37話 車両

 「うおぉぉぉ!」

ヨネサキ所長とエンジニアたちが歓声を上げた。


「えー、凄い! なんでですか?」


「魔法の波長を解析して、こちらで王室専用列車のイメージを書き込んだ装置を作ったんです。後はこちらで、仕様も装備も設定できますので、これで王室専用列車は完了です。」


「そうか、実際に施工をする必要がないんですね。」


「そうなんです。それが魔法のメリットで、だから予定が読めなかったんです。では引き続き、違うイメージの列車の実験に移りましょう。今度はあなた自身の車両の増車をしてみてください。」


「はい、増車します。」


ふわぁぁ。


あれ?漆黒の黒に黄金のラインが入った車両が表れた。


「もう一度お願いします。」


増車をイメージ。


ふわぁぁ。


やっぱり漆黒の黒に黄金のラインが入った車両が表れた。


「この装置では他の波長にも干渉してしまうようですね。わかりました、修正してみます。では、こちらでは引き続き調査をさせて頂きますね。」


「あれ?もう、波長とかの解析は終わったんじゃ?」


「はい、波長の調査は終了です。能力解析、魔力調整等、調べきれてないことは沢山あるんですよー。」


あ、またヨネサキ所長の口角が上がった。


車輪を回して、ブレーキかけて、魔力を全開で放出など、色んなデータ収集が続いていた。改修とか、調査とか、待ってるだけなんで、退屈でしょうがないんじゃないかと思ってたけど、結構やること多くて、想像以上に忙しいんだな。


ヨネサキ所長が小さな装置を持って戻って来た。

エンジニアたちが装置を取り付け、実験開始。


「まずは王室専用列車を増車しましょう。」


王室専用列車の増車、と。


ふわぁぁ。


漆黒の黒に黄金のラインが入った王室専用列車の車両が表れる。


「はい、大丈夫ですね。では次は貴方の車両の増車をお願いします。」


増車、増車、と。


ふわぁぁ。


ボクの車両が出てきた。


成功だ!


「ヨネサキ所長、成功ですね!」


「えぇ、ただ、これは実は2パターンを書き込んで切り替えてるだけで、貴方がイメージするこれ以外の車両の形が制限されてしまうんですよね。」


「でも、他の列車にはなりませんよ?」


「実用的にはそうですね。私たちは引き続きその辺の研究も続けますけど。」


出た、研究者魂。


「2パターンの切替が出来たので、貴方の通常モードの内容を決めて作成に着手したいのですが、どんな感じが良いですかね?」


「そうですね、色々と考えてはみたんですけど、クラクトン線で運行するなら、他の列車と差をつけてもお客さんが混乱するだけなんで、基本は同じデザインが良いんじゃないかと思うんですよね。」


ヨネサキ所長はポケットからメモを取り出した。

「貴方の希望を尊重しますが、一応、王室から必須要件が届いてまして、読み上げますね。以下を列車内外に明示すること。1.王室所属の列車を示す王国紋章。2.クラクトン侯爵のナイト章 3.王国軍の金獅子勲章 4.クラクトン名誉市民章 うわ、こんなに勲章もらったんですか。凄いですね、流石ヒーロー列車だ。」


「いやいや・・・正直あんまり、こういうの付けるのって好きじゃないんですけどね。」


「まぁ、わからないではないけど、勲章は与えた方の力の誇示でもあるからねぇ。」


なるほど、そういう考え方もあるのか。


「でも、これだけ勲章類があるんなら、車両デザインは今のままで、これらを綺麗に配置するだけでも十分すぎる程貫禄ある列車になると思いますね。もっと勲章が増えるかもしれないし。」


「そうですよね。基本デザインは変えない方向でお願いします。」


「わかりました。では、その方向でデザイン専門部署に依頼して仕上げてもらいますね。こちらは引き続き、能力解析、魔力調整をやりましょうね。」


ほらまたヨネサキ所長の口角が上がった。


数日後、研究室に装置が届けられた。

この装置に2パターンの車両データが書き込まれた完成品らしい。


早速エンジニアたちが取り付けて確認テストを始める。


漆黒の黒に黄金のラインが入った王室専用列車の車両、問題なし。

さて、次が新、ボクのオリジナルだ。

増車!


ふわぁぁ。


今と同じ形、同じ塗装の車両、前後部分中央に王国紋章、その一段下左側にクラクトン公爵ナイト章と金獅子勲章、右側にクラクトン名誉市民章が掲げられている。車両の両側にも車両中央部に王国紋章、その下にクラクトン公爵ナイト章と金獅子勲章、クラクトン名誉市民章が並んでいる。


「うわ、インパクト十分過ぎますね、これ・・・。」


「ま、見た目より中身が重要ですからね。これで外装は完了、と。後は性能向上、追加の装置が出来次第、搭載して改修完了ですので、あと1週間、来週の金曜日に完了予定です。」


あ、この人、やっぱり研究以外にはまったく興味無しだ。まったくもう。

まぁ、今まで通りのデザインなんで、これで良しとするかな。どうせ勲章は外せないんだし・・。


「わかりました。その追加の装置ってどんなものなんですか?」


「そうですね、今回の調査で分かったいくつかの魔法を4つほど装置化しています。魔力の電池化、魔力ブースター、魔力バリアー、そして、絆石を応用した線路外停車装置、これらが成功すれば、王室専用列車は王族の強い盾と矛になりますよ。」


意外と真面目なものを作ってたんだな。失礼ながら、もっとトンでも的なものが出来るかと思ってた。疑ってすみません・・。


「たしかにそれは凄いですね。それって、現王室専用列車にも装備されるんですか?」


「もちろんその予定です。ただ、汎用の装置というわけにはいかないので、現王室専用列車の魔法の波長等で調整が必要だと思ってます。そうですね、彼が入庫してる間も、貴方が王室専用列車を担当できるので、運用調整が楽になりましたね。」


ヨネサキ所長はエンジニアたちの方を向いた。

「さぁ、あと1週間、ラストスパートです。王室魔法研究所の威信にかけて成功させましょう!」

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