『これが神々による異世界創造ゲーム!?:第六章』~ケモミミ獣人少女は未知なる洞窟を行く~
釈 余白
第六章 未知の迷宮と新たなる冒険編
第1話 飛び入り参加
トコスト国王との謁見があってから数日後、イライザはすでにジスコへ帰っていた。少し心細いがレナージュとは一緒だからまだ心強い。一番問題になりそうなのは戦闘能力皆無なナウィンだが、話によれば魔獣どころか動物一匹見当たらないらしいから平気だろう。
「今回は洞窟内の地図を書くことが目的だから頼んだわよ、チカマ。
ちゃんとできると良いんだけど」
「ボク地図描くの初めてだからわかんない。
でもミーヤさまのためにがんばる」
ミーヤがいつものように抱き寄せて頭を撫でていると、レナージュがそのミーヤごと抱えてミーヤの頭を撫でてきた。
「ちょっとレナージュ? 私はなにもしないのにそれでいいわけ?
甘やかしすぎだと思うのよねえ」
「だって見てたら羨ましくなっちゃったんですもの。
それにしたって、自分が甘やかされて不満を感じるのは不思議だわ」
「私は正当に評価されたいの!
なんでもかんでも褒められたらうれしいわけじゃないんだから」
「ボクは嬉しいけどダメ?」
「ううん、チカマはいいのよ~
だって私のために頑張ってくれるんだもの、偉いわね」
「ほーら、ミーヤなんてチカマのこと甘やかしすぎもいいとこじゃない。
だったら私がミーヤを甘やかさないで誰がするって言うのよ」
レナージュの屁理屈はまだだま続きそうだったがそろそろ出発の時間となった。今回は寝台馬車を手配してもらえたので旅路は楽になりそうだ。しかもさすが王都の貸馬車屋、二台編成の大型寝台馬車と言うものらしく、人も乗ることができるので時間も短縮できる。
荷物は特にないのでさっそく馬車へ乗り込んでみたところ、二台の中の椅子にはクッションも敷いてあっていたれりつくせりだ。手配してくれた人は、この馬車は王族がレジャーでビス湖へ行くときに使っているものと同型であると説明してくれた。
「流石王室御用達ねえ、立派な馬車だわ。
外側は普通の荷馬車みたいに質素なのがまた面白いわね」
「大衆から税を集めて贅沢してるって思われたくないんじゃない?
お城だって質素なつくりだし、その辺りは農民王と言われるだけのことはあるのかもね」
「ローメンデル卿も似たような感じだったものね。
なんにせよ上に立つものがおかしなことしないのはいいことね。
王様が散財して国が亡んだら困るのは民衆だもの」
「ミーヤ、いいこと言うねえ。
カノ村は村長が気難しい人だったから大変なこともあったのよね」
そう言えばレナージュは、父を早く亡くしたので若くして村を出たと言っていたが、実際には村での生活に嫌気がさしていたのかもしれない。カナイ村と言う故郷に恵まれたミーヤは、実は幸せ者なのかもしれず、その性質を見抜いて送ってくれた豊穣の女神が、急に有能に思えてくるのだった。
「それじゃ出発しましょうか。
本当に馬とナイトメアの二頭立てで平気なんでしょうね?」
「平気に決まってるじゃない。
ミーヤがナイトメアへ私の馬と足並みそろえるように命令すればいいだけよ。
上手くいかなかったらミーヤの責任よ?」
「もう、ひどいんだから!
でも遅い方へ合わせるのが当然だし仕方ないわね。
頼むわよ? ナイトメア」
ミーヤが命令するとナイトメアはいつものようにブルルンと返事をした。次にレナージュが自分の馬へ進むように指示を出すと、二台建ての連結馬車がゴトリと音を立ててから走り出した。今は無人となっているバタバ村までは馬車で三日ほどの距離だ。おそらく馬で向かった冒険者たちは先に探索を始めることだろう。
先行者有利なのは当然だけど、必ず何か見つかるとは限らない。でも国王が言っていたように本当に何もなかったらくたびれもうけの骨折り損だ。なんでもいいから何かしら発見したいものである。
「チカマはなにか知ってる?
その洞窟って前に言ってた隠れ場所みたいなとこのことじゃない?」
「わかんない、あそこは動物いたしね。
トカゲとかコウモリいたからお腹すいた時にも困らなかったもの」
初めてジスコで出会った時には飢え死にしそうなくらいだったのに、そんな逞しいこともできるなんて少し驚いた。それと同時に、街で盗みをしないよう心がけていたのだろうと言うことも理解し、いじましいと言うか偉いと言うか、とにかく抱きしめたくなって仕方なくなってしまう。
と言うか、なってしまう、ではなく、考えた時にはすでに行動しており、チカマを抱き寄せていい子いい子しながら馬車の揺れを楽しんでいた。
「あなた達っていつもそんな風にベタベタしているの?
もしかしてまだ若いのに恋人同士なの?
随分とませているのねえ」
「ちょっと!? いつの間に乗ってたのよ!
まさか黙って出て来たんじゃないでしょうね?」
「え? 城を出るのにいちいち断りなんて入れないわよ。
あそこにいても役立たずだし、私はいつも自由なの。
それに戦闘になることがあれば役に立てるはずよ」
「いや…… そう言う問題じゃないでしょ?
王族が勝手に冒険者へ着いて行ってもしものことがあったら大変じゃないの!」
ミーヤが慌てたのも無理はない。いつの間にか馬車の後ろから乗り込んできたのはヴィクリノ王女だった。レナージュに負けず劣らずのイタズラ顔で馬車へ乗りこんできたが、そのクルクルパーマの赤い髪は大分風に煽られたらしくおでこ全開である。
それにしても城に居たって役立たずとはどういう意味だろう。その言葉を口にした瞬間、ヴィクリノ王女の表情が少しだけ曇ったようにも見えた。
「まだ歩いて帰れる距離だから戻りなさい。
一緒に行って何しようって言うのよ」
「単なる暇つぶしよ。
お父様や兄さん姉さんと違って私は農耕ができないのよ。
農業王の一族として役立たずだから、普段は狩りに出るくらいしかやることがないってわけ」
なるほど、そう言う事情があったのか。だからと言って危険かどうかも分からない場所へ同行させるのは不味いのではないだろうか。しかしレナージュの意見は異なっていた。
「まあまあミーヤ、別に一緒で構わないわよ。
その代り王様にはお守り代をいただかなくっちゃいけないけどね。
なんといっても王女様の護衛なんだから高いわよお」
「なんていやらしい笑い方!
別に守ってもらわなくたってこの中じゃ一番強いと思うわよ?
まあでも食費くらいは出してあげてもいいわ」
「何言ってるのよ、ミーヤのご飯は高いわよ?
そんじょそこらでは食べられない者ばかりなんだから。
ジスコなんて、行列が絶えない店が何軒もあるくらいミーヤのレシピはすごいのよ」
「本当にそんなすごいなら相応の対価を支払うわよ。
でもまずは食べてみてからね。
今晩さっそくなにを食べさせてくれるのか楽しみにしているわ」
どうやら降りて引き返す気は全くないらしい。経験豊富なレナージュがいいというならミーヤが反対しても仕方ないし、諦めてうまく接待することでも考えるとしよう。
「ところでヴィクリノ王女様? 戦闘では役に立つと言ったけどスキルはどんな感じ?
私は弓と召喚術を主体にして戦うタイプよ。
ミーヤとチカマは近接専門かな」
「いちいち王女なんて畏まらないでヴィッキーって呼んでちょうだい。
私は神術も使える剣術使いよ。
あとは夜目が使えるから洞窟でも安心ね」
「じゃあ前衛三枚でナウィンを囲んでもらって、私は最後尾でいいかしらね。
今のところはなにも見つかっていないらしいけど用心はすべきだわ。
もう二度とあんな目にあいたくはないからさ」
レナージュが言っているのは、チカマが謎の大きな影に叩き落されたときのことだろう。ミーヤだってもうあんな光景は見たくない。だから油断はせずに緊張感を持って臨む、そう決意を固めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます