36話 改修

 さて、次はあの仰々しいゲートだな。


ヴワー、ヴワー、ヴワー。

警戒音が鳴り、ゲートの枠が赤く点滅しながらゆっくりと左右に開く。


最後は魔法研究所線のゲート、と。


ヴワー、ヴワー、ヴワー。

警戒音、枠が赤く点滅するゲートの開放、ホント厳重だよね。


地下に入って、研究所のホームへ停車する。


「こんにちはー。」


ヨネサキ所長と10人位のエンジニアがやってきた。


「ヨネサキ所長こんにちは。改修、よろしくお願いします。ところで、改修期間ですけど、未定で、結構長いかもって聞いたんですけど、どんな感じなんですか?」


「うーん、それがですねぇ、本当に未定なんですよ。どうするか、大体のプランはあるんだけど、実際には現物合わせというか、個体の状況次第なんで、予定が立たないんですね。」


「そういうことですか。ちなみに、大体のプランっていうのは教えてもらえないですか?」


「えぇ、もちろん。今回考えてるのは、2つのモードを切り替えられる列車です。一つはもう決まっていて、貴方の場合は王室専用列車として運行する可能性があるから、漆黒の黒に黄金のラインが入った王室専用列車モードです。もちろん内装も現行の王室専用列車と同じレベルですね。そして、もう一つのモードは普段の運用で使うモードなんだけど、それをどうしようか、まだ正直ノープランなんですよね。」


「まだノープラン?」


「えぇ。2つのモードを切り替えることが出来るのか、出来るとしても、どの程度できるのかが分からないですからね、プランのしようも無くって。ほら、貴方が増車した時には、元の車両と同じ車両が増車されたでしょ? それを2つのモードで切り替えられないか、調査と実験してみないわからなんですよ。」


ん?ヨネサキ所長の口角がわずかに上がったぞ。


「もしかして、改修は口実で、調査と実験が目的じゃないですか?」


「ドキッ。するどいなぁ。でも、だって、ここは魔法研究所だもん。」


あーあー。もう開き直っちゃったよ。


「ほら、貴方だって、キミの魔力や魔法に興味があるでしょ。」


確か、ヨネサキ所長は、元東京中央技術科学大学の助教授だったよな。職業技術馬鹿ってことだもんな。


「ま、確かに、ボクも魔法研の研究員ですしね。」


「ご理解、ご協力に感謝します。では、早速調査始めますね。 はい、皆さん作業開始、お願いします。」


車体各部のカバーが外されて、点検整備の時とは違う色んな検査装置が取り付けられて、車体の左右からは移動式のレントゲン装置のようなもので挟まれた。


「これらはね、魔法の流れを見るための装置でしてね、これで、魔力の発生源や魔法の属性を分析するところから始めるんです。」


ヨネサキ所長、目が輝いてるよ。ホントにこういうの好きなんだな。

ボクが辛くても特急運転してて楽しかったのと同じ感覚なんだろうね。


それから1週間、検査が続いて、ヨネサキ所長は複数のモニターが付いたデスクの前で腕組みしたり、頭を抱えたりしながらうーんうーん言っている。解析が難しいみたいだな。


ヨネサキ所長は定期的に状況を説明してくれていたが、内容は常に、調査中、難しい、ばかりだったが、今日はついに、何かがあったようで、顔がほころんでいた。


「ついに見つけたかもしれません。魔法の波長の違いが分かったんです。わたしは、これを実証するために実証実験装置を作ることにしますので、しばらく工房の方へ行っていますね。検査はこのまま継続しますので、何かあれば、チーフエンジニアのカイランを呼んでください。では。」


相当興奮しているようで、ヨネサキ所長は小走りに研究室を出て行ってしまった。


 3日後、ヨネサキ所長が大きな装置を抱えて研究室に入って来た。


「できましたよ! 早速取り付けますね。」

あぁ、本当に嬉しそうだ。


エンジニアたちが装置を取り付けて、ヨネサキ所長がモニターデスクの前でしばらく何かをしていたが、急に立ち上がった。


「よし!見えました!」


小走りにボクの方へ走って来た。


「魔法の波長が測定できるようになったんですよ。ここから先は貴方の協力が不可欠です。是非ともよろしくです!」


「協力、ですか?」


「はい、貴方にはこちらが指定したイメージを思い浮かべて貰いたいんです。その魔法の波形を収集して解析するんです。突破口が開きましたよー。」


その後、1週間ほど、指示されたものをイメージして、データ採取する工程が続いていた。 飛ぶ、泳ぐ、走る、位は理解できるとしても、山の中の一軒家とか、無人島のヤシの木とかになると、なんの実験だか訳がわからなくなってきたし、月からみた地球とか、深海魚と泳ぐ、とかはイメージすら湧かないでしょって笑ってしまった。


その後、ヨネサキ所長がまた工房へ籠った後、小さな装置を持って帰って来た。


早速エンジニアたちが装置を取り付けた。


「できましたよ、やってみましょう。まず、増車します。その時に、王室専用列車の増車をイメージして下さい。」


「え、でもボク、王室専用列車見たこと無いからイメージ湧かないですよ・・」


ヨネサキ所長が王国の紋章が描かれているノートを見せた。

「それが大丈夫なんです。貴方が考える王室専用列車のイメージで良いんです。ただ、何もないと難しいかもしれないので、これをお見せしますね。これが付いた列車をイメージして、増車してください。」


そんなぼんやりしたことで良いのかな。

この紋章の列車、この紋章の列車、と。


ふわぁぁ。


漆黒の黒に黄金のラインが入った車両が表れた。


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