KAC20231 手と手が触れあってぼくらはー(歌謡曲)
きつねのなにか
ファン心理
高校の帰り道、私は毎日本屋に寄る。帰りに使うバス停とは反対側の本屋だ。
名は「たらしこみブックショップ」。何をたらしこんでいるのかは知らないけれど。
でも私はたらしこまれているかもしれない。
誰に?
彼だ。
「いらっしゃいませ-。あ、かおるさんこんにちは」
「こ、こんにちはー新刊を取りに来ました」
高身長、イケメン、アイドルグループの一員。
名を長谷部貴史と言う。
私の、彼氏だ。
なぜ彼氏になったかは話すと長いが、手と手が触れあって「あっ」となってからかな。まさか「あっ」から始まる恋が本当にあるとは思わなかった。
その当時はまだアイドルじゃ無くて、手のケアを行っていたかったからガサガサしていた貴史君の肌を今も鮮明に思い出すことが出来る。グヘヘ。
そのあとレジで魔法使いハリソン・ポーターシリーズ小説版のことで盛り上がり、売れないチンケな本屋(失礼)ということもあって長話をしてしまった。という所から仲良くなっていったのだ。
今、貴史君は現役の大学生で私は高校二年生。私が未成年なので、恋愛がバレると警察が介入してくるかもしれない。なのでお互いピュアな恋愛を楽しんでいる所だ。
無事に新刊を買って帰る途中、同じタカッシー(貴史ファンのこと)グループと道が同じになり後ろをついていくことになった。
前を歩いているタカッシーグループの人はあまり良い態度を取ってもらえなかったのかご機嫌斜めで、結構愚痴が出ていた。
その愚痴からぽろっと
「てえかー、貴史って大学の子とヤリまくりなんでしょー私も誘ってもらえないかなー」
「ちょっと、何嘘言ってんのよ!」
「検索してみなよ、貴史ファンの間では常識だよ」
目の前が真っ暗になった。なんてことだ、彼女達の話は本当なのか。
ここでスッとスマホを取り出して検索したら私もタカッシーだということがバレてしまう。
ぐっと我慢してお腹をぎゅっと押さえ込み、強い意志でバス停へ戻る。バスの中では少し泣いてしまった。
家についてから暗い気持ちで小説を書くためのパソコンを立ち上げる。
やることはもちろん先ほどの噂の検索だ。
アイドルなど芸能人には噂がついて回る。それがまだまだ新進気鋭クラスの売れる前の芸能人であってもだ。
貴史君の噂は本当にあった。「スクープ!新人アイドルが大学で夜の帝王となる」なかなか凄い見出しだ。でも推測でしか物事が書いてない。飛ばし記事だろう。これくらいの記事は彼の女になると決めたときあえて読みあさったから、心の傷にもならない。
それでも暗い気持ちが晴れずついには貴史君に電話までしてしまう始末。ネット通話だからお金はかからないけど時間はかかる。貴史君の時間を私に向けてしまいすぎてはいけない。でも……。
「ふうん、それで電話してきたんだ」
「だってさ、同じタカッシーなのに貴史君のことを根も葉もない噂で批判するんだよ、それがもう耐えられなくって。バスの中では少し泣いちゃったよ」
「優しいね、かおるは」
「こんな記事が出てもスルーできる貴史君は強いね。あ、明日睦月兄先生の新刊予約しにいくから。あと宇部先生のエッセイ本も」
「うん、僕も予約してるし、二冊購入希望って書いておくよ」
「いい、あたしが予約したいの」
「予約すれば僕と長時間おしゃべりできるもんね」
「もうっ」
今日もまた、たらしこみブックショップへ行く。本の予約と、素敵な彼氏に会いに行くために。
KAC20231 手と手が触れあってぼくらはー(歌謡曲) きつねのなにか @nekononanika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます