想い出の本屋たち

ささ

第1話 小さな本屋さん

今はビルの中にある大型書店が本屋さんと呼ばれますが、昔は街中のあちこちに小さい本屋さんがありました。

まだ電子書籍なんてなかった頃です。


色んな本屋さんがありました。

ドアを開けるとおばあちゃんがちょこんと座っている小さな本屋さんが近所にありました。

自転車で5分の近所。

あまりお客さんがいなくて、いても男の人が一人か二人でしたが色んな本があって私は好きでした。

児童書はなく、分からない難しい本が棚にびっしり詰まってました。

あんまり売れてないのかうっすら古本屋のような香りのする店内は10畳ほどで本がひしめき合ってました。

高い棚は迷路みたいで背表紙を眺めながらぐるりと本屋の中を周り、レジの前の平積みのマンガを買うのが楽しみでした。


子供心に「もしかしたらあんまり売れてないのかもしれない」と思い、月刊誌で買うりぼんやなかよしはそこで買おうと決意してました。


ある時隣の席の男の子が

「近所に本屋さん、あるよね」と聞いてきました。

あるよ、と答えると

「あそこの本屋ってさ…」と声を一段小さくして

「エロ本、売ってんだ。俺たちでも買えるんだ、だから有名なんだ」と教えてくれました。

「へえ…」と返すと

彼は満足したようにふふんと得意げな顔をしました。

私は学級委員でもエロ本買うんだなあ、としみじみと彼の顔を見つめ、後でそうだったんだ、だから男の人しか居なかったのかと納得しました。


私は本屋さんに貢献してたつもりで実は本を買いたい人の邪魔をしてたんだろうか…とちょっと悩みました。


その後、もっと近くにモールができてピカピカの本屋さんが入ったのもあり私はそっちでマンガを買うようになりました。


中学生になり通りがかりに本屋がなくなっているのに気づきました。

あのおばあちゃんは?

あの本達は古本屋に引き取られたのかなと寂しい気持ちになりました。


どうか同級生の男の子が何処かでいいエロ本が買えますように。

その後無事に本を調達できてたのかなあ、なんて思ったもんです。









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