得はしているようだがとてもさみしそうだ。ナウィンにとって冒険者への挑戦を仕切りなおす初の機械だったはずが、まさかこんなことになるなんて同情してしまう。


「もし危険を回避できる手だてが見つかったらまた一緒に入りましょ。

 今はまだ原因がわからないしからね」


 レナージュもいつになく優しく声をかけている。せっかく面倒を見ようと張り切っていたのにこんなことになって残念なのだろう。


 ナウィンのためにも早く謎を解明しなければ。それにはチカマの言ったことがヒントになる、のだろうか…… 首を締められたら誰でも苦しくて気絶するんじゃないのかな、と思った瞬間、ミーヤはある出来事を思い出しハッと息を呑んだ

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