お一人様で生きていきたいのに、前世の旦那様にロックオンされていて困ります

由友ひろ

第2章

番外編1 ハロルドとアイザック(BL)

❖ご注意ください、BLです。ネット書籍化記念。数日限定投稿です。






「アイン、俺、彼女ができた」

「は?」

「だから、彼女。パン屋のナンシー、知ってるだろ」


 ハロルドとは、家が近所の幼馴染だ。出会ったのは、六歳?七歳?ちょっとよく覚えていない。いつの間にか下町のワルガキの仲間入りして走り回っていたから。薄汚れたシャツを着て、破れたズボンを履いたハロルドを見て、誰も奴が貴族だなんて思わなかった。

 ハロルドは出会った時はソバカスだらけのチビだったが、全てにおいてワルガキ達の中で突出していた。遊びにおいても、喧嘩においてもだ。


 アイザックは、そんなハロルドを初めて見た時、雷が落ちたのかと思うくらいの衝撃を受けた。ソバカスだらけの顔から目が話せず、川に落ちて危うく流されるところをハロルドに助けられたくらいだった。

 最初は人間として好ましいんだと思い込もうとした。同性を恋愛対象に見たことはなかったし、それは特殊な感情だと思っていたから。


 けれど、年を重ねるにつれ、ハロルドのことを愛していると認めざるをえなくなった。かなり美形に成長したアイザックは、男女問わずよくモテた。でも、誰に対してもハロルドに対する感情以上のものを抱くことはなかった。


 僕は、男が好きなんじゃない!ハロルドが好きなだけだ!


 自分の感情を認めたアイザックは、とにかく勉強に剣術に努力を重ねた。ハロルドは貴族だし、なによりも同性だ。ハロルドの恋愛対象が女子だってことはわかっていたから、告白なんかするつもりはなかった。何よりも、親友として一番の立ち位置にいられればと思ったのだ。

 アイザックは持ち前の才能と努力の結果、特待生でキャンベル王国学園に入学し、ハロルドと同じ騎士科に進むことができた。

 さらには、一緒に騎士団に入団できただけでなく、同じ第三騎士団に配属された。騎士団にはペアという制度があり、行動する時は必ず二人一組で行う。よほどのことがない限り、このペアは解消されることはなく、だいたいは同期でペアを組む。

 アイザックとハロルドは、当たり前のようにペアを組んだ。


 アイザックは、ハロルドと一番近い距離にいる今の状況に幸せを感じていた。ついさっきまでは。


「最近パン屋に入った、胸の大きな娘だよな。金髪で青い目の」

「そうそう。少しぽっちゃりしてる目の大きな娘」


 アイザックは、ハロルドとほぼ一日中一緒にいると言っても過言ではない。アイザックの知らない間に、いつそんな娘と親しくなったのか……。アイザックは目眩で倒れそうになりながらも、かろうじて足を踏ん張り耐えきった。


「実はさ、先週ミック達と飲みに行ったじゃん」


 ミックとは同期の騎士で、仕事は真面目にこなすが、いつも女の子の話をしているような少し軽い感じの騎士だ。ハロルドは根っからの人好きする性格から、ほとんどの騎士とすでに仲良くなっており、ミックとも飲み仲間になっていた。


 先週、そう言えばミックとの飲み会にアイザックも誘われた。女子の話をふられるのが嫌でアイザックは断ったが、ハロルドは確かにその飲み会に行っていた。


 そこで知り合ったのか……。

 そう言えばあの日、ハロルドは朝帰りをしていた。まさか、その時に……。


 アイザックの嫌な想像が的中する。


「そん時さ、ミックがナンパした女子達の中にナンシーがいてさ、ちょっといい感じになって。エヘヘ、お持ち帰りされちった」


 エヘヘ……じゃない!


 胸やお尻の大きめな娘が好きだとは言っていたが、学園でも特に女子と友達以上になったことはなかったし、ノリで胸だお尻だと騒いでいるんだと思っていた。

 まさか本当に性的興味があったなんて……。いや、この年頃の男子ならば、興味があって当たり前なんだろうけれど、アイザックがハロルド以外の男子にも女子にも全く興味が湧かなかったから、ハロルドもそうだろうと勝手に思っていた。


「……やったのか?」

「おう!すんげー良かった。おっぱいとかさ、俺の手から溢れるんだぜ。柔らかくて、あの手触り、例えらんねえ。プルンプルンしてんの。しかもさ、彼女すげえ積極的でさ、初フェラまでしてもらっちった。まじ、天国だった」


 僕は地獄だよ。


 楽しそうに話すハロルドを見て、アイザックは心臓が凍って行くような気がした。ハロルドの脱童貞話を聞かされるとか、自分は前世でどれだけ悪徳を積んだのか。


「でさ、その日は三回やったんだけど、彼女ヘトヘトになっちゃって爆睡しちゃってさ。朝は仕事の時間もあったし、なんも言わずに出てきちゃったんだよな。そしたら、昨日彼女のパン屋に行ったらさ、やり逃げされたのかと思ったって、ポロポロ泣かれちゃって。そんで、まあなら付き合おうか的な。ニャハハハ」


 会ったその日に男を家に連れ込む女が、やり逃げされたくらいで泣くもんか。平民の女子の間では、騎士と付き合うことがステータスになっている。一番人気は第一騎士団だが、いわゆるステップアップの為に第三騎士団の騎士と付き合って、いつかは第一騎士団の騎士とお知り合いに!なんて、ふざけた女子も多いのだ。

 それに、騎士は体力だけは自信がある為、いわゆるヤリ友狙いの肉食女子も多い。平民の女子は「貞操?何それ?スウィーツの名前?」とか真顔でほざくくらい貞操観念が低いのだ。

 貞操観念が低いのは男子も同じで、確か学園時代の上級生に、片っ端から女子を口説いて関係を持ち、挙句の果てに婚約者に婚約破棄をされた男子生徒がいた。同じ騎士科の生徒で、その強さは本物だった。クズさ加減も本物だったが。


 ナンシーは本当にハロルドに惚れたのか、それともハロルドを利用しようとしているのか。


「でさ、今度ナンシーと三人で飯食わね?」

「僕も?」


 そんなの、まじで地獄じゃんか。


「俺の大親友って言ったら、あいつってば絶対に会いたいってさ」


 大親友は嬉しいけれど、付き合ったばっかりでもう「あいつ」呼びとか……。こんなに凹んだのは、いつ以来だろう。多分初めてだ。


「ルディはその子のことが好きなの?」

「まあ、かわいいなとは思うよ。おっぱい大きいし」


 それは、男のアイザックにはどうにもならない場所だ。胸筋は鍛えられても、どう頑張ってもハロルドの好みのタユンタユンのおっぱいにはならない。


「そっか。じゃあ、タイミングがあったら」

「俺らが合わせるって」


 俺ら……。そこには、アイザックは入ってないということに、アイザックは虚しさを感じた。






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