42話 救出

 離陸距離を稼ぐために一旦じゃぶじゃぶ池まで後退した。

さぁ、王子、みなさん、待っててください!


ボクの頭の中の出発信号機が進行表示に変わる。

「王室2号列車、出発、進行!出力最大!魔力ブースター全開!」


ぶわぁぁぁぁ・・・


強烈な加速Gと共に一気に離陸速度まで加速。よし、離陸!

そのまま雲を抜けるまで上昇して、広場に向けて急降下開始。


戦車の砲塔が回転して、上空に向けて射撃をしてくるが、高射砲ではなく、単なる砲弾(徹甲弾)なので、直接被弾しない限り被害はないから弾の無駄遣いにしかなっていない。計画通り、まずは広場の中へ向けて配置されてる2台へ向かって降下角度を調整、叩きつけるように砲塔の上へ着陸だ。


王子!皆さん!今行きます!

魔力バリア展開。 大きく警笛をならして、ミュージックホーン吹聴。


「ふぁーーーん」

「パー、パララッパパ―、パララパァァァ―。」


砲塔すれすれ上空、加速停止!


ガキッ! グキキキキキ・・・


車輪が砲塔を引っ掻き、押し付けて轢いていく。

続けて2台目の戦車の砲塔にも車輪が乗った。


列車は戦車に跳ね返されては押し返すを繰り返しながら戦車2台の上を通り抜けて地面へ着陸したが、そのままタッチアンドゴーの要領で再度急加速で急上昇させる。

眼下の戦車を確認すると、1台は砲塔が車体から外れて転がっていて、もう1台は砲塔がへの字に折れ曲がって、左のキャタピラが壊れたようで左半分を地面にめり込ませてしまっている。やった、成功じゃないか! このまま続けてもう一撃、外を向いている3台へ向けて着陸開始。


ガキッ! グキキキキキ・・・


1台目の砲塔へ車輪が接触。しかし、2台目、3台目は1台目から距離をとるように急加速で移動を始めた。くそっ、これでは複数台まとめて着陸して潰すことが出来ないな。仕方が無い、1台づつキッチリと潰すか、どうせ残りは3台しかないんだから。


戦車の上を通過、再度急加速、急上昇。


次、2台目! お、ジグザクに移動しながら逃げ始めた。もう対策を取ってきたか。

でも大丈夫。こっちは複数車両が連結された列車だ。高度さえあっていれば、あとは列車を左右にスライドさせて、列車のどこか一部の車両でも砲塔に接触すれば良いだけなんだから簡単だ。


先頭車両が砲塔に接触する寸前、戦車が大きく左に避けた。列車も左向ける。すると定石通り、戦車は右に急転回した。はい、引っかかった。列車は先頭が左に向いても、後続車両は先頭車の通った後をトレースするのだから戦車が元の位置に来たところで後続車両の車輪の餌食になった。


グキキキキキ・・・ ガコンッ


戦車が斜め方向へ進んでいたため、バランスを崩したようで、ゴロンとひっくり返ってしまった。


残り1台!


これはもう、どうせこのまま本当に着陸するんで、思いっきり押し付けてやる!

よし、今だ、加速停止! 列車がぐっと下がる。失速した。


ガキッ! グキャキャキャキャ・・


大きな軋み音が響く。


そのまま地上に着陸。後ろの戦車は、砲塔が変形して、車体は半分地面に埋まってしまった。


あとは急いで救出と脱出だ。


列車は有刺鉄線を踏み越えて、人質が居るテントの前に停車した。


「シュナイド王子、お迎えに参りました。」


王子が列車へ向かってくる。


「キミが王室2号列車か。1号列車よりも魔力が多いと聞いてはいたが、列車が飛んで来るとは想像もしなかったよ。ご苦労だったね。列車が来てくれたという事は、エンチャンティア王国の民も救出してもらえますね。」


「イエス、ユアハイネス。シュナイド王子、王室関係者は先頭車両をお使いください。皆さんの車両は今準備致します。」


車両増車!


ふわぁぁ。


車両が次々と現れる。人数はざっと1000人程度、飛行することが想定されるので、全員着席するため、2両目以降の車両は普通車座席仕様にして、席数を稼いだが、それでも、先頭の王室専用車両と合わせて11両編成になってしまった。


2両目以降の車両に車内放送を流した。

「全員乗車されましたね。この先、クーデター政権による妨害が想定されますので、しっかりと着席下さい。」


1両目、本来の王室専用車両へも出発する旨の報告をした。

「シュナイド王子、出発致します。この先もクーデター政権による妨害が想定されますので、やむを得ず急加速、急停車することが御座いますことをあらかじめお詫び申し上げます。」


「こんな状況だ、それは当たり前だよ。私のことは気にせず、最大限、王国民を守ってほしい。」


「イエス、ユアハイネス。出発致します。」


さぁ、守る人数が増えたし、無茶も出来ないぞ。守りは攻めより難しいぞ。


「出発、進行! 目標エンチャンティア国境!」

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