25話 臨時特急、クラクトン・シー行

  停車位置に停車すると、駅長が自らアナウンスを始めた。

「お待たせ致しました。この列車はクラクトン・シー行き、タマミちゃん専用臨時特別急行列車です。運行を担当致します列車は、生徒たちのため、勇敢にも魔物の城へ乗り込んで救出に多大なるサポートをしてくれたクラクトン線の17号列車です。」


生徒たちと一緒に柔和な表情でグレイヘアーな初老の女性がやってきた。

「わたくし、この子たちの学校のの校長をしておりす、モラレスと申します。この度は、生徒たちを救出頂きましてありがとうございました。」

それに続くように、生徒たちが口々に、ありがとうと言ってきた。


わざわざ挨拶しに来てくれたんだ。

「いえいえ、無事でよかったです。タマミちゃんはクラクトン・シーまでちゃんとお送りしますのでご安心下さい。」


タマミちゃんは駅長に何度もありがとうと言ってから、列車に乗り込んだ。

よし、乗車完了、ドア閉め。


駅長が再びアナウンスをする。

「クラクトン・シー行き、タマミちゃん専用臨時特別急行列車、発車します。」


「17号列車、ありがとう、お疲れ様、キミは鉄道の星だよ。では、特急運行につき制限速度開放、100キロ。進行許可。」

いつもはクールな出発信号機だけど、こんなことも言うんだな。


「ありがとう。出発、進行! 制限100。」


ぷわん。


軽く警笛を鳴らして発車すると生徒たちが手を振って見送ってくれる。


「また来週ねー。」

タマミちゃんも窓を開けてみんなに手を振り返している。カタタタン、カタタタン。


特急運行の100キロで順調に進んでいる。

タマミちゃんは一番前の座席に座って、キャンプで作った料理の話をしてくれている。魔物に捕まった後の話をしないのは、やはりまだトラウマなんだろう、早く心の傷も癒えて欲しいな。


カタタタン、カタタタン。

列車は順調に進んでいる。


セレスティア駅が見えて来た。


ホームの駅員たちが手を振っている。


ぷわん、ぷわん。


特急通過待ちの普通列車が警笛を鳴らした。

あ、9号列車じゃないか。


ぷわぁん。

ただいまー。


ぷわん、ぷわん。

9号列車がまた警笛を鳴らした。


ありがとう、師匠の教えは役に立ちましたよ。今度車庫で会ったら、いろいろ話聞かせてあげますね。


ふぃーん


甲高いホイッスルの警笛の音、あ、魔法機関車だ。居た、待避線に貨物列車が居た。


ぷわぁん。

ただいまー。


セントブリッジ駅が近づいた。

もちろん今日の列車運行では停車駅ではないけど、特急停車駅なので、通常全列車停車が運用だから、出発信号は停止のはずだ。速度を落としてホームへ入線する。あ、やっぱり停止信号だ。

停止位置へ停車するがドアは開かない。今日のお客様はクラクトン・シーまで下車しないからね。


駅長と駅員がやってきた。

「17号、大活躍だったんだってね。クラクトン線の皆が大騒ぎだよ。これは大ニュースになるぞ、クラクトン・シーの17号列車って。」


「クラクトン・シーが有名になって、観光客が増えたらいいっすね。乗客増えたら、路線も駅も列車も改修して、1級路線に格上げされるかも! そうしたら俺、1級路線の駅員っすよ。」


「なんだかお前の話は素直に納得できないけど、クラクトン線の乗客が増えてくれるのは素直に嬉しいねぇ。」


「えぇっ。ボクがニュースに? 洗車してもらっておかないと。 アハハハ。」


駅長がボクの車体を軽く叩いた。

「とにかく、ご苦労さんだったね。キミは本当にクラクトン線の誇りだよ。なんたってクラクトン線のお客様を助けに行ったんだから。さ、あと少し、頼んだよ。出発だ。」


出発信号機が呼んでいる。

「17号、お疲れ様だったね。終点までもう少し、最後まで頑張って。制限速度開放、100キロ。進行許可します。」


「出発、進行! 制限100!」


カタタタン、カタタタン。


次の停車駅は、クラクトン駅。ここも同様に特急停車駅なので、出発信号が停止になってるはずだからね。

クラクトン駅の停車位置には駅長が立っていた。


「17号列車、ご苦労様だったね。クラクトン線の守り神だな、キミは。さっきクラクトン市長からも、ありがとうって伝えてくれって電話があったよ。最後の一区間、安全運行で、よろしくお願いしますよ。」


「よっ、我らがヒーロー列車、ラスト1区間、制限速度60キロで進行許可だ、ありがとうな!」


「了解。出発、進行!制限60!」


カタン、カタン。


次は遂に終点のクラクトン・シーだ。

踏切を超えて、小さな鉄橋を渡って、見えた!・・駅だ。


ホームには駅長と、やっぱり明子おばあちゃんが立っていた。


ぷわん。


軽く警笛を鳴らして、ゆっくりと入線し、停車位置に停車させた。


「タマミちゃん! お帰りなさい。17号列車ちゃん、ありがとう、ありがとうね。」

明子おばあちゃんが泣いている。


「ただいま、明子おばあちゃん!」

タマミちゃんも明子おばあちゃんの手を取って泣いている。


タマミちゃん、怖かったよね、頑張ったよね。本当に無事で良かった。ボクも頑張った甲斐があるよ。


駅長がボクの車体をバンバン叩いている。

「おい、やってくれたな! 凄いじゃないか。 カスティリア中央の駅長から連絡があったぞ、魔法が覚醒したかもだって? いやぁ、驚いたよ。ウチの路線からねぇ。凄いよ、凄い。凄すぎるよ!」


「いやぁ、必死だったんで、何が何だか分からないうちに魔法が使えるようになったんですよ。だって、怖かったですよ、魔物、でっかい魔物がいたんですよ。」


しばらく、駅長と話をしていたが、タマミちゃんと明子おばあちゃんがやって来た。

「17号列車ちゃん、わたしがタマミちゃんをお家まで送っていくわ。本当にありがとうね。」

「17号列車さん、ありがとう、またね!」


終わった。これで本当に任務完了だ。

さて、ボクはどうするんだろう?

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