41話 シャリノル共和国

 国境の川に架かる長い緑の鉄橋を渡った。


ここから先は進行許可すら取れていない、クーデター発生中の国の路線だ。

目視で進行する。一応、シャリノル共和国側の入国手続き所へ停車したが、中央政府が機能していないので、現場では何の対応もできないようなので、エンチャンティア王国民の救出に向かう旨を伝えるだけ伝えて、返答を待たずに入国したが、混乱した現場の判断では隣国の王国紋章つき列車を制止することは出来なかったようで、特に問題なく通過した。


信号の誘導も、運行のバックアップもない路線を進むことになるが、最悪の場合には線路を離れて飛んでしまえばいいや、という相当雑な勢いで100キロで走り続けた。


前方に列車が見えてきた。シャリノル共和国の列車だな。では、こちらは急いでいるので、お先に失礼させてもらいますか。


加速開始、魔力ブースト全開!そして離陸!

列車はふわっと離陸して、そのまま上昇を続けた。眼下にシャリノル共和国の列車を見下ろし、姿が小さくなるまで飛行を続けた。


よし、着陸。線路の上ギリギリを低空飛行して、脱線防止の魔法を発動、さらに魔力ブーストをかける。

車体が大きく左下に引っ張られ、車輪と線路が接触した。


キキキキキキ―・・・


カタタタタン、カタタタン。


よし、着陸成功。


駅をいくつも通過したが、駅員もホームの客も、見かけない列車が猛スピードで走り抜けて行くのを、ポカンと眺めるだけだった。まぁ、彼らからすれば、見知らぬ列車なんかクーデターの騒動とは比較にならない位、些細な事だろうし。


研究所から送られてきたシャリノル共和国の路線図によると、あと3駅で、シュナイド王子たちが監禁されているイベント会場の最寄り駅だ。


タブレットに今日のイベントのパンフレットの写真が送られてきた。


エンチャンティアフェスタ 

シャリノル国交樹立50周年記念大会

会場 ロカディオ森林公園サンシャイン広場

出演者 ミーア、ロム・アラン

来賓 シュナイド王子


あ、このロム・アランっていうのがイケメン俳優なんだね。ボクは見たことないから知らないんだけど。


次に送られ来たシャリノル共和国の地図で確認すると、ロカディオ森林公園の入り口がロカディオ駅なんだな。会場のサンシャイン広場は、入口から徒歩20分って、大きい公園なんだな。


駅から離れてるんじゃ、線路が無いよな。どうするかな。まぁ、どうするって言っても、飛ぶか、公園内を走るかしかないんだけど。


ジリリリリ・・

魔法研との直通電話が鳴った。


「ヨネサキです。王国政府とクーデターを起こした暫定政府との交渉が決裂しました。そもそも彼らは諸外国との外交関係を拒否の姿勢です。よって、現時点を持って、王子と王国民の救出支援から、王子と王国民の奪還作戦に変更です。以降、王族と王国民を守ることが全てにおいて最優先されます。 あと、追加の情報です。他国の大使館からの情報ですが、大使館前には戦車が配置されているそうです。ですので、イベント会場の占領にも戦車が投入されていることが想定されます。十分気を付けて下さいね。では。」


え、戦車って、ボクは列車なんですけど・・。「では」、じゃないでしょ、まったく他人事だな。本当に技術研究以外に興味がない人だなまったくもー。


次の駅がロカディオ駅だ、作戦を考えないと。外交関係が絶たれた今、ボクは敵国の列車ってことだから、線路内に居たら見つけてくれって言ってるようなものだから、一旦線路から外れて森林公園に入ろう。


駅が見えてきた。あまり高く飛行すると目立つので、線路から外れるために軽くジャンプする程度で、一瞬離陸すればいいだろう、加速して離陸! そして即加速停止。


ドスン。


列車は失速して線路脇の広場へ墜落する。ただ、墜落と言っても、線路から少し浮いただけで、ちょっと跳ねた程度の衝撃だったので損傷はない。

少し公園の中へ入ったところで停車して、線路外停車装置を起動してみる。列車の下から、ふわぁぁっとコバルトブルーの輝きが出てきて、列車の下と周囲の地面がコバルトブルーの光に代わった。絆石と全く同じ、再現出来たんだ。これは便利だぞ。地図を確認すると、サンシャイン広場まではメインの道を真っ直ぐ進めば着くらしいけど、堂々と正面から近づく訳にはいかないから、別のルートを探さないと。一旦、じゃぶじゃぶ池へ向かって、そこからサンシャイン広場のメインの道とは反対側に出るな、これで行こう。

まずはじゃぶじゃぶ池へ向かって進行。

公園内の客が驚いてこっちを見てる。そうだよね、公園の中を漆黒の黒に黄金のラインが入った、隣国の王国紋章をつけた列車が走ってるんだから、びっくりするよね。

じゃぶじゃぶ池に到着した。池の周囲を半周して、サンシャイン広場へ続く道に入る。

広場が見えてきた。かなり大きい芝生の広場だ。そこに屋外ステージがあって、数か所、テントが沢山並んでいるエリアがある。 正面入り口に近いテントエリアは、エンチャンティア食べ物の看板が出ているので、食事エリアなんだろうな。うわ、その向こうには戦車だ。あちゃぁ、戦車5台もあるじゃないか。3台が広場の外に向けて、2台が広場の中へ向けて配置されている。

王子とみなさんはどこに監禁されているんだろうか。食事エリアのテントには居ないようだ。屋外ステージにも人が居ない。 少し離れたテントエリアは、エンチャンティアの名産品とかを売ってる物販エリアみたいで、ここにも人は居ない。ん?まさかとは思うけど、広場の中へ向けて配置されてる戦車の砲塔の先のテント・・

居た! 大勢の人がテントの中に居て、周囲の地面に有刺鉄線がおかれている。


これって、シュナイド王子とエンチャンティア王国民に銃口を向けてるってことだよな。もう絶対に許さないぞ。


まずは王子に銃口を向けている戦車を片づけて、次に残りの戦車が反転攻撃してくるまでに始末する。あとは全員を乗せてエンチャンティアへ帰る、と。簡単に言うとこんな感じだな。 

で、もう少し具体的に言うと・・・どうやって列車が戦車を片づけられんだ。どうやってあの装甲を破るのか。装甲は固い、破れない・・。


そうだ、今はボク一人じゃないんだった。

魔法研との直通電話でヨネサキ所長を呼び出してもらった。


「ハイ、ヨネサキです。」


「シュナイド王子たちを発見しました。でも、戦車が5台配備されてます。こいつらを無力化する方法はありませんか?」


「もう、王子たちを発見できましたか、とりあえずはご無事なようで安心しました。で、戦車の対処方ですね? そもそも戦車は対車両攻撃の専門兵器ですから、列車には最も分が悪い相手です。ではどうするか、上空から攻撃です。ただ、王室列車に武器はありませんので、思い切って砲塔部分に着陸してしまいましょう。そうです、着陸して、戦車を押し潰しながら車輪で砲塔を轢いちゃうんです。そうすれば、砲塔部分が壊れる、砲塔が曲がる、着陸の力と車両の重さでキャタピラが壊れて走行不能になる、衝撃で機関系がこわれる、のどれかが発生して、結果、攻撃力を奪えるでしょうね。では。」


でた!「では」、後は他人事スペシャル。でも、なるほど、流石技術研究者、絶妙な案だね。では早速行きますか。

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